第7話 兄さん

ふう…なんだか虚しくなってきた…

今日はここまでにしよう。


スラスラと進んでいたはずのペンがふと止まり、ノートを閉じる。

いやぁそれにしても今回は短くなってしまったなぁ…。

俺の前には1冊のノート。

その半分くらいに文字がびっしり埋め込まれている。


現実でも俺には兄さんはいる。

けど現実は俺に優しくない。

現実の兄さんは完璧なんだ…

生まれつき…いやこの言い方は良くないな

兄さんの努力があってこそだと思うが兄さんは全てにおいて完璧なんだ。

勉強、スポーツ何をとっても完璧。

俺なんて足元にも及ばない。

スタートラインにさえ立てやしない。

から俺は小さい頃から家族からほっと置かれて過ごした。

親戚も親も学校の先生だって皆長男の兄さん

なんでも出来る兄さんを見る。

俺が100点とったってマラソン大会で1位になったって振り向いてくれたことは無かった。

誰も俺を見てくれないんだ。

俺は空気なんだ…。

この前兄さんに久しぶりに会った時なんて言われたと思う?

「えっ……と…どちら様…?……あっ!太郎か…」

だってさ…。

ハハッ笑えるだろ?なぁ笑ってくれよ!!!!!

俺、唯一の兄にそんなこといわれたんだぜ?!

しかも俺の名前は健一(けんいち)だぜ?!

1文字もあってないじゃん…

もういいけどさ…期待なんてした俺がバカなんだから


から俺は自分で世界を創ることにしたんだ。

俺が存在してる世界を!

俺にも生きてる価値を見出したかったんだ。

今生きてるここには、いい事より辛い事の方が多いなんてザラにある。

だから託すことにした。あっちの俺に。

空想の中じゃ俺はなんにだってなれる。

今までだってパイロットや怪盗、刑事になって人を救ったことだってある。から今回も出来ると思って…

空想の兄さん、理想の兄さんを創った。

その兄さんに好かれる自分を創った。

兄さんと一緒に料理をする幸せ空間を創った。

これで俺は幸せになれるはず…

そう信じた。


創ってみてどうだったかって?

そりゃ楽しかったよ!俺のために兄さんが料理作ってくれたんだぜ?!

めっちゃくちゃ嬉しかった

オムライスにピサに焼き芋、シチューなんかもあったなぁ

俺がおにぎり作ってみたら兄さん喜んでくれたんだっけ…

あっ違う違う【お結び】か…

あぁいいなぁ

あっちの俺…

俺もそこに行きたいなぁ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まんぷくごはん そよかぜ @skyoao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ