06
side:M
大人しくオーナーの隣に腰掛けると、お前も大変そうだなといった視線をオーナーから向けられる。
その視線にへらりと笑い、視線をテーブルに移すと空になったロックグラスがコースターの上に置かれていた。
オーナーはいつもお決まりのお高いウイスキーをロックで飲んでいたようだ。
そんなに、お待たせしたわけではないはずだけど空になってるという事はオーナーもお疲れさまってことなんだろうなと思いながら、グラスのアイスを変えてウイスキーを注ぐとマドラーでグラスの中を混ぜ、グラスにつた水滴をハンカチで拭ってコースターへと置く。
そんな私を見計らってなのか、タバコに手を伸ばしたオーナーを見てテーブルに置いたあったマッチを手に取り火をつけてオーナーに差し出す。
そういえば、あの二人はどうしてるのかなと思って視線を向けると仲良く楽しそうに話していた。
ただね、新人ちゃん……流石にオーナーにほとんど背を向けるようにしてるのはどうかと思うよ。
てか、オーナーに挨拶してないし。
オーナーの顔が怖いのはわかるけど、挨拶はちゃんとしようよ。
今までの子も、さすがに挨拶はちゃんとやってたよ?
めちゃくちゃ怯えながらだったけどさ。
ちらりと、オーナーをうかがってみるとまったく気にしてる様子はない。
この人、身内には優しいんだけどそうじゃない人にはたぶん冷たい人んだと思うんだよね。
店のレギュラー陣や長く続いているバイトの子たちのことはそれなりに気にかけてくれてるんだけど、長く続かない子とか何かしら問題がある子には我関せず。
オーナーがどうこう言わなくても店長が問題がある子はやめさせたりしてるからそうできるんだとは思うけど……。
新人ちゃんも、アウトかなぁ。
お客さんを顔で選ぶようじゃ、このお仕事はやっていけないと思う。
「ええー!!いいんですかぁ」
「いいよいいよ、今日は俺のおごりだからじゃんじゃん飲んでー」
え、いや……ここはオーナーが払う流れんじゃないのかな?
一応、こんな空気ですけど!
接待ってことなんだろうし?
「あ、真白ちゃんも好きなお酒じゃんじゃん飲んでな」
「あ、ありがとうございます?」
いや、まぁ……いつも通りに好きなものを好きなだけいただく予定でしたけど、オーナーから。
隣に座るオーナーの顔をうかがうと別段気にした様子はなくウイスキーを煽っていた。
オーナーが気にしてないならいいか。
息子さんも新人ちゃんにお金持ちアピールでもしたいんだろうし。
私はお言葉に甘えて好きなものじゃんじゃんいただきますか。
「私、最近お酒を飲み始めたばかりであまり強いお酒って飲めないんです」
「じゃあ、スクリュードライバーとか飲みやすくていいよ。真白ちゃんは?」
「あ、私はワインいただきますね」
新人ちゃんのお酒も決まったようだし、呼出のベルを鳴らすと外で待機していただろう店長が部屋の中へ入ってくる。
中に入ってきた店長は、私たちの座ってる位置を見て一瞬驚いた顔をしていたが、直ぐに驚いた顔を元に戻し私の側に膝をついた。
「愛華ちゃんは⋯⋯」
「私はスクリュードライバーで!」
「私はいつものワインお願いします」
私たちの注文に笑顔で答えた店長は、素早く部屋の外へと出てドリンクの準備をしに行った。
それにしてもスクリュードライバーって、お持ち帰りしたい男が女の子に飲まずレディーキラーカクテルで有名なやつだよね。
もう完璧新人ちゃんのアフター狙いって感じですね、息子さん。
私は、スクリュードライバーよりルシアンが好きだけどなぁ。
カカオの風味がいいんだよねぇ。
さて、止めるべきかどうか悩んだけど、学生と言えど彼女ももうお酒を飲める年なわけで、そういう男女のことは自己責任だと私は思ってる。
お客さんと寝るもよし寝ないもよし。
ただ店に迷惑だけはかけるなよってことだよ。
それにカラダの関係ができたお客さんは長続きしないからなぁ。
もう、本当に自己責任。
オーナーの取引の邪魔にならなきゃそれでいいんじゃないかな。
まぁ、少々のことなら大丈夫でしょう。
彼が取引相手と言うよりは彼の父親が取引相手な訳だし。
寧ろ、こっちに来なくてよかった。
息子さんの相手をしてくれてる新人ちゃんには感謝だわ。
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