第五回:田舎の鳩『過ちの王から始める異世界選択 〜落ちぶれ三十路サラリーマンが憑依したのは、史上最悪の暴虐皇帝?!〜』(2)



―――― キャラクターの魅力、リアルな描写 ――――


▼ 作者に聞け  これまでの回で、重要キャラ達も登場し始めました。彼らの人物像は、物語と共に明らかにされていくことになると思いますが、特に注目してほしいキャラはいますか?


● 田舎の鳩  そうですね。今出ているキャラは、総じて重要人物になってきますね。注目か。隆志の○○○……ではなく、すべてのキャラに注目していてもらえると、嬉しいです。


▼ 作  鳩さんの他の作品にも言えることですが、繊細で感情に深みのある描写が特徴ですよね。意識しているところはあるのでしょうか?


● 鳩  ありがとうございます! 書いている時はいつも、登場人物に乗り移ってその世界を一緒に追体験していることが多いかな、と思います。


 なので、その時に受け取った感情や体験をそのままにすくい取り、言葉として小説にしている感じです。自分にとって、その時すくった言葉は「本当に現実」だったものなので、深くリアルに感じ、また共感してもらえたなら、嬉しいなと思います。


▼ 作  だからこそ、読むだけで場面が目に浮かぶ素晴らしい一文が完成するのですね。


● 鳩  人によるかもしれませんが、そう感じてくれてる人は、きっと自分と感性が近いんだと思います。



――――「選択」のテーマと着想のきっかけ ――――


▼ 作  先ほど少し話題になった「選択」の話に戻ります。


 『過ちの王から始める異世界選択』というタイトルには、二つのキーワード「過ち」と「選択」が含まれていますね。「過ち」の意味は、これからのストーリーで少しずつ明らかにされるだろうと思うので、ひとまずおいておきます(どうやらいくつかの意味があるようですが)。


 気になるのは、「選択」のほうです。


 主人公は、「山田隆志」としての前世で、ダメ社員として描かれていました。言いかえると、何かを積極的に「選ぶ」ことを避け続けた人物、あるいは、何も「選ばない」ことを「選んだ」結果、自分の死をまねいてしまった人物です。


 転生後の隆志=ルドルフ・アドリューシュは、もともと帝国の継承者たちをすべて追い落とし、帝位を奪い取ってしまうような、ガチの「選択」の人です。でも、隆志の意識がルドルフに憑依することで、何かが変わっていくことが示唆されています。


 そういう状況を一言で表しているのが、隆志の次の台詞でしょう(第二話/一「最初の選択」)。


 「俺の選択はいつもいつだって、誰かがした選択の先にあるものだったんだ」


 それまでまともな選択のできない人だった隆志は、異世界に転生した後、ルドルフのやったとんでもない選択の結果に向き合うことになる。「誰かがした選択の先」で、選ばない/選べない人だった隆志=ルドルフは、どんな選択をとるのか?


 そもそも、何かを積極的に選べるような人物に成長していくのか、それとも、ある意味で選ぶことに失敗し続ける(「過ち」?)人物のままであるのか、今の段階での見通しはありますか?


● 鳩  ガチネタバレが入るので、ちょっと考えさせてください!

       

 まず、考察はおおむねその通りです。というかむしろ、物語の核になる部分に触れられてしまって、ビックリしています。気が引き締まる。


 そもそも、この作品は、隆志が主人公の物語なので、隆志がどうなっていくのか、どういう選択を、過ちをするのかという部分はすごく重要です。今の段階というか、最初にこの物語が生まれた時点で、必然的にそれは全部決まっていたと言えるかな。


 ついでに言ってしまうと、この話のアイデアが浮かんだのは、去年の九月ぐらいでした。そのころ、演劇部の卒業公演の脚本を任されていたんですが(毎年、卒業生が脚本を書く決まりでした)、引き受けたものの、数年近くスランプのまっただ中にいたので、かなり悩んでいました。


 ここだけの話、一つ前になんとか書き上げた脚本が、自分でも目を当てられないほどの駄作で。納得できないまま完成としたのですが、案の定公演で大コケしてしまいました。自分はもう物語は書けないんだ、と内心かなり自信をなくしていたんです。


 結局、卒業公演はコロナでなくなったために、事なきを得ましたが、「どんな話だったら書けるだろうか」と試行錯誤してる途中に生まれたのが、この小説のアイデアでした。


 異世界モノは、ある意味テンプレートが溢れていて、だいたいある程度の筋が決まっているので、その筋を踏襲しつつやれば、自分も物語が書けるんじゃないか、と思ったのがきっかけです。もともと、異世界、特にゲームや漫画の中に転生するなんて非現実的だし、いまいち好きになれないと思っていました。でも、いろいろと見てみると、面白くて深いものもたくさんあります。


 そんな中で、自分自身の描きたいテーマを反映させるとしたら? 人生のやり直しをする主人公、とことんクズで無責任な男が、真逆の立場になったとしたら? どうせなら、とことんヤバい、暴君とかにしてしまおう――そんな思いつきから、この作品は生まれています。その時は、書きたいシーンだけババっと書き殴って、その後、先が思いつかなくなり、お蔵入りになっていました。


 今年の二月になって、「連載小説やるなら、あのプロット使えるんじゃ?」と思い出し、短編で少し小説を書くコツを掴めてきたような気がしていたので、書き始める決心がつき、今に至ります。


 「無責任な男が、一番責任の重い人間になったらどうなるのか?」が、自分がこの物語の核に埋め込んだものの一つになってる。そこは、注目してもらっていいかな。


 後は「責任ってそもそもなんなの?」とか、そこから派生したいろんなテーマも入っていますね。


▼ 作  失敗に終わった脚本の経験を捨てずに受け入れ、積み重ねて出来上がったのが本作だということですね!


● 鳩  そういうとかっこいいな! 一応、脚本は十本ほど書いて、うち二本が駄作でした。


▼ 作  それは、作者の「過ち」ということになりますか?


● 鳩  死ぬほど駄作だったかもしれませんが、「過ち」ではないな。今になって思えば、ありがたい経験です。周りにひたすら迷惑をかけました。



―――― 短編作品(『狂信者の民』)について ――――


▼ 作  『過ちの王から始める異世界選択』から話が少し離れるのですが、鳩さんは、美しい短編をたくさん書いておられますね。


● 鳩  ありがとうございます!


▼ 作  カクヨムのシステムでは、作者の「代表作」というのが自動的に(勝手に?)決められて、作者紹介のページに表示されます。鳩さんの場合、その「代表作」として、短編『狂信者の民』が挙げられていますね。この点について、率直な感想はどうですか?


 『狂信者の民』

  https://kakuyomu.jp/works/16816927859867390320


● 鳩  早く倒したいです!! 前作(短編『俺が小説家の彼女を殺すまで』)は、『狂信者の民』を倒すことができませんでした。早く代表作の座を降りてくれ、という気持ちです。


▼ 作  『狂信者の民』をライバル視していると?


● 鳩  めっちゃしてる(笑)。いや、お前もう引退しろよ、と。


▼ 作  それは、過去の作品を乗り越えたいという気持ちですか?


● 鳩  うーん、この作品は「教訓的」な、「一時的に生まれる」物語だと思っているんですね。その教訓は一度きりのものなので、いつまでもそれに固執していると、自分が痛い目を見ると思っている。


 その意味でも、「乗り越えたい」ですね。もう書いた時点で自分から切り離されてるので、あいつはライバルだ!!


▼ 作  『狂信者の民』には、寓話という側面があるんですね。


● 鳩  はい。教訓的な物語が好きなんです。


 例えば、「酸っぱい葡萄」という寓話がありますよね。普通なら、負け惜しみを言う人に向かって「それってあなた、本当は悔しいだけですよね?」と言ったところで、「そんなんじゃない!」と反発されてしまう。でも、「あるところに狐がいまして」という寓話として聞かせることで、「あれ、これって自分にも当てはまるんじゃね?」と気づかせることができる。


 『狂信者の民』も、そんな普段の生活の中での「気づき」がきっかけになって生まれたお話でした。


▼ 作  その気づきとなる要素は、実体験から来るものですか?


● 鳩  はい、だいたい実体験がきっかけになってます。


▼ 作  身をもって体験するからこそ、より説得力のある作品にできるのですね。


● 鳩  そんな大層なものでもないんですよ。考え込みやすい性格なのがあるかな。



(3)に続く

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