第四回:東『陰キャくんの、ネチネチ大学《キャンパス》ライフ』(3)
―――― 更新の頻度と執筆 ――――
▼ 作者に聞け ちょっとストーリーからは逸れた質問になってしまいますが、この作品は毎日更新されているようでした。書き上げてからの更新だったんでしょうか? それとも、書きながら少しずつ更新されたんでしょうか?
● 東 書きながらです。正確に言うと、書ける時に数話ずつストックを溜めながらでした。
▼ 作 私も毎日連載をしていますが、やはり読者の反応が直に来るので色々考えてしまいます。その上での質問ですが、事件が起きる時期を早めようとかは思いませんでしたか?
● 東 思いましたね。思ったが故の〈転〉の速さです!
▼ 作 なるほど。そういうプレッシャーもあったんですね。
● 東 そうですね。ここもひとつお伝えした方がいいかもしれなことがあって。
▼ 作 はい。
● 東 ボカロP「乱視ゼロコンマ」を逃がす箇所まで。第一章の終わりかな?
▼ 作 はい。
● 東 そこまでは、元々ワードの縦書き書式で一気に書き上げてました。
▼ 作 それはすごい。
● 東 第二章からはカクヨムの横書き書式で描き始めたんですよね。必然的にというか、第二章から各話ごとに書いています。つまり話ごとの区切りがよくなっている……はずなんですよね。
▼ 作 いわゆる「引き」をより強く意識しながら書いた?
● 東 そうですね。特にオチの部分で続きが気になるようにしようとか、一話ごとに何か事件を起こしたり謎を提示しようというのは、書き続けるごとに強く意識していきましたね。
▼ 作 東さんがカクヨムで公開しておられるのは、現在七作品ですが、長編はこの作品のみですね。
● 東 実は一作、非公開にしている作品があります。
▼ 作 なんと! もったいない。
● 東 元々は同人誌化していた作品です。
▼ 作 同人誌化?
● 東 同人小説として、文学フリマで頒布していました。
▼ 作 なるほど。とすると、長い作品はこれが二作目ですか?
● 東 そうですね、二作目です。
▼ 作 二作目にして、あれだけのまとまりがあるんですね。
● 東 そう言ってもらえてありがたいです。
―――― 登場人物たちのリアルさ ――――
▼ 作 登場人物たち、とてもリアリティに溢れていると感じました。そこは特に意識しておられますか?
● 東 リアリティは、ありがたいことに、たびたび好意的に言ってもらえますね。
▼ 作 書き手としては、うれしい言葉ですよね。
● 東 キャラクターのありそう感は、単純に僕の身の回りにいる人物をモデルにしてるからですね。モデルっていうと言い過ぎかな。
▼ 作 そうだったんですね。
● 東 人間の性格とか個性って、みんなある程度デフォルメしたり、大雑把なカテゴライズで捉えていると思うんですよ。その各人の要素をデフォルメして、パズルみたいにガチャガチャ合わせたり改造したりして、キャラクターの輪郭を作ってます。
▼ 作 リアリティとモデルということで、お尋ねしたいのですが、作中に実在する団体や企業名がたくさん出てきますね。
● 東 そうですね。
▼ 作 例えば、「カラオケボックス」と書かずに「ビッグエコー」と書く。「コーヒーショップ」と書かずに「ドトール」と書く。この辺りは、こだわりがあるんでしょうか?
● 東 ありますね。固有名詞のパワーには絶大なものがあるので、単純に楽なんですよね。
▼ 作 たしかに、いろいろな連想を喚起しますね。その一方で、「ららぽーと豊洲」が実名で出てくることによって、リオたちの通う大学は東京または近県となり、舞台が絞り込まれるという効果もありますね。
● 東 そうですね。キャンパスの外観は、武蔵野大学有明キャンパスを想定しています。ただ、大学自体のモデルはなくて、できる限りありふれた設定を意識していますね。たしかキャラクターの専攻も名言していないはず。
▼ 作 サキノが社会学部とか、そのくらいでしたね。
● 東 そうですね。逆に、サキノにはメディアの人間としての役割を頑張ってほしかったので、社会学部の人間と書きました。
▼ 作 ああ、そこはがんばりすぎるくらい、がんばってました(笑)。
● 東 結果的にサキノがメディア系だけの人間になってしまって、もう少し多面的に描ければよかったと思いますね。
▼ 作 かなり自分の作品を批判的に見ておられるんですね。
● 東 そうですね。書き終わってみると、反省点が山のように……。
▼ 作 まあ、それが書き手としては、あるべき姿なのかも……。
―――― 小説のテーマ ――――
▼ 作 もう一つ、この小説でのテーマとかあれば、お聞きしたいです。同時に、その設定テーマを東さんとしてはクリアできたのか、という点も。
● 東 テーマはですね。上手く一言で言い表せないのですが、「何もしないよりかは何かをした方がいい」的なことですね。後は、大学生のもつ漠然としたエネルギーとか期待感とか、肩透かし感とか、危うさとか、そういう混沌としたものもテーマにありました。
▼ 作 この小説を読んだ時に思ったのは、テーマとテーマを超える彼らの若さゆえの感覚のようなものでした。
● 東 ほうほう。
▼ 作 先述した通り、動画の話などで、メインの話から逸れてような印象を受けたので、テーマはあれど、彼らの熱によって書き手が流されたのではないか、と感じました。
● 東 そこはありますね。リオが「陰キャ」呼ばわりされて、なにくそと思ったとき、行き場のないプライドが動画サークルの活動へ向いたのは、作者的にも意外でしたね。
▼ 作 リオはそういう形で、自分のプライドとか現状への不満をうまく抱えきれずに、最後の事件に駆り立てられていきます。が、それを含めて、「何もしないよりかは何かをした方がいい」と思えるようになったところで、物語は終わっていますね。
● 東 ですね。
―――― タイトル ――――
▼ 作 タイトルには、強いパンチと感性を感じたのですが、タイトルを付けるにあたり、こだわったところはありますか?
● 東 ありがとうございます。実は、当初のタイトルは「パープル」でした。
▼ 作 またずいぶんおしゃれなタイトルだったんですね。
● 東 特に理由はないのですが、何故かパープルという言葉から、主人公が色んな仲間と事件に巻き込まれていく……という話が思い浮かんだんですよね。何でかは分かりません。
でも、ネット公開するにあたって、タイトルを分かりやすくしたかったんですよね。分かりやすいタイトルというのは、「誰が」「どんな舞台で」「何をするか」を明らかにすることで、ここでは「陰キャ」が「大学」で「ネチネチ過ごす」ことまで明らかにできればいいかなと思った次第です。
タイトルについても、まだまだ改良の余地あるかもしれません。
▼ 作 「陰キャ」はけっこうインパクトの強いワードですよね。
● 東 もし仮に「パープル」っていうタイトルのままで、例えば同人誌として文学フリマで頒布していたら、また違った話になっていたかもしれませんね。
▼ 作 タイトルが縛るというか、方向性を決めてしまうということはありそうですね。
● 東 そうですね。僕は、あまり論理的な過程ではないかもですが、なんとなくタイトルをジャンキーにするかイマジネーションに従うかで、感覚的にかなり違ってきます。
▼ 作 タイトルをジャンキーにする?
● 東 ジャンキーっていうのは読者や流行に寄せるってことで、良い言い方をすると分かりやすくする、悪い言い方をすると媚びるってニュアンスです。
▼ 作 そのあたりは、作者として苦心するところですよね。
● 東 そこは全作家が苦悩していますよね。コナン・ドイルも、シャーロック・ホームズは媚びて書いたから、本人としては不服だったらしいですし……。
僕としては、小説が好きだから小説を書いているので、自分のスタンスを曲げてまで寄せようとは思っていません。と言い切るのは簡単ですが、やはり目に見えて「読まれている」というのはエネルギーになりますよね。
▼ 作 そうですね。
さて、いろいろな話を伺えましたが、そろそろ時間になりました。最後に、東さんから読者に向けて、一言いただけますか?
● 東 若い世代、特に学生へ向けて。何もしないのが一番ダメなので、何かはしてください。悪いことか良いことかが五分五分で訪れます。何もしなかったら何も起きません。
▼ 作 とても力強いメッセージをいただきました。
● 東 あと最後に皆さんに向けて。文学フリマ楽しいよ!
▼ 作 今日は、東さんの作品、また、作者の東さんご自身についても、いろいろな角度からお話をうかがえました。東さん、長時間おつきあいいただき、ありがとうございました!
● 東 ありがとうございました! 楽しかったです!
インタビュー 二〇二二年三月四日、「小説家のつどい」内のチャットで実施
ゲスト 東
司会進行 maru
質問者 ムツキ、田崎伊流(たいりゅ)
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