第一回:冬乃こたつ『私と世界のトラジェディア』(3)

―――― 作品全体に関わる裏設定 ――――


▼ 作者に聞け  このインタビュー限定で話せる裏設定はありますか?


● 冬乃こたつ  描写はするけど明言はしない、だから謎として残したままにしてもいいかなと考えている設定があります。「神性は人に寄生する」という設定です。異世界の科学レベルがなかなか発達しない原因にもなっていたりします。


▼ 作  寄生、ですか?


● 冬乃  寄生、です。これはキリスト教の概念が元になっています。三位一体説に登場する精霊は、聖職者の身に宿って導くという考え方があります。そしてその身に宿った精霊から神の声が聞こえたりするわけです。


 寄生虫によって寄生された生物の行動が変わることを参考に、信仰とは寄生虫のようなものであると解釈して物語を書いています。これが第四部までの重要な要素の一つでもあります。


▼ 作  『聖書』は神が直接に記したものではないけれども、福音書などの著者は、聖霊からinspiration(原義は「息ないし霊を吹き込む」こと)を受けることで、書くべき内容を知ったとされますね。『トラジェディア』の世界でも、そういう神性からの直接の働きかけ(≒寄生虫)があることで、科学が発展しにくくなっているというイメージでしょうか。


● 冬乃  そうです。それが解放されると現実の人類史のように時代が動き出します。


▼ 作  これはまさしく裏設定という感じのお話ですね!


● 冬乃  第二部のタイトルが「敬虔な腐敗」となっている所以でもあります。


▼ 作  そこに気をつけて読むと、一味違って見えてくるかもしれません。



―――― タイトルのつけ方 ――――


▼ 作  冬乃さんは、各話のタイトルの付け方が面白いですよね。よくある「第◯話:◯◯」という付け方をしていない点もありますが、たとえば、プロローグにあたる「ただ会いたくて」を見ると、誰が誰に「会いたい」のか、ほぼ完全に伏せた形で描いています。


 もう一つ例をあげれば、「オシロイバナ」の回も、なぜオシロイバナなのかは、明示されていませんね?


● 冬乃  「ただ会いたくて」は触れづらいんですけど、「オシロイバナ」というタイトルにしたのは、夏澄がクールぶっているけど意外と臆病ということを暗示するためですね。実際、直後のエピソードでの行動にそれが表れています。


▼ 作  そういうイメージとして、エピソードのタイトルをつけたということですね。プロローグの「ただ会いたくて」はたぶん答えてもらえないだろうと、ちょっと予想していました(笑)。



―――― 作者のホラー体験 ――――


▼ 作  第一部にはホラーの要素がありますが、冬乃さんはリアルでホラー体験をしたことがありますか?


● 冬乃  心霊現象という意味でのホラー体験はないですね。もっとこう、生々しいというか、人間臭い体験になっちゃいますね。


▼ 作  というと?


● 冬乃  暴行の記憶とか。


▼ 作  霊的なモノへの恐ろしさより、人間の闇的な恐ろしさの方が深いということですかね。


● 冬乃  そうですね。今後の物語にも関わってきます。



―――― 書きたかったシーン ――――


▼ 作  このシーンが書きたくて書いているというものはありますか?


● 冬乃  エピソード「しあわせ者が手にした六文銭」で描写した親子関係や、夏澄の不可解な行動でしょうか。


▼ 作  「六文銭」のほうは、勝利と父親の冷え切った関係ですね。


● 冬乃  あの辺りは、私の実体験がもろに使われている部分です。初期構想では自分の悲しみや憤り、絶望体験などを表現することも目的としてあったので、すごく書きやすかったシーンです。


▼ 作  そういう背景があって、迫力のあるシーンになっているんですね。



―――― 魔法言語 ――――


▼ 作  タイトルであえてイタリア語を使用したということは、第二部以降で登場する魔法体系(呪文なども)の基準となる言語は、英語でなくてイタリア語になるんでしょうか。


● 冬乃  魔術での使用言語はその世界での古代言語を使う予定です。一応ラテン語やエスペラント語をその位置に当ててみたいという気はあります。基本的には単語をつなぎ合わせて意味を成すようにしますので、文法はそこまで重要じゃないですね。というか、そうしないと私がきついので。


 ただ、前述したように、私の異世界では魔法使いの数が少ないですし、勇者は代々その魔法に独特な特徴を持ちますので、言語の必要性はまちまちです。こと第二部・第三部の主人公アラグディアについては、言語を必要としない魔法を使いますので、作中での魔法言語の登場は限定されます。


▼ 作  その辺は第二部以降を楽しみに、ということですね。


● 冬乃  そういうことになります。



―――― 終わりに ――――


▼ 作  最後に、作者としてこれだけは言っておきたいこと、ありますか?


● 冬乃  そうですね。こういうと鼻につきますが、私は芸術家気質というか、職人気質な人間なものでして、自分の拘りというものに執着する質なんですよね。


 このインタビューを読まれる方の中には作家さんも少なくないと思います。みなさんも、拘りと愛情を大切にして、執筆していただけたらと思います。


▼ 作  きれいにまとめましたね(笑)。


● 冬乃  管理者ですから(笑)。


▼ 作  冬乃こたつさん、長時間にわたってどうもありがとうございました。


● 冬乃  ありがとうございました。



インタビュー  二〇二二年二月十一日、「小説家のつどい」内のチャットで実施

ゲスト  冬乃こたつ

司会進行  maru

質問者  みやつば、田舎の鳩、田崎 伊流、ビーさん、ムツキ

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