002
side:M
更衣室の中もピリピリしていた。
それもそうか。
オーナーが来るって聞いたからみんな緊張してるわけね。
そんなに緊張しなくてもいいのになぁ。
「おはよう、真白」
「美咲さん、おはようございまーす」
「今日は篠宮社長と同伴?」
「そそ、前から連れて行ってもらいたかったお魚料理と日本酒のおいしいお店に行ってきましたー!いやぁ、本当美味しかったですよ。美咲さんも今度行ってみてください」
「相変わらずね、真白は……」
美味しかった今日のメニューを幸せそうな笑顔で伝える私に、呆れたような笑顔を見せるのはこの店No.2で私がこの店に入った時からよくしてくれている先輩の美咲さんだ。
クールビューティーな彼女にはMっ気のあるお客さんが多い気がする。
美人だからか少し冷たく感じる表情と視線がいいんだそうだ。(美咲さん指名の古株さんが言うには)
あと、お姉さん感が半端ないから若いお客さんにも割と人気があったりする。
「この空気で気づいていると思うけど今日オーナーが来るらしいわよ」
「あー、うん、さっき店長から聞きましたー。今日は私と新人ちゃんつける予定らしいですよー」
私の話を聞いていた他の女の子たちが安堵の溜息をついている。
そんなにオーナーに付きたくないのか!
オーナーの席は美味しいお酒いっぱい飲めるのに……。
「あんた、相変わらずすぎるわね」
「何が?てか、みんながオーナーのこと怖がりすぎなんですよ。あの人怖いのは顔だけだって」
私の発言に周りの女の子たちはぎょっとした顔をする。
「ちょっ……あんただけよ、オーナー相手にそんなこと言えるのは。噂とか聞いたことないの?」
「いや、だってほんとのことだし?噂は噂で私は自分が見たものだけ信じてるで!てか普通に好きなお酒好きなだけ飲ませてくれるし、話し振らなくてもいいし楽ですよ?」
「いや……あの席で好き勝手に飲めるのはあんたくらいよ。みんな緊張してそれどころじゃないわよ」
ええ、そうなのかな?
緊張なんかしないけど。
オーナーの顔は何人殺してきましたか?ってほどの強面な人相だけどさぁ。
それに連れてくる人たちも前科持ちだろって顔の人が多いけどさ、大人しく飲んでる分には安全だと思うけどなぁオーナーの隣が一番。
「あれ?そういえば、今日一緒につく新人ちゃんは?」
「ああ、あの子なら今日も遅刻みたいよ。本当に、遅刻するくらいなら出勤時間ずらしてもらえっての」
「へぇー、遅刻かぁ……オーナーが来るまでに出勤してきたらいいけど」
「ていうか、真白!こんなにだらだら話してる時間なんてあるの?」
「あ、篠宮社長待たせてるんだった!!」
美咲さんに言われて時計を見ると、結構話しこんでいたみたいで結構な時間がたっていた。
篠宮社長のところに付く時間は、オーナーが来るまでだから時間が限られてるんだった。
さて、今日のドレスは篠宮社長に買ってもらった物にしようと思ってたんだけど、オーナーが来るなら誕生日の時にオーナーにもらったドレスにしようかな。
みんな、オーナー怖いって言ってるけど、女の子の誕生日には必ず誕生日プレゼントを用意してくれてるくらいいい人なんだけどなぁ。
顔は怖いけど。
私もオーナーと初めて会ったときは、殺されるんじゃないかと思ったよ。
でも、好きな物好きなだけ飲めって言われたらもういい人としか思えなかったよ。
本当に、当時の私はチョロすぎだったと思う。
みんなが怖がるうちの店のオーナーとは、このあたり一帯を仕切っているヤクザのお偉いさんだったりする。
今のご時世にヤのつくお仕事なんてって思うけど、オーナーたちがこの辺りを仕切ってくれているから、変な輩や酔っ払いが少ない。
それに、この店の女の子だとこの辺りの人は知っているから絡まれることもなく、本当にオーナー様様。
篠宮社長だって、最初にオーナーの席についたときに仲良くなれたんだから本当にオーナーには感謝しかない。
太客になりそう人を連れてきてくれるんだから。
「おはようございますー!」
オーナーから貰ったワインレッドのシンプルなタイトドレスに着替えていると、新人ちゃんが遅れて出勤してきた。
そんな彼女の登場に、更衣室にいた女の子たちの視線が集中する。
みんな、今日オーナーの席に着く彼女を気の毒そうに見ている。
「え、なんですかぁ!この空気!!」
何とも言えない、この空気に頭に?を浮かべてきょろきょろとしている。
小柄でふんわりしたセミロングで何とも小動物みたい。
「愛華ちゃん、遅刻はしないようにね。流石に毎回毎回は困るから」
「すみませんー!学校の授業が長引いちゃって」
そんな中、我らが姉御の美咲さんがこの空気をものともせずに遅刻についての注意をする。
流石、美咲さん。
そんな美咲さんにてへぺろって感じに軽い謝罪をする新人ちゃんは、本当に肝が据わってんじゃないかなって思う。
先輩より遅れてきて遅刻の謝罪もないし、怒られてもあんな感じに謝るとか、普通はできないよね。
最近の子恐ろしいな。
「……これならなんも心配ないんじゃないかなぁ」
まだ、注意している美咲さんと新人ちゃんには聞こえなかったみたいだけど、私のつぶやきが聞こえた周りにいた子たちは同意するように頷く。
「ま、いいか。じゃあ、私は先にお店の方に行くから~、後はよろしく」
とりあえず、怒ってる美咲さんと新人ちゃんは周りの子たちに任せることにして、私は待たせっぱなしにしている篠宮社長のもとへ急ぐために、軽くお化粧を直してドレスに合うパンプスを履き更衣室をる。
「新人ちゃんの名前、愛華ちゃんっていうんだ~」
新人つけるぞ言われてたけど、顔は出てきても名前が出てこなかったんだよねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます