第5話 鬼のいる屋敷
「ここから鬼の匂いがする」
目の前には塀で囲まれた大きな屋敷。
「野生児みたいなお前が言うなら、当たってるんだろうさ」
今から鬼の根城に突入すると分かっていても、不思議と緊張感はない。あの圧倒的なまでの戦闘力を目の当たりにしているから、自分が危機に陥る想像がしづらいのだ。
「で、なにか作戦はあるのか?」
「さくせん?」
「まあ、そんなこったろうと思ったよ。で、敵の数は?」
「動いている匂いはひとつ」
「ならひとりか。ありがたいこった」
一対一ならなおさら彼女が遅れをとるわけがない。
「俺はここで待っとくから、ちゃっちゃと片づけてきてくれ」
「わかった」
そう言って少女が大剣を構えて塀を飛び越えようとしたとき——
ぎぎぃ——。
そんな風にきしんだ音を立てながら門がひとりでに開きだした。
「おいおい、向こうからお出迎えかよ」
思わず千里が後ずさると、代わりに少女が少年の前に立つ。
やがて門が開ききり、少女が地面を蹴って突入しようとしたとき、
「待て!」
少年はうっかり、そう叫んだ。
なぜなら、そこに立っていたのは、おぞましい鬼などではなく、朱色の着物を着たひとりの人間に過ぎなかったから。
「なんで止めるの?」
大剣を構えたまま、相手から目はそらさずに少女が問う。
「なんでもなにも、そいつどう見たって人間だろ」
「でも鬼の匂いがする」
「だからって問答無用で殺すのはまずいだろ!」
2人で言い争っていると、
「あの~それは——」
朱色の着物を着た女性の方から話しかけてきた。
「それはあたしが、半鬼だからじゃないかしら」
「半鬼——」
聞きなれない言葉だが、その意味は千里にもはっきり分かる。目の前に立つ少女と同じように、
「半分鬼の血が流れてるってことか?」
少年がそう確認すると、女はゆっくり頷いて、
「ええ、そうよ」
しかし、これには少女が
「でも右手の甲に鬼印がない」
と女の右手を指差した。
たしかに、女の右手の甲には少女のような焼き印はない。ということは、あれが半鬼、すなわち鬼狩りの証なのだろうか。
しかしこの指摘にも女は
「そのとおりね」
と頷くばかり。ただ、今回は顔をあげたあとうっすらと微笑んで、
「そのことも含めて、中でお話ししない? あたしにできるかぎりのもてなしをするわ」
と提案してきた。
「その話、のらせてもらう」
ちょうどいい。この世界のこと、とりわけ鬼や半鬼について教えてくれる人を探していたのだ。少女は鬼を殺すことが役目だとしか教育を受けていないみたいだし、そのあたりのことを訊くいい機会だ。
「こっちも話ができる相手を探してたんだ。だから、な? 剣はひとまず収めようぜ」
そう言って少女の肩に手を置くと、
「話が終わったら殺す」
と物騒なことを言うので
「おいおい、さっきの話聞いてなかったのか? この人は半鬼、つまりお前の仲間だよ」
「私に仲間はいない」
「俺のことまで否定かよ……」
がっくりとうなだれていると、
「でも、そこまで言うなら話だけは聞く」
と、少女なりに興味を持ったようなので、
「よし、じゃあそういうことで、とりあえずお邪魔するぜ」
二人は門をくぐり、招かれるまま屋敷の中へと入っていった。
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