07
side:K
遠慮という言葉を知らなんじゃないかと思うほど、いい飲みっぷりで馬鹿高いワインのボトルを開けていく隣のコイツを見て思おう。
あの男に払えないという事はないだろうが、それでもだ。
「お前な……」
呆れた視線を向けると、こくりワインを一口飲みにっこりといい笑顔を俺に向けてきた。
飲みっぷりもいいが、毎回コイツがグダグダに酔っ払った姿を見たことがない。
酔っ払っているのだろうが、いたって普通な顔でぶどうジュースでも飲んでんじゃねぇかと錯覚するくらいごくごくとワインを飲んでいる。
「飲まなきゃやってられないですよ」
コイツの言葉に、チラッと隣で仲良く話している二人を見る。
一歩間違えれば違う店になりかねないほど、近い距離になっている二人にため息をつく。
久しぶりに新人をつけると言っていた店長に、期待のできそうなのが入ったのかと思ったが、期待を裏切られた。
俺の顔におどおどびくびくしないのはいいが、それは俺のことが眼中に入ってないからだろう。
新人だといわれた彼女は、この部屋に入ってきてすぐ取引先の息子が視界に入ったのだろう。それからはずっとソイツの顔ばかりを見ていた。
ある意味、今までの女の中で一番肝が据わっているのかそれともただの馬鹿なのか……。
無意識にテーブルに置いているタバコに手を伸ばすと、今まで黙々とワインを飲んでいた真白はさりげない仕草でマッチに火をつけて差し出してくる。
差し出されたマッチの火でタバコに火をつけて一服する。
そして、真白はタバコに火をつけたらまたワインを飲み始める。
いつも通り隣で大人しく飲んでいるコイツだが、時折隣の二人を気にしていないようで気にしていたり、息子がタバコを手に取ると自然に手がマッチへと延びている。
だが、俺と新人が間にいるものだから火を付けてもあちらに届くことはない。
そして、アイツがタバコを咥えても火をつけよともしない新人に火と伝え、たまにこちらにも飛んでくる言葉にも笑顔で答えながら空になったグラスをそのままにしているとグラスと新人に伝えている。
言われた新人の方といえば、息子にはわからないようにキッと真白を睨んでいる。
「……お前も大変だな」
「まぁ……これも仕事なんで」
そんな真白に憐みの視線を向けるといい笑顔で返事が返ってきた。
いや、本当にこういうところは一回り近く離れているコイツだがすごいと思う。
嫌な客だろうが、めんどい同僚だろうが基本笑顔で対処していると店長からも聞いているし、今まさに目の前で見せられた。
俺には絶対にできないことだ。
絶対に一発は殴ってるだろうし何より笑顔ができるわけねぇ。
「あ、オーナー!もう店長から聞いているかもですが、明日から1、2週間お休み貰います!」
そう感心していると、あっと何かを思い出したらしい真白がワイングラスをテーブルに置きこちらを見て笑顔でそう言う。
「は?」
「新しいゲームの発売日なんですよ、明日!なので今までお休みしなかった分を一気にいただきます」
コイツのことをいろいろ感心していたところでこれだ。
「やっぱり、黒鉄サンのお気に入りって真白ちゃんなんっすね!!」
「えー、お気に入りというか~、愛人なんじゃないですかぁ」
「は?」「……っぶ」
お前な、さすがに2週間は休みすぎだと伝えようとしたところで隣でよろしくやっていた二人の発言に俺と真白は驚いた。
真白に至っては飲みかけていたワインを噴きかけて咽ている。
「……ッ、はぁ……愛人って、んなわけないでしょう。なんでそうなるの」
「だって~、先輩たちからオーナーが来るといつも真白ちゃんがついてるって!そういう事でしょ」
「そうそう、愛人じゃなくても黒鉄サンのお気に入りってことには変わりないだろ」
咽て咳き込んだ真白だったが、すぐに否定をする。
「真白をいつもつけているのこの店の中で一番接客上手いからだ」
騒いでいた3人にそう伝えると、やっぱり気に入られてるんじゃんというような顔を新人と息子はした。
気に入っているかどうかと言われれば、他のキャストと違い俺を怖がらず話し接客は完璧だからどんなえらい人間を連れてきても恥をかくことがないからいいとは思っている。
が、コイツが恋愛対象になるかと言われれば否だ。
まず最初に、俺はどちらかというと年上の落ち着いた女の方が好みだ。
一回り近く離れているコイツは女というより俺から見るとまだ子供で、どちらかというと妹に近いんじゃないかと思う。
「俺の好みは年上の女だ」
俺がそう発したとき、この部屋に異変が起きた。
床がいきなり光出したのだ。
「な、なに?」
「床が光ってる……この店ってこういう仕様なんっすか?」
「……いや」
いきなりのことに、戸惑う新人と息子と俺。
光は、円状の何か模様みたいになっていてちょうど息子と新人がその円の中心に来るようになっている。
ふと先程から何も
言葉を発しない真白を不思議に思い、視線を向けてみるとその顔は驚いているが目はらんらんと輝いている。
「おい?」
俺がそう声をかけた瞬間、いきなり激しく床が揺れ出した。
「きゃっ」
「うおっ」
「くそっ」
激しい揺れに俺はとっさに隣にいた真白を庇うように抱き寄せた。
その瞬間、目があけれないくらいの強い光に俺たちは包まれた。
「キタコレ!異世界転移!?」
俺はようやく声を発した真白のそんな呟きのあと、身体に今までに感じたことのない激痛が走り、俺はそこで意識を手放した。
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