第25話 忍者との出会い弍

 百が、


「助けなきゃ!」


 と言うのに対し千里が、


「ああ、金目ものを持ってるかもしれないからな」


 と言うと、


「…………」


 じとーっとした目で見られてしまった。


「悪い悪い。冗談だって。ほら、さっさと引き上げてやろうぜ」





「って、こいつ忍者じゃねえか!」


 引き上げてびっくり、なんと青年が身につけていた黒装束は忍装束だったのだ。


 千里は、


「今の俺らは見つかるとまずい、放っておこうぜ」


 と言うが、百は


「わたしは鬼ではなく、人として生きる。だから困ってる人は助ける」 


 と譲らない。そして、


「それに、千里が知りたがっていた忍術を教えてもらえるかも」


 信じて疑わない瞳で言う。


「知るか、こいつが息をふきかえしたら俺たち殺されるかもしれないんだぞ!?」

「罰なら甘んじて受ける」

「それがお前の誇りか!? けど、そんなもんより生きてることの方が大事だろ! 死んじまったら元も子もねえ!」

「誇りとは違う。生きざまでもあり、死にざまでもある」

「……ちくしょう、そうかよ」


 これには千里も根負けして、


「しゃあねえ、こうなったら百はてこでも動かねえし、付き合ってやるか!」


 と言う。それを聞いた百は 


「千里ならそう言ってくれると思った」


 と微笑む。


「ふ、ふん。ただの気まぐれだよ」


 それを見て照れる千里であった。

 




 ひとまず近くの洞窟に担ぎこみ、身体をあらためると、無数の切り傷がある。とりわけ、胸から腹にかけて大きな傷があり、これが原因で気を失っていると思われる。


「あちゃあ、こりゃあ、こっぴどくやられてんな」


と千里。


「大事な包帯だが、旅は道連れ世は情け、って言うしな」


 といって巻いてやる。百がその間に食べ物を取りに行く。


 その後、焚き火を起こして二人して食事をする。


「忍者がやられてるってことは、半鬼にやられたんだよな?いったいどんな理由で戦うことになったんだろう」


と千里。


「朱音のような半鬼がやったんだとすると、こいつを助けるとヤバいよな。そいつがなおさら狙われちまう」


 それに対して百は、


「でも、困ってる人も放っておけない。それに、半鬼にしては匂いが濃い。強い鬼にやられたのかも」

「鬼の血が濃い半鬼って可能性もあるだろ」

「それは……たしかに、そう。でも、今は目を覚ますのを待って、それから話をすればいい」


 と百。


「なんだかんだ楽観的だよな、お前ってさ」


 と言いながら千里が食事を忍者の口に運ぶ。


 すると、


「――!?」

「拙者にも聞きたいことがあるのだが、貴様らのやましいこととはなんだ?」


 いきなり腕を掴まれる。食事をこぼす千里。


「こいつ、寝たふりして聞き耳立ててやがったな――!」


 が。


 腕を振りほどこうとするとあっさりほどける。


「……なんだよ、まだ全然体力戻ってねえじゃねえか。まだゆっくり休んでろよ。ほら、口開けな」


 再度食事を口に運ぶ千里。だが、忍者は無言。


「半鬼風情の情けは受けないってか?」


 と言うと、


「……そういう、わけではない」


 と言って口を開く。


「熱いから気をつけろよ」


 ふーふー、と息で冷ましてからゆっくりと食べさせてやる。すると、


「……かたじけない。痛み入る」


 とだけ言って、またそれきり無言になった。

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