第41話 杏子
部屋に戻ろうとしていると村長がやってきて、
「いやはや、ありがとうございました。かように巨大な鬼、鬼狩り様たちがいらっしゃらなければ村は全滅するところでした。ところが、幸いにもなんの被害もなく、まっことありがたいかぎりです」
両手を擦り合わせながら感謝の言葉を述べる村長。
「役目を果たしただけ」
と百は謙遜する。
「そーそー、一宿一飯の恩ってやつ」
鬼一はまんざらでもなさそう。
「つきましては、無事の鬼退治を祝して、そしてみなさんの歓迎もかねて宴を開こうと思うのですが、いかがでしょう?」
「お、いーなー、それ!」
ノリノリの鬼一。
「そこまでしてもらっては申し訳ない」
と遠慮する十戒。
「どうする?」
と千里が訊くと、
「せっかくだから、お言葉に甘える」
と百。
「そうだな。まあ、もうひとりの役者が来るかどうかは分からないけど……」
「あ、そーれ!」
「あ、よいしょ!」
村人たちが思い思いに踊っているのを見た千里は、
「これ、この村の人たちが宴やりたかっただけなんじゃ……」
「うむ。我々は出汁に使われたようだな。だが、こんなに豪華なもてなし、悪い気はせん」
「あー? そこの野郎二人は何をごちゃごちゃくっちゃべってんだよ? さっさとあたいを楽しませな!」
村人たちとすっかり打ち解けて、酒を注いでもらいながら鬼一はべろんべろんに泥酔していた。
「どうだ、百。お前も楽しめてるか?」
と千里が訊くと、
「お祭りみたいで楽しい」
と控えめに微笑んだ。
「そりゃなにより」
千里がそう言って甘酒を飲んでいると、
「ねーねー、千里くんたちはどうやって鬼を退治したの?」
杏子がやってきて話をせがんだ。
「あっはは……実は俺は今回なにもできてないんだ。詳しい話は鬼一にでも訊くといい」
千里が申し訳なさそうにそう伝えると、
「わかった。鬼一お姉ちゃんに訊いてみる。でも、千里くんもお疲れ様」
ニコッと笑って去っていく。
「……へへ、いい子じゃん」
一人で千里がにやついていると、
「あいたっ!」
百から太ももをつねられた。
「なにすんだよ!?」
と太ももをさすりながら尋ねると、
「別に。なんとなくそうしたくなっただけ」
つん、とすましている百だった。
「……? まあいいか」
気を取り直して杏子の方を眺めると、
「そこであのトゲトゲ男が茨を放った! 身体中ぐるぐる巻きの清姫! ところが、そう簡単にくたばるタマじゃねえ! なんとかして抜け出そうとのたうちまわる! そこでなんと! あわや尻尾が民家を押し潰そうとしている! あたいはそれを見逃さなかった! 懐から羽団扇を取り出すと、気合い一閃、かまいたちで奴の尻尾をぶったぎってやったのさ!」
身振り手振りを交えながら語って聞かせる鬼一。元からこういう姉御肌なところがあるのかもしれない。
「うんうん、それで!? 次はどうなったの?」
「あたいがぶったぎった尻尾は高く宙を舞い、なんと、こともあろうに千里の方へと落ちていく! そこで千里を守ったのが、あの辛気臭い元忍者! あたいの真似をして風の忍術で千里の頭の上に落ちてくる尻尾をぶったぎってやったのさ!」
「うんうん!」
「そいでトドメは我らが大将、百姫が大剣でずばっと一太刀! 上半身と下半身が一撃で離ればなれになって、それでめでたく、はい、おしまい!」
「すっごーい!」
これでもかと瞳をきらきらさせる杏子。
「なんだか、あっちはあっちで仲の良い姉妹みたいだな」
と千里が言うと、
「……」
つーんとしてる百。
「ん? 今度はどうしたのさ」
「別に。ただ杏子の話ばっかりと思っただけ」
「……え? もしかして妬いてるの?」
「妬いてない」
「悪かったって。今日の百もカッコよかったぜ」
「褒めてほしいのはそこじゃない」
賑やかに更けていく夜だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます