第26話 忍者との出会い参

 翌朝。忍者が目を覚ますと、昨晩食事を食べさせてくれた少年と、頑なに自分を助けようとしてくれた少女がこちらを眺めている。


「……」


 忍者が目を合わせても無言でいると。


「知ってるか? こういうときは『おはよう』って言うもんなんだぜ」


 と少年。


「……おはよう。昨晩は世話になったな」


 しぶしぶ挨拶すると、


「ああ、おはよう」

「おはよう」


 少年少女も挨拶してくれる。そして、


「そういや自己紹介がまだだったな。俺は千里」

「わたしは百」


 とそれぞれ自己紹介をしてくる。


「……」


 まだ黙っていると、

「なあ――」


 と千里が口を開いたので、


「こういうときは自己紹介を返すもの、だろ?」


 と言うと、


「わかってるじゃん」


 ニヤリと笑う千里。


 それに対し、


「名は生まれたときからない。好きに呼べ」


 ありのままの事実を話すと、千里は額に手を当てて、


「あんたも名前ないのかよ。そういうのが当たり前なわけ?この世界は」


 と言う。


「でも仕事するとき、便宜上呼び名は必要だろ?最後の仕事のときはなんて呼ばれてた?」


 と訊くので、


「……十戒(じっかい)。十の戒めと書いて十戒だ」 


 と答える。


「ふーん。坊さんみたいな名前だな。そういえば、持ち物に袈裟も入っていたし」

「ああ、修験者として各地を転々としていたからな」

「じゃあ、十戒、ひとつ提案があるんだけど」


 と言う千里。 


「どうせ自分たちの罪を見逃せというのだろう」


 と、吐き捨てるように言うと、


「当たり!」


 笑って指を鳴らす千里。


「見逃すもなにも、今の拙者には貴様らを殺すだけの余力もない。むしろ生殺与奪の権を握られている。断れようはずがない」

「話が早くて助かるね」


 と千里。


「それともうひとつお願いがあるの」


 と今度は百が見つめてくる。


「千里に戦う術を、忍術を教えてほしい」

「……」


 この質問にはすぐさま答えられない十戒。


「千里はただの人間の子どもで、鬼と戦う力がない。そしてまだ覚者にもなれてない」

「……」


 なおも沈黙を貫く十戒。


「――あちゃあ、やっぱし門外不出?」


と千里が早くも諦めかけていると、


「かまわん」

「そりゃそうだよな――え?」

「だから、かまわんと言ったのだ」


と十戒。


「どうせ寝ていてもすることがない。体力が戻るまで、なぜ拙者がこんな姿になったのかをお聞き願おう」 


 そう言って十戒は語り始めた。

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