第37話 四人旅のはじまり

「あたいは鬼一。鬼の一番って書いて鬼一だ」


 差し伸べられた手を握りながら鬼一は言った。


「よろしくな。俺は千里」

「わたしは百」

「拙者は十戒だ。百殿に仕えている」

「ああ、よろしく……十戒以外は」

「な――!?」

「あちゃー、早速わだかまりができちまったか」

「だって、やりすぎだろ? さっきの雷。降参させるだけなら、もっと低い威力でもよかったってーの」

「それはたしかに」


 と、百も味方するので、 


「あ、主まで!?」


 ショックを受ける十戒。


「ならばこたびの無礼、この身をもって詫びよう。さあ、好きにいたぶるがいい!」


 と言って石畳の上に大の字になって叫ぶので、


「気持ち悪っ、ただの変態だな」


 と鬼一が言うと、


「そうか、その罵詈雑言が拙者への罰か! ならば甘んじて受け入れよう、もっと口汚く罵るがいい!」


 これには千里も呆れて、


「なんで罵られる側が偉そうなんだよ。悪いな、あいつが変態なのは間違いない」


 そうこうやりとりを交わしていると、


「大将ぉー!」

「お頭ぁー!」

「姉御ぉー!無事ですかい!?」


 次々に山賊たちが石段を上がってきた。


「や、三対一とは卑怯な!」

「いや、それあんたらが言うかよ……」

「さすが俺らの大将! 多勢に無勢でももちこたえてらあ!」

「そうです、お頭! 俺たちもお供しまさあ!」


 続々やってきて、あっという間に包囲されてしまう。が、


「いいんだ、お前たち」


 と鬼一が言った。


「あたいは負けた。正々堂々勝負して、その上で負けた。だから、あたいは責任をとって山賊をやめる約束をした。これからは、こいつらについていく。お前たちの働き口も、こいつらが見つけてくれるらしい」


 すると山賊の一人が


「そ、そんなあ! それなら、あっしもついていきまさあ!」


 と涙ながらに追いすがってくる。


 一人が言い出すと、流れというものは容易く生まれるもので、決壊したダムのように、俺も、あっしも、と大声が響く。


「ほんと慕われてたんだな、あんた」


 それを眺めながら千里が言うと、


「ああ、自慢の部下だ」


 と鬼一も微笑みながら、涙を隠さなかった。


「これからは離れ離れになることになる。が、あたいは忘れない! お前たちという可愛い部下に恵まれたことを! 共に騒いで馬鹿やってきた日々を! 絶対に忘れない! だからお前たちも覚えていてくれ! あたいというろくでなしの大将のことを!」

 




 それから一月後。


「ふー、これでやっと最後の一人の働き口も見つかったな」 


 千里が大きく伸びをする。


「ああ、達者でやってくれるといいな」


 十戒も腰をひねりながら言う。


「これであたいも正式にお前たちの仲間入りだな。で、これからどこに行くんだ?」


「慚愧という鬼狩りを探す。そして半鬼のための国をつくる」

「あー慚愧! あの三味線ばっか弾いてる奴探してんのか!」


 その言葉に百は驚いて、


「鬼一は会ったことあるの?」

「ああ、山賊から足洗えって言われたな。結局刃は交えなかったけど」

「それ、いつ、どこでの話なんだよ?」

「半年くらい前、ここより北東の方だったぜ」

「よし! じゃあ行き先は決まりだ! いざ行かん、北東の地へ!」


 こうして四人での旅が始まったのだった。

 

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