第50話 苦戦

「……どうやら、こいつらを全部倒すか死ぬかしか道はないみたいだな」

「それは同じ意見だけど、なにか作戦はあるの!?」


 人の姿に戻った花魁が手を硬化させながら言う。 


「方法はひとつしかない。斬っても死なないなら、動けなくさせるしかない」

「だから、どうやって!?」


 焦る花魁に百が答えた。


「動けなくなるくらい細切れにすればいい、でしょ?」

「ああ、そのとおり」

「けどよお、あいつ、斬っても死なないから斬れば斬るだけ攻撃の手数が増えるんだろ!?」


 鬼一が翼で巧みに攻撃をかわしながら訊く。


「ああ、一か八か、やるかやられるかの勝負だ」

「そんなの作戦たあ呼ばねえよ!」

「じゃあなにか他に考えがあるのかよ!?」

「ちぃっ! わーったよ! かまいたち!」


 作戦が決まり、攻撃に転じる鬼一。


「――」


 百もいつも以上の素早さで大百足で切り刻んでいく。


「我、招、理、是、引、是、書、水、流、剣!」


 十戒も切断系の忍術で応戦する。


「――くっ!」


 千里も呪文を唱えたいところだが、避けるのに精一杯で詠唱する余裕がない。


「なにこれっ!? クソ硬いじゃん! マジ無理なんだけど!?」


 爪で大百足を切り刻みながら花魁がぼやく。次々に増える大百足の分体。


「俺も逃げてばっかいるわけにもいかねえか。我、招、理、是――」 


 呪文を唱え始めた直後、


「あぶねえっ!」


 鬼一が飛んできて千里を抱き抱えた。直後、下から大百足の分体が地中から現れる。


「ぼーっとしてんじゃねえよ!」

「わ、悪い……」

「ったく、しっかりしやがれ!」


 そう言う鬼一の右の翼はボロボロになっていた。


「まさか、さっきの俺のせいで……」

「思いあがんなよ。誰のせいでもねえ。あいつのまぐれ当たりだ」


 口では強がっていても、その表情からは余裕が消えていた。


 地上では、花魁が三本の分体相手に奮闘していた。百に至っては五本、十戒も三本相手をしていた。


「こっから攻撃するしかねえな……かまいたち!」


 羽団扇で攻撃する鬼一。が、攻撃に集中したのが仇となったのだろう、


「鬼一、右!」


 横からの攻撃に気づけなかった。


「――くっそ!」


 墜落する鬼一と千里。残りの面々も、もはや、満身創痍だった。


「はあ、はあ……このままじゃ、全員、死ぬ」


 百が身体中から血を流しながら言う。


「せめて、千里だけでも、生きて」

「できるわけねえだろ、そんなこと!」

「でも――千里を守るのがわたしの役目だから――」


 そう言った直後に、頭部から噛みつかれてしまう百。


「嫌だ嫌だ嫌だ! こんなところで死にたくない!」


 手足を硬化させて戦っていた花魁も撥ね飛ばされて、動かなくなる。


 十戒と鬼一もじきやられてしまうことだろう。 


「……また、かよ」 


 そう呟いたのは千里だった。


「また失わなきゃいけねえのかよ……。俺に! 力がないせいで!」


 惨状を前に地べたを這いつくばることしかできない千里。思い出されるのは朱音や杏子のこと。元の世界にいたころのこと。


「なにが仏だ! なにが信仰だ! 人の大事なもん、ことごとく奪っていきやがって!」


 千里の目を悔し涙が伝う。


「やっとできた家族なんだ! 初めて受け入れてくれた居場所なんだ! それを、こうも簡単に、惨たらしく!」


 とうとう十戒もやられた。攻撃が鬼一に集中する。


「俺は呪うからな! あんたのこと、未来永劫呪い続けるからな!」


 千里は仏に語りかけていたのだった。


「けどもしも、万が一、いや、億が一、仏ってもんが存在するなら! 

 今! ここで! 奇跡ってもんを起こして見せやがれぇっ!」


 そう叫びながら地面を拳で叩く千里。その瞬間、


「――!?」 


 真言を書いた巻物が光ったかと思うと、視界が急に真っ白くなり、身体の感覚が失われたのだった。


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