05
side:M
「失礼いたします。大変お待たせいたしました」
何この空気!!
入った部屋の中は、空気がとても冷たかった。
特にオーナーの周りが……。
そして一番異質なのは、そんな絶対怖い顔してるはずなオーナーをものともせずぺちゃくちゃ話している男だ。
どんだけ鈍感なんだよ。
てか、あの男はオーナーに何を話してんだよ。
「おっそい~。いつまで俺を待たせる気だよ?」
待たせたのは私たちが悪いはずなんだけど……なんだろう?
この少しむかつく感じ。
少し長めの茶髪をきれいにセットしていて、振り向いた顔はイケメンだった。
そんな顔を見た瞬間、オーナーを見てすぐに私の後ろに隠れていた新人ちゃんがずいっと前に出てきた。
「すみませぇん!!真白ちゃんがもたもたしちゃって遅くなってしまいました。私は早く行こうって言ったんですけどぉ」
「へぇー……」
私が悪いといったように言う新人ちゃんの言葉に茶髪のイケメン……取引先の息子さんはわたしの方をちらっと見る。
まぁ、私がメロンを食べてたから遅くなったていうのはあるんだけどさ?
私なんか待たずに店長が適当に新人ちゃんを紹介してつけとけばよかったんじゃないかな。
ちらっとオーナーに視線を移すと、いつも通り顔は怖いんだけどオーラが半端ない。
腕を組んで長い足を組んでじっと座っている。
イライラしている人ってよく貧乏揺すりをしたりするんだけどそういったことはまったくない。だけど、オーナーが私が今まであった中で一番イライラしているってことはこの部屋の空気とオーナーが醸し出している雰囲気でわかる。
何が言いたいかというと、どうにかこの場を穏便にすましてあの息子さんの相手は新人ちゃんに任せて私はオーナーの横で大人しくお酒を頂くのがみんなにとって一番幸せな展開なんじゃないかなってことだ。
「申し訳ございません。オーナーから大切なお客様がいらっしゃっていると聞いていたので、お客様のためにと気合を入れて準備しておりました」
「え、俺のため?」
とても申し訳ないという顔を作り相手の目を見ながら伝えると、自分のためにという言葉に食いついた息子さん。
まぁ、準備していたってのはうそなんだけど、俺のために必死に準備していてくれたって男の人は弱いよね。
「はい、お客様のために。遅くなりそうだったので先に愛華ちゃんにお席に行ってもらおうと思ったのですが、彼女は新人さんなので一人では不安かと思い……本当に申し訳ありません」
「……そういうことならまぁ」
二回目のお客様のためにという言葉の時には、今日一の笑顔でいい。またしゅんと申し訳なさそうな顔で謝るとそれ以上文句のつけようがなかったのか、納得してくれた息子さん。
面倒くさそうな客なのは変わりないけれど、扱いやすそうではあるからいいかな。
面倒だけど。
相手をよいしょしながら、笑顔で対応してたらなんだかんだでよさそうだから、とりあえずずっと笑顔を張り付けておくことにしよう。
「ありがとうございます!ご挨拶遅れましたが、真白と言います。よろしくお願いいたしますね」
「ああ、噂通りの美人だな」
「ふふ、ありがとうございます」
「あ、あの!!私は愛華って言います!!!」
相手の言葉に照れたように笑いながらお礼を言っていると、新人ちゃんがずいっと出てきて元気よく自己紹介をする。
ちょっと、私がオーナーと息子さんに同時に紹介しようと思っていたのに本当に元気いいなこの子。
「愛華ちゃんは学生さんで新人さんなのでお手柔らかにお願いしますね。お席、失礼してもよろしいですか?」
「学生かぁ……かわいいな」
「……ああ」
私が付け足した新人ちゃんの紹介に、学生という言葉に食いついた息子さん。
まあ、学生ってそれだけでなんか特別な感じがするもんね。
そして、さっきまで黙っていたオーナーが私の着席をうかがう言葉に返事をした。
「では、しつれ「失礼しまーす」」
オーナーの言葉を聞いてオーナーと息子さんの間に座ろうとした私をさりげなく押しのけ私の言葉をさえぎって二人の間に座った新人ちゃん。
いや、ちょっとまって。
何でそこに座る!?
息子さんの逆隣に座って君は息子さんの相手だけしていればいいようにしようとしてたんだけどな、私!
貴女、オーナーと息子さん両方の対応できないでしょ……てか、オーナーの対応する気ないでしょ。
「……オーナーお隣失礼しますね」
まぁ、いいか。
息子さんは新人ちゃんに丸投げして、私はオーナーの横で飲んでよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます