第4話 焼き芋
焼き芋
あの連日続いた猛暑が嘘のように穏やかな気候が続いている。うるさかった蝉も居なくなり、鈴虫が鳴いている。もうそろそろ赤とんぼも飛ぶのだろう。ほんとに季節の移り変わりは早いものだ。
なのにどーしてどうして兄さんは変わらないんだ。
僕は兄さんが大好きだ。けどけど今回は言わせて欲しい。さすがに限界だ。
兄さん、頼むから書類に向き合ってくれ…
前回僕が寝ているうちに終わらしてくれたじゃないか…出来るんだろ?ならやってくれ…。
最近は母さんも父さんも呆れ僕に託すようになってしまった。僕が言った方が1番効果があると…。
確かにね確かにそうだよ?!けどさこののんべんだらりを僕1人で動かせと?
鬼か!悪魔か!
………。
まぁ嘆いていたってしょうがない。
何とか兄さんをやる気にさせなくては…。
僕はだらだらと漫画雑誌を読んでる兄さん、目の前にある大量の書類、そして秋晴れの空を見てふと思いついた。
「あっそうだ…」
焼き芋をしよう…。
テストの点を隠すために答案用紙を燃やし、そのついでに兄さんと焼き芋パーティーをしたことを思い出した。
パーティーと言ってもただ木の葉や紙を燃やしたついでに芋も焼いてそれを食べただけ。
けどひとつのさつまいもを兄さんとわけっこしてハフハフ食べたのはとても良い思い出だ。
そうと決まれば…。
「兄さん!リフレッシュしないか?焼き芋で!」
そう言えばまたあの目尻をさげた顔で笑ってくれた。
「いいねぇ」
僕たちはさっそく外へ出て紙・木の葉を集め燃やした。もちろん消火も出来るようバケツに水も汲んである。
兄さんも僕ももう子供ではない。
1人でひとつの芋なんでぺろりと食べられてしまう。
けど僕はひとつの芋しか用意しなかった。
「あら〜?どうちたんでちゅかぁ?まだおいも1本と食べきれないのかなぁ?かわいいでちゅねぇ」
やはり、兄さんに気づかれ笑われた。
「べっ…別にいいだろ///これから夕飯なんだ。あまり腹に溜めたくないだけ…」
そう言うと
「そーでちゅか。かわいいねぇ」
と頭を撫でられた。
くっ…。兄さんには何言ったって敵わないな。
今だって顔赤いの必死に隠してるけどバレてる気しかしない。
それからは無言の時が過ぎた。
無言でも一緒にいられる相手こそが大切な相手であるとどこかで読んだなぁ。
そんなことを思ってたら良い香りが漂ってきた。
いい感じに芋が焼けてきた合図だ。
竹串を指しすんなり刺さることを確認する。
よしっ…。もう良さそうだ。
あちあちとアルミホイルの包み紙を剥ぎ取ると、紫色の表面が出てきた。
おおよそ半分の大きさでふたつに割ればモワッと湯気が出て黄色い肌が露出した。
あちあちしてたら兄さんがタオルを渡してくれた。
タオルに包み、片方を兄さんへ、もう片方は僕が貰う。
そして縁側に腰をおろす。焼き芋を食べるのはいつもここ。
なんでかと言われたら理由はないけど焼き芋を食べる時はここで食べるんだ。
兄さんがいれてきてくれた温かな緑茶と共に焼き芋をほうばる。
口いっぱいに甘さが広がり、しあわせの味がする。
ひとりで1本食べていたら味わえない、兄さんとはんぶんこするからこそ味わえるこのしあわせの味。
あぁずっとずっとこの先もこの味を味わいたいな。
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