第5話 キラキラパワーで出来る子シチュー
クリームシチュー
ううっ…寒い。今日は一段と冷えるな…
季節は再び進み、いまは12月、春待月だ。
春待月なんて暖かそうな名を持ってるがその名と外の景色があってない。
とにかく寒い。
夏にはへそ出してゴロゴロしてた兄さんも寒さには弱い。
時刻は10時を迎えるのにまだ顔を出さない。
まだ寝ているのだろう。
仕方ない。冬の布団は極楽。そう簡単に抜け出せるものでは無い。
しかしもうそろそろ昼時。
兄さんも起きてくるだろう。
となれば開口1番に
「ねーねーおなかへったぁ。にいちゃんおなかへったよぉ。なんかない〜?」
というのは目に見えている。
今日も積み上がってる書類の山…。
これを兄さんは今日中にやらなくてはならない。
ゴネてたら今日中には終わらないだろう。
なんてたってもう昼時なんだから。
仕方ない。兄さんのやる気を引き出すため…。
僕は立ち上がり、台所へ行きエプロンをつけた。
冷蔵庫から牛乳・じゃがいも・にんじん・ブロッコリー・鶏肉を取りだし、棚から小麦粉も取り出す。
じゃがいもの皮をむき、ホクホク感が残るよう大きめにカット。ブロッコリーも房から外し1口大にする。
ここだけの話、兄さんはにんじんが大嫌いだ。隠してるんだろうけどバレバレw
キャロットケーキさえ食べれないんだから…。
あんなに頼れるかっこいい兄さんなのににんじんだけはどうしても食べられないらしい。僕の憧れで手の届かないようなとこにいるのにこういうところは子供ぽいのだから。
野菜を切り終えて思い出す。
あっそうだ。忘れていた。
僕はクッキー型で人参をくり抜き始めた。お星様やハート等々様々な形のにんじんができた。
これをしなくては兄さんのクリームシチューとは言えない。
よしっ…。野菜の下準備は終わり。
鍋に油を引き、1口大になっている鶏肉とやさいを入れ炒める。
肉に火が通ってきたら塩コショウで味付け。
火を止め小麦粉を入れる。あんまり急に入れると小麦粉をぶちまける可能性があるので慎重に。
全体的に馴染んだら牛乳・コンソメを入れ煮立たせる。
コトコト煮込まれてきたら完成だ。
このルーを使わないシチューのレシピは兄さん流。
僕がまだ小学生だった冬の寒い日、いつも40〜60点止まりで悪くもないけど良くもない成績をとる僕が初めてテストで100点をとった。
喜んで帰ったが母さんも父さんもおらず、ひとり悲しく泣いていた時兄さんが作ってくれたものだ。
「100点とったのぉ?すっごいねぇ!にいちゃん取れて30点だったよぉ」
そう言って目尻をさげて笑って頭を乱暴にクシャッと撫でてくれたんだ。
「こんないい点取れたらご褒美貰わないとなぁ。ちょっと待ってろよ。」
そう言ってこのクリームシチューを作ってくれたんだ。
「100点とったからねぇ。頭がもっと良くなるおまじないかけといたよ(๑•ω•́ฅ✧」
そう言って兄さんはシチュー鍋の中にカレー粉をぱぱっとかけた。
「『キラキラパワーで出来る子シチュー』だよぉ」
そう言って差し出されたのは歪な形のお星様が入っているクリームシチュー。
カレー粉の入ったクリームシチュー。
差し出してる兄さんの自慢げな顔。
僕は100点をとった喜びより兄さんのその笑顔、このクリームシチューの方が何倍も何十倍も嬉しかった。
そのシチューは味は薄いし、にんじんは固い。
けど僕にはとっても美味しくて心がぽかぽかしたんだ。
また100点を取ればこのクリームシチューを作って貰えると思ってそれから僕は猛勉強した。
その結果それ以降のテストは全て90点以上。
100点に届かなかったことは多かったけど兄さんはそれでも
「すごいじゃん〜俺こんな点数初めて見たぁ」と褒めてくれクリームシチューを作ってくれたんだ。
だんだん兄さんも腕前を上げ、ビーフシチューやパイ付きのシチュー・かぼちゃシチューを作ってくれたりした。
どう転んでもシチューだったのは兄さんの中でテストの後はシチューと決まっていたからだろうか…。
どのシチューも美味しかった。けど僕が一番好きなのは最初に作ってくれたお星様入のクリームシチューなんだ。
思い出に浸りながら煮込んでいると良い具合になってきた。
コトコト煮込まれて美味しそうだ。
ここまでくれば火を止めカレー粉を加えるだけ。
ぱぱっとカレー粉を加え、混ぜ合わせる。
よしっ出来た。
あとは兄さんを待つとしよう。
きっとこのよい匂いは寝室まで届いているのだろう。
あぁはやく起きてこないだろうか。
起きてきた兄さんといっしょにクリームシチューを食べることを想像し、僕は調理器具の片付けを始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます