第49話 共闘

「けど、今のままの俺じゃあいつに釣り合わないんだ。守られてばっかりで、全然百に相応しくない」

「ふーん、それでなんだか悩んでるんだ?」

「力がないのは今に始まったことじゃないんだけどさ。最近、友だちを見殺しにしたこともあって……」


 そう言って俯くと、


「――」


 花魁に背後から抱き締められた。


「そうやって悩むキミも可愛いよ」

「一応真面目に相談してるんだけどな」

「ウチも真面目に応えてるよ?」

「なるほど、どういう価値観を持ってるかはよく分かった」


 離そうとする千里。が、余計に強く抱き締められて、


「ねえ、キミ。ウチと一緒に旅しない?」

「どのくらいふざけてるんだ?」

「ウチの価値観は分かるんでしょ?」

「……」

「あそこにいても、劣等感が膨らんでいくだけだよ。喧嘩だってしてるんでしょ? それよりも、お姉さんと一緒に楽しいことだけ考えて生きていく方が幸せだよ」

「……たしかに、それも悪くないかもな」

「そーそー、血以外のものも吸いたいし♥️」


 そう花魁が舌なめずりした直後。 


「――!?」


 花火のような音が聞こえたと思うと、近くの森から黄色の煙が夜の闇に溶けていくのが見えた。


「花魁!」

「分かってる。ウチに乗って!」


 そう言うと花魁は狼の姿に変身した。それに跨がる千里。


「しっかり掴まっててよ!」





 数分前。


「わたしと千里だけの関係性だと思う」  


 そう言った瞬間。


「――!」


 まず百が気配を察知した。   


「鬼一!」


 呼ぶと、


「あいよ! 相当な大物だな、こりゃ!」


 と鬼一も応じる。


「十戒、下から来る!」

「承知!」


 全員が咄嗟に回避行動をとると、十戒の真下から大きさ二メートルほどの百足の頭が牙を剥き出しにして襲いかかってきた。


「――せいっ!」


 十戒が空中で苦無を投げるも、硬い外殻に弾かれる。


「こうなっては、主の怪力だけが頼みの綱か……」


 そう言って色煙玉に忍術で着火する十戒。


「おい、あたいのことを忘れんじゃねえよ!」


 鬼一も空中から頭に向かって斬りかかるが、あっけなく二刀が弾かれる。


 そうこうしている間に、百は剥き出しになった敵の胴の下に潜り込んで、思い切り上に向かって大剣を振りかぶった。


「――よしっ!」


 飛び散る血潮。大百足の悲鳴。真っ二つに分かれる胴体。


「なんだ、これで終わりか? こんなの楽勝じゃねえかよ!」


 余裕の表情で地面に降りてくる鬼一。そこへ、


「鬼一! 後ろだ!」


 さきほど斬り離したはずの下の胴体が鬼一めがけて突進する。


「――くっ!」

 十戒がその直前に鬼一を突き飛ばす。宙に舞う鬼一の身体。大百足との直撃を免れない十戒。 


「十戒っ!」


 叫ぶ鬼一。 


「がはあっ!」


 車に轢かれたように撥ね飛ばされる十戒の身体。


 そこへ到着した狼姿の花魁と、それに跨がる千里。


「大丈夫か、十戒!」 


 叫ぶ千里。


「なんか、二体に増えてない!?」


 困惑する花魁。


「あの大百足は斬っても動く。斬れば斬るほど数が増える。まずは十戒の避難をお願い」


 攻撃を避けながら百が告げる。


「分かった! いけるか、花魁!?」

「血を飲めば二人運べるけど、血を飲む時間がなくない!?」

「それなら―」 


 刀で自分の左手首を切りつける千里。


「これで飲んでくれ!」


 血の滴る左手を狼の口元に運ぶ。


「オッケー、これでウチがなんとかしてあげる!」


 そうして、無事十戒のもとまで辿り着く。


「自力で乗れるか!?」

「……ああ、かたじけない」


 千里が狼に跨がったまま右手を差し出すと、それを握る十戒。


「ひとまず三人で下山して!」


 百の声も次第に切羽詰まっていく。


「うけたまわり!」 


 走り出す花魁。が、 


「――!? おい、俺たち追いかけられてるぞ!」 


 走る狼の後ろを牙を剥き出しにした頭部が追いかけてくる。


「もっと速く走れないのか!?」


 十戒が尋ねると、


「アンタのせいで遅いんでしょ!」

「揉めてる場合か! 追い付かれるぞ!」

「分かった分かった! ウチが合図するからせーので飛び降りて!」

「了解!」

「承知!」


 そして、


「……せーの!」


 千里は右に、十戒は左に飛び降りる。花魁は無数の蝙蝠に化けて上へと逃げた。


 間一髪、生きながらえた三人の結論は同じだった。 


「……どうやら、こいつらを全部倒すか死ぬかしかないみたいだな」


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