四人旅のはじまり
第32話 不穏な噂
雪の降る神社の境内に、山賊が集まって宴を開いていた。
「かーっ! さっすが姉御っす!」
「姉さんさえいりゃあ、あっしたちは怖いもんなしだぜ!」
その宴の中心に、山伏姿の少女の姿があった。服装は山伏。髪は獅子のように荒々しい黄金。笑う歯は鋭く尖っていて、獰猛さを際立たせている。そして特徴的なのが背中から生えている一対の翼。そう、彼女は烏天狗の血を引いているのだ。
「あったりめえよ! あたいにまかせとけば苦労知らずさ! これからもついてこい、この鬼一(きいち)様に!」
一方、その頃雪の降る山道を進む三つの影。刀を提げ、弓を背負った千里が、
「さすがに寒くなってきたな。肺が凍りつきそうだ」
と震えていると、
「そう? わたしはどうもないけど」
朱色の着物を着た百が言う。
「そうだな。拙者も訓練を積んだゆえ、これしきなら野宿できる」
と修験者姿の十戒も続く。
「いやいや、二人の肌感覚がおかしいんだって。聞いた話によると、近くに村があるらしいから、今日はそこで泊まろうぜ」
「それでも、かまわない」
「主がそうおっしゃるならば」
「決まりだな。そうと決まれば道を急ごう」
ほどなくして、木の壁で覆われた村が見えてきた。一応の鬼対策なのだろう。入り口の衛兵に
「こんばんは。ここで一泊させてもらいたいんだけど」
と千里が言うと、
「その大剣、あんたたちは鬼狩りなのか?」
と、聞いてくる。
「ああ、鬼狩りだけど、金はちゃんと持ってる。なんとか通してもらえねえかな」
すると衛兵は門を開いて、
「金はとらん。飯も出そう。ただし、泊める代わりに頼みたいことがある」
そう言って三人を中に通した。
翌朝。
「ここが例の山道か……」
千里があたりを見回しながら呟く。
「たしかに、隠れやすく奇襲に向いているな」
と十戒も警戒態勢に入る。
「もうすでに見つかってる。何人か来てる」
と百は匂いであらかじめ気づいている。
「そこの五人。わたしたちはあなたに用がある」
と声をかけると、
「へへっ、鬼狩り様のおでましか」
「なあに、数はこっちが多い。囲んで潰しちまおうぜ」
ぞろぞろと山賊たちが出てきた。
「なんだ、通行料を取り立てる輩がいると聞いてきたのだが、これならタダで通してもらえそうだな」
と十戒も挑発を返す。
「けっ、減らず口もいつまで言えるかな?」
「野郎共、かかるぞ!」
そう言って山賊たちが襲いかかってきた。
話は昨日の晩に遡る。
「なんだ、頼みたいことって?」
宿につくなり千里が尋ねた。
すると宿の女将が、
「実は隣の村と通じる山道に山賊が出るんです」
「規模はどのくらいだ?」
今度は十戒が尋ねる。
「まだ全容は掴めていません。ただ、少なくともニ、三十人はいるかと」
「なかなかの規模だな」
「ええ、これまでに何度か討伐部隊を送ったこともあるのですが、どれもこれも全滅で」
「そんなに強いの?」
百の問いには、
「山賊の下っ端たちは大したことはないらしいのですが、大将が鬼のように強いのだと伺ってます。というのも、その大将、実は――」
女将は躊躇うような素振りを見せたが、これで察した百が、
「その大将、半鬼なんでしょ」
と言い当てた。
「……ええ、なんでも、風を操ったり、物を動かしたりと神通力を扱うそうで、わたくしたちではどうにも敵わないのです」
ここで千里が、
「そういうのは、忍が始末するんじゃないのか?」
と尋ねると、
「忍からも手配状は出ているそうですが、その大将の操る外法や神通力には敵わなかったのです。それで、人が死んだわけでもなし、付近の鬼も狩っているし、しばらくは様子見をするとのことで……」
「ははあ、なるほど。その山賊は鬼から山道を守ってやっているから通行料をよこせと言ってるのか」
納得する千里。
「はい。ですので、かくなる上は敵の大将と同等以上の力を持つ鬼狩り様にお願いするしかないと……。」
ここで女将はすがるような顔つきになって、
「危険は承知です。ですが、わたくしたちの商いに支障が出ているのです。山賊を退治していただければ、幾日お泊まりになってもかまいません。ですので、どうか、どうか、なにとぞよろしくお願いいたします……」
と、額を畳にこすりつけるのであった。
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