03
side:K
「いや~、黒鉄サンの店に行けるなんて嬉しいな。可愛い子が多いって有名っすよね」
出会った当初は俺の顔を見て怯えていた取引先の社長の息子も、自分の親父に敬語を使っている俺を何回も見ているからなのか、怯えることもなく砕けた口調で話しかけてくるようになった。
「……そうですか?」
「そうそう!No.1の子とNo.2の子がとかすっげぇ有名っすよ」
そして、一応取引先の息子という事でコイツにも敬語を使うようにしているせいか最近では一応砕けた敬語を使ってはくるが偉そうだ。
いい加減、ぶん殴ろうかと思ってくる。
うちの若いのがこんなことをしていたらぶん殴って躾し直してるんだが……。
ちらっと隣に座る息子を見る。
長めの茶色い髪を指でいじりながら、車の外を眺めている。
黙っていれば、顔はいいがプレーボーイだという噂をよく聞く。
いいところの生まれだから、大学を卒業し社会人になった後も偉そうでどことなく周りを見下している感じの男だ。
俺としてはすっげぇ気に食わないが、取引先の息子だから何とか我慢している。
ずっと、うちの店に来たいと言われていたが、のらりくらりと躱してきたが今回はそうはいかなくなった。
コイツの父親に連れて行ってやってくれと頼まれたからだ。
連れて行ってやってくれと言った本人は、会食が終わった後すぐに行った店で贔屓の子がラストだか何だかで店に残るとか言いやがった。
ガキの御守りを押し付けやがって。
まぁ、めんどい客になるがうちのNo.1なら適当に合わせて飲ませて相手できるだろ。
変に引っかかることもないだろうしな。
視線を息子から窓の外へ変えて、まだぺちゃくちゃと喋っているヤツに適当に返事を返す。
話題は、うちの店のNo.1についてっだ。
可愛いらしい……アイツは可愛いというよりは美人よりの清楚系だ。
店の従業員たちが俺の顔見て怖がる中、ニコニコしながら俺の横で美味そうに酒をこれでもかと飲んでいた女だ。
当時、まだ大学生ったはずなのにだ。
肝が据わっているのか、変人なのか。
ぜってぇ、この男にどうにかできる女じゃないことだけは確かだ。
酔い潰されて終わりだろうな。
「真白ちゃんはいい子っすよ。可愛いより清楚系美人っすかねぇ」
「へぇ、清楚系美人か!それはめっちゃ楽しみなんすけど」
いつの間にか、返事をするのもめんどくなった俺の代わりに運転をしていた俺の部下が答える。
笑を含んだような部下の言い方に、清楚系美人の前に黙っていればと心の中でつけているんだろうなと思う。
「まぁ、俺の中で一番は美咲さんっすけどね!」
「ああ、No.2の子っすね!」
コイツは、No.2にぞっこんだからな。
話し始めたらなかなか止まらない、というかうざい。
あまりの勢いに、取引先の息子も引いている。
「く、黒鉄サンはお気に入りの子とかいないんすっか?」
あまりの勢いについて行けないと思ったのか俺にも話を振ってくる。
「特にいないですね、みんなうちの従業員なんで」
「えー、そうなんっすか?従業員でもこの子可愛いなって子とかいるんじゃないんっすか?いつも指名していることか!」
「俺から指名することはないので」
まさか自分に振られるとは思っても見なかった話題に、少し考えるが特にお気に入りと思う女はいない。
みんな、大切な従業員だから贔屓はせずみんな平等に接しているつもりだ。
大体、俺が店に行くときにつく女は店長が選んでいるから自分で指名したことはない。
基本的にどの女も俺の顔や噂に怖がり、会話もなく酒もあまり飲めないから同じ女がずっとつくという事が今までなかった。
今のNo.1であるアイツが入ってくるまでは。
アイツが俺に普通に接しているのを見てから、店長は必ずアイツを席によこすようになっていた。
怖がっているヤツを座らせておくより、美味そうに酒を飲んでいるヤツを座らせておく方が俺は気分がいいし、俺が連れていく客も気分がいいだろう。
ただアイツは黙っているか猫を被っていたら別嬪だが、素は変人だ。
一度、アイツの常連客との会話が聞こえたことがあるが、興奮気味によくわからないことを熱く語っていたときは流石の俺も少し引いた。
というか、顔は怖いうえにオーナーである俺の横で好きなだけ飲み食いできる時点でおかしいだろ。どういう肝っ玉してんだか。
そういうわけで、一応店の女の顔名前は覚えるようにしているし働いてもらっているわけだから誕生日にはそれぞれに何かしら店で使えそうなものを用意しているが、毎回違う女がつくとお気に入りとかできるわけがない。
そして、ずっとつくようになったアイツも素を見なかったらよかったが、見た後だとどうもあの時のことを思い出して無理だ。
「よーく考えてみてくださいよ~」といないと言いているのしつこく聞いてくるバカ息子にいい加減殴ってやろうかと思ったとき、車は目的地の目の前で静かに停車した。
「おおー!!やっと着いたんすね!!」
待ちに待った店に到着したから、さっきまでしつこかったヤツも今は店へと意識が移った。
車が止まると、運転席へ乗っていた俺の部下が車を降りて後部座席のドアを開ける。
それに、るんるんとさっきよりもテンションを上げて降りるヤツに続いて自分も降りる。
「オーナー、お疲れ様です。お待ちしておりました」
声の聞こえた方へ視線を向けると、店の入り口にこの店を任せている店長が立っていた。
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