第6話 囲い込み
あの日以降、すぐにプレイヤーの囲い込みが始まった。
社会的地位や広い人脈を持つ者が何かしらのギフトを手にした場合、その有用性にすぐ気付くことができるだろう。
組織的にプレイヤーのスカウトが行われた。プレイヤー集めに動いていた小規模な組織も、更に大規模な組織に組み込まれるようになり、ピラミッド構造のようなプレイヤー管理組織が出来上がった。
これはタレントをマネージメントするような事務所の様相をしていたが、実態は違った。この組織は強力なプレイヤーを中心とした上層部の独裁によって運営され、徐々に暴力団のような内部構造に変化したのだ。
大規模な組織は関東と関西に1つずつ出来上がった。
この2つの組織は民間企業間の係争や行政機関の働きに干渉を起こすようになった。
人類が予測できない力を持つ彼らに抵抗するための有効な手段はほとんどなかった。
これに民衆の大半は気づかなかった。そうして、水面下のうちにプレイヤー集団の勢力図は固まりつつあった。
「つまり、この縄張り争いの中にクロちゃんも巻き込まれていたってわけ」
白馬がグラスに酒を注ぐ。グラスの底に張り付くように栗色のスコッチが揺れる。
「あんたらも、その組織に参加しているのか」
「いいや、俺やゆうかも誘いは受けたけど、集団生活が嫌いで入らなかった類だね」
「集団とかっていうより、極悪商事や非道ファイナンスに参加するのは吐き気がするってだけ」
「なるほど、じゃあ、2人はなんなんだ」
白馬とゆうかは顔を合わせる。
「ボニーとクライド」
「バットマンとスーパーマン」
「まともに答えてくれ」
「じゃあ、阪神と巨人だ」
「ちがうね、ロシア正教と英国国教会だよ」
黒崎は頭を振る。なんなんだこいつらは。しかし、わかったこともある。
「今はまだ答えられないってことか」
白馬が口の端を上げる。
「そう、さっきも言ったけどクロちゃんをスカウトするかもしれない。そうなったら説明がある」
「私から見たらクロちゃんは落第点だけどね、補修もなし」
「で、誰からスカウトされるんだ」
「ボスがね、もうすぐ来るはずなんだけど」
鈴の鳴る音が背後からした。バーの扉を押し開けて入ってくる男がいた。
男は傘を畳みながら黒崎の隣へ立った。
「初めまして、こいつらの上司だ」
初老の男は分厚いスーツを着こなし、力強い目をしていた。
「黒崎です、初めまして」
「どうせクロちゃんとでも名付けられただろう、白馬君、25年を」
白馬はグラスを用意する。男は黒崎の隣の席に腰かけた。
「君をスカウトするかどうか今考えている」
「俺はなんの説明も受けてないけど」
「君に入るか入らないかを案内しているわけではない、入れるかどうかをこちらが判断するだけだ。わかりやすく言えば君に選択の余地はない」
「脅迫じゃないか」
「帰っても構わない、君をさらいに来た男たちが近くで待ってるだろう」
男のもとにグラスが差し出される。
「入る資格はあるはずだ」黒崎は男の前のグラスを手で覆い、グラスをしまい込んで消した。
「なるほど、面白いギフトだ」
「応用だって効く、何をやるかわからないけど戦力にはなるはずだ」
男は少し笑った。上体を動かして黒崎の瞳を覗きこむ。体の末端に緊張が走る。
「君はすでに、あるギフトの干渉を受けている。それが何か気づくことが出来れば合格、わからなければ不合格だ」
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