自分が決めた未来
何やかんや考え、話数を二話ほど増やした。正直長編にすればよかったなと思います笑
***
俺は結婚することになった。
だが、すぐ……というわけでは無い。
卒業してから、ということにした。
「おおせ……舞花はさ」
大瀬戸、そう言いそうになった時目の前の彼女はじろりと睨みつけてきた。
逆に舞花と呼ぶと嘘のように、にやにやと。
「本当に、結婚はこのタイミングでいいのか?」
「どういうことよ?」
キョトンと、何も考えていないかのように言った。
「いやいや、ほら……留学……とか、あるだろ?」
噂だが、舞花は海外の音楽大学に推薦で行くことになっていたはず。
そんな時に結婚が被ったら、絶対に忙しい。
「あー、留学ね、もうとっくに断ってるよ」
「へ……?」
確かその大学は世界的有名な作曲家を何人も出しているところだ。
「いや、どうしてだよ……舞花なら全然やっていけると思うぞ、頭もいいから言語はわかるだろうし音楽理論も理解できるはずだ。何よりその天才的な作曲センス……もったいないと思わないのか?」
俺からしてみれば……いや、全音楽ファンからしてみればとても勿体無い話だ。
「あのねぇ、そもそもだけど元々私はお母さんへの手紙として作曲をしてるの。プロになるつもりはないの」
……でもそれなら尚更思ってしまう。
「じゃあなんで音大に入ったんだ?」
「……私はずっとお父さんになにもできなかった。お父さんは、ピアノを弾く私を見て喜んでいるのに気づいた。そこでピンと来た。お父さんの夢を引き継ごうって……プロの作曲家になろうって。でも、太郎くんとの連弾の後、お父さんに言われたよ。『好きな事をやりなさい、舞花の未来は舞花が決めなさい。まぁ、今舞花には太郎くんがいる。私はどんな未来でも応援するよ』って。多分、お父さんは最初から私が音大に入った理由を知ってたの」
「あの人が……そんな事を」
ちょっとプレッシャーだ。
でも……それでも考えてしまう。
本当にいいのかを。
「それとも、太郎くんは自信ないのかな? 私を幸せにするんじゃなかったの?」
「するさ……でも」
「でも……じゃなくて! 言い切りなよ、私を幸せにするって」
適当に決めたと思っていた……が、舞花は真剣だ。
俺の覚悟がないだけなのだろうか。
いや、プロポーズまでしたんだ!
ここで引いてたまるか。
「……よし、わかった。お前を幸せにしてやる!」
すこし、ヤケクソ感はあるが気持ちは本当だ。
「おおー」
ぱちぱちぱち、と拍手。
「じゃ、行くぞ!」
「おぉー……お?」
文字通り、困惑。
どうすれば舞花を幸せにできるか、と考えた結果……。
ひたすら一緒にいることしか思い浮かばなかった。
だからとりあえず。
「わぁ、この魚おいしそ〜」
「水族館に来てその感想はどうかと……」
思えば初めてのデートだ。
ずっと喫茶店しか行っていなかったからな。
「ねー太郎くん! イルカショーだって!!」
「わかったから! そんな引っ張んなって!」
舞花は子供のようにはしゃいでいた。
……というのも、水族館に来るのは子供の頃以来らしい。
マジか……と思ったが、それはすぐ納得に変わる。
ずっと作曲しかして来なかったもんな、当然といえば当然だ。
「きゃ! 水がはねてきたよ!! 太郎くんずぶ濡れ!」
ここまではしゃぐ舞花は見たことがない。
デートを一回もしなかったのが悔やまれる。
「楽しかったか?」
「うん! 凄く!」
「よし、じゃあ次だ!」
驚く彼女の手を引き、俺たちは駆け出す。
遊園地、日を変えて動物園、公園、温泉……この一週間行けるところはとりあえずたくさん行った。
お金は気にせず(少し大吾さんが笑みを浮かべ渡してくれた)
これまで遊べなかった分を全て埋めるように。
この一週間に凝縮した。
そして7日目、今日は……。
「家でゴロゴロも良いねぇ……」
「あぁ、この頃ずっと出かけてたからな。最後は家でひたすらゴロゴロだ」
床に二人して大の字で寝る。
たまにゴロゴロと動いて雑談をする。
「俺の覚悟は伝わったかな?」
「うん……十分過ぎるくらいにね。この一週間ほんっっっっとうに楽しかった」
ゴロゴロと俺にタックル。
と思ったらそのまま背中にくっついた。
「……汗かくぞ」
冬といっても床暖があるこの大瀬戸家ではくっついてたら汗が出てくる。
「たまにはこういう日もいいでしょ?」
「……」
随分と、あった頃から比べ積極的になった。
たしかにこの一週間、舞花はテンションが子供のように高かったがそれにしても、だ。
こんな風に甘えることもたまーにある。
ただ……こういう日は大体。
「うぅ……舞花、大きくなったなぁ……幸せになるんだぞ……」
このカップルのイチャラブを陰から見守る父もセットだ。
この変な光景。
でも相当な幸せを俺は感じていた。
「これ、君だけにあげる」
「これは?」
「君に贈る曲。曲名は『太郎』」
「ぶっ……俺の名前かよ!!」
こんな毎日が、ずっと続くのだと思うと、俺はワクワクが止まらなかった。
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