第5話 ゆうかとクロと白馬

着いた先は薄暗いバーであった。

女は店主に何も言わずに棚からビールを取り、飲み始める


「あなた、もうちょっとしっかりしてよ」

女はカウンターに肘をついて黒崎の顔を伺っている。

「まあまあ、大変でしたね、あなたも」

小太りのおっさんがグラスを差し出す。白髪交じりの髭をなでている。

「酒は飲めないんだ、ありがとう、お兄さん」

「白馬って呼んでくれればいいよ」

白馬は黒崎に出したグラスを引き寄せ、口に含んだ。


「こっちの姉ちゃんがゆうかさん、あなたを追いかけて助けてくれた」

白馬がグラスを持った手で女を指す。

「名前はなんていうの」

「黒崎です、喫茶店の時の人ですよね」

「そうだよクロちゃん」

ゆうかは分厚い財布を出し、中から名刺を取り出した。


「クロちゃんに渡した名刺、あれのお陰でクロちゃんのギフトがわかったわ」

「ギフトって、いや、わかった。変な力のことか」

ゆうかがうなずく。


「私があげた名刺は直後にあなたの家へ瞬間移動してたわ。人があげたものをすぐに家へ送っちゃうなんて教育がなってないわね」

「荷物が多いのはいやなんだ」黒崎は名刺を取り出し、天井の照明にかざす。


「GPSとかじゃないよ、白馬君のギフトなの」

「俺のお陰で、クロちゃんのギフトがどういうものか大体わかっちゃったわけ」

白馬は黒崎を人差し指と中指で指差し、目をつむる。頭をゆらゆらと揺らしながら語り始める。


「パソコンのパスワードは映画のパクリだ、わかるよデヴィッドリンチはパクりたくなる。スマホの4桁のパスワードは押井守のパクリだね。映画の趣味はどうかと思うが、知性は感じさせる。君が配達員の仕事を始めようと思ってやめたことも知ってる。性癖は俺と大かた同じだ。仲良くしようクロちゃん」

白馬が握手を求めてくる。


「遠い知り合い程度にしておきたい」

「とにかく、クロちゃんのことはなーんでもわかってるってこと」

ゆうかは空のビール瓶を黒崎に投げつけた。咄嗟に上半身で覆いかぶさるように受け止める。


「便利なもんね」

「家に瓶が行ってもゴミになって困るだけなんだけど」

黒崎は瓶を取り出し、カウンターの上に置いた。


「なんで俺をここに」

「あなたを守るため」

「そしてスカウトするため」

ゆうかが白馬を睨む。白馬がおどけた顔をして少し下がる。

「スカウトは未定、というより私から見たらあなたは落第点だし、むしろ人の足を引っ張りそうで見てられないわ」

「何もわからないうちに低く評価されているようだな」

「ええ、でも守るのは本当よ」

「何から守られるんだ」


ゆうかが口をつむる。答えたくないというより、答えるのが難しいといった様子であった。

白馬がコーラを持ってきて、黒崎へ差し出す。黒崎は瓶をあおった。

「俺からわかりやすい説明をしてあげよう」白馬が語り始めた。


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