第48話 互いの存在

「手を組むって、五人で大百足に挑もうってことだよな?」


 と鬼一。


「そ。さっきそこのおっさんが言ったとおり――」

「おっさんではない。まだ十九歳だ」

「「「うそ!?」」」

「……信じられない」 


 これには、全員が驚いた。 


「でも、なんにせよ成人してるならウチにとってはおっさんよ。で、そのおっさんが言ったとおり、大百足は一人じゃとても倒せない。けど、それだけに見返りも大きい。そこで悩んでたところに現れたのがアンタたちってわけ」

「大百足については、どのくらい分かってるの?」


 百が尋ねる。


「そうね、まずはこれまでに挑んだ鬼狩りは全員戦死したってこと。恐ろしく硬い外殻を持ってるってこと。地中に潜ってから奇襲をしかけることが一番よく使う手ってこと。だいたいこのくらい?」

「そこから導きだされる戦略は?」


 今度は千里が問う。 


 花魁はウインクして、 


「数こそ力♥️」


 と言った。


「つまりは無策というわけか」


 と十戒。


「けど、大将たちだけで土蜘蛛とやらを余裕で倒せたんだろ? だったら、今度もいけるんじゃねぇか?」


 鬼一はどこまでも楽天的だった。


「そーそー。とりあえず、ウチを入れて五人で様子見に行って、ヤバそうだったら下山すればいいだけのことっしょ」 

「下山? てことは、山に住んでるのか?」


 と千里が訊くと、


「あ、言い忘れてたっけ。そーそー、ここからすぐのところにある山に住んでるっぽいの」

「当然、作戦開始は夜になってからなんだよな?」

「もちのろん! どうかな?」

「どうする、大将?」

「いかがいたしますか、主?」


 十戒と鬼一が百の方を見る。


「様子見だけなら。ただし万全の準備をしていく」


 それがリーダーの決めた答えだった。  





 その晩。日が沈んですぐに五人は町の入り口に集まった。


「お、鬼狩りがそろってんな。大百足退治にでもいくのか?」


 衛兵が声をかけてきた。


「あたぼうよ! ぶっ殺してきてやるから、首を長くして待ってな」


 啖呵を切る鬼一。


「あんたらも、これまでの鬼狩りの二の舞にならんことを祈っとるよ」

「ふん、余計なお世話。こっちよ」


 年上にはあたりのきつい花魁に先導されて、一行は山の麓まで来た。

 




「大百足がいくら巨大といっても、この山に比べたらなんてことない。そこで、ここからは二つの班に分けるのがいいと思うわけ」

「当然、拙者とは組まないで千里を選ぶつもりなんだろう?」


 十戒がため息混じりに言うと、


「せいかーい! なんだ、思ってたより嫌われてる自覚あるんじゃん」

「理不尽だ……拙者が何をしたというんだ……」

「そっちは、百、子分の天狗、子分の忍者。こっちはウチと千里クン」

「それなら、これを渡しておこう」


 十戒が懐から玉をひとつ取り出した。


「これは色煙玉といって、その名のとおり、着色された煙玉だ。おまけに着火して投げれば音も出る。大百足を見つけた班がこれを投げて合図する。それを見るか聞いた班が合流する。それでいいな?」

「おう!」 


 威勢のいい鬼一。 


「うん」


 頷く百。


「それは千里クンが持ってて」


 おっさんとやらを頑なに拒む花魁。 


「異論なし」 


 色煙玉を受け取る千里。





 それから二手に分かれて行動が始まった。 


「まあ、今日中に見つけられるとも限らないし、警戒は必要だけど、気長に行こうぜ」 


 千里が言うと、 


「やん♥️ ウチ、年下にリードされてる」

「……あのなあ、変な声出すなよ」

「キミは真面目だなあ。不真面目なフリして、実は真面目すぎるんよ。そういう脆さも可愛いけどね」

「一応、命賭けた作戦の途中なんだぞ。もう少し緊張感持てよ」


 探索に集中しようとする千里にも構わず、花魁は、 


「ねえ、キミってあの百って子のこと好きでしょ? どこまでいったの?」


 と訊いた。


「な!? いきなりなんだよ、その質問! どうだっていいだろ!」

「いいじゃん、そんなにムキにならないでも♪ 正直どんな風に思ってるの?」





 他方、百の班でも鬼一が、

「千里のやつ、今ごろイタズラされちゃってんじゃねーの?」

「許す、千里はわたしの全部を許してくれたから、わたしも千里の全部を許す」

「なーなー、大将は千里のこと、どう思ってるんだ?」

「弟だとおっしゃっていただろう」

「てめえには訊いてねえよ。だって、杏子と千里がなか良さそうにしてたとき、嫉妬してただろ」

「別に」

「まさか、自覚ないの?」

「正直、大将はどう思ってんのさ、千里のこと」

 と訊いていた。

「鬼一、その質問は主に対して無礼だぞ」

「は? どこが? そもそもてめえには訊いてねえよ」





 千里は答える。

「正直言うと、憧れてるし、救われたとも思ってる」 





 百も答える。

「それだけじゃない。何も知らなかったわたしに、人間のぬくもりを教えてくれた。一番辛いときそばにいて、守ってくれた」 





 千里は続ける。

「家族みたいに思うこともあれば、英雄みたいに憧れることもある」





 百も続ける。

「それになんだか、二人きりでいると胸がざわざわして、嬉しいのに落ち着かなくなる」

 




 千里はさらに答える。

「それだけじゃなくて、守ってあげたいとも強く思う。そう思わせてくれる存在なんだ」

 その答えを聞き終えた花魁と鬼一は同時に言った。

 




「それって惚れてるってことじゃん」






「そうだけど、それだけで片付けてほしくない」

 と千里。





 百も

「わたしと千里だけの関係性だと思う」

 とそれぞれ抗弁した。 

  

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