第27話 言葉を交わす人たち②
青白い炎は
そんな、また守れなかった。
「そりゃね」サンが補足する。「
「平然と言ってんじゃねえよ!? 何でこんなことするんだよ!?」
「私じゃないわよ。ヅイスは多神教だから、他の誰かでしょ」
「だとしても何かフォローはねえの!? 仮にもお前の信者だろ!?」
「信者だからこそよ。可哀想だけど、魔に堕ちた以上、自ら命を絶ってくれたのは信仰への帰依。彼女も本望……」
話の途中で、棺桶の蓋が盛大に吹っ飛んだ。
俺は驚きで肩が跳ね、サンの髪は逆立ち、
両手で顔を覆っているが、
「まだ生きてたか!」
と、叫ぶと共に、蘇った
サンの両頬を鷲掴みにし、俺と問答無用で向き合わせる。
「何やってんの!?」
「だって折角、格好いいこと言えたんだもん。水を差されちゃあねえ?」
「頭おかしいんじゃねえの!?」
「誰が頭よ」
再び、棺桶の蓋が盛大に吹っ飛んだ。
幸い、
しかし、心はどうだろうか。息は荒く、元々血の気のなかった顔は更に蒼白になっている。うろたえながら震える両手を見つめ、自らの身体を探り、再び両頬を手で覆った。信奉する神に刃を向けられた喪失感や、いかほどだろうか。
「ぶっは! リスポーン地点みたい! マ●クラかしら? ●ザーに棺桶置いてみてよ! バフ付くわよ! アハハハ!!」
「お前いい加減にしろよ、ワ●ップ女神!? 大丈夫か、聖女さん!?」
震え、怯えているであろう聖女の下へ疾く馳せる。
「私……、私は、……今」
「大丈夫、大丈夫だから」
俺の手を握ってくれた彼女に、同じことすら返せない。それがとてももどかしい。
信仰を、祈りを奪われるということが、どういうことかは俺には想像もできないが、今までできていたことが全くできなくなる苦しみは、浅くともわかるつもりだ。
「神の御手が、私めを撫でてくださった!!」
……はい?
ハッと天を仰ぐ彼女の顔は、天啓を得た喜びと興奮に色めき立っていた。
「嗚呼、嗚呼、天にまします我らが主よ!」燃え尽き、復活。「嗚呼、また! 何と、何と畏れ多い! 多く施し、また奪わせず、多く求めず、また拒まず!」燃え尽き、復活。「これを固く誓い、あたわざる者を赦し、為さざるに鎚は下らん!」燃え尽き、復活。「嗚呼、それが貴方様の御手の御形なのですね! 何と熾烈で熱く神々しい……! もっと、もっと抱きしめてくださいぃ!!」
「ストップ、ストーップ!! 多く求めず!! 多く求めず言った!! あなた!! 嘘つく、よくない!!」
とにかく止めようと、咄嗟に通用するかどうかわからない言葉をかけたが、
何が何だかわからない。
一体、彼女の中で何のスイッチが入ったのだろうか。祈りの言葉のようなものを唱えては死んで復活を繰り返して、神に触れたと喜ぶとは、狂信か? 狂信者なのだろうか?
病んだ瞬間から薄々予感はしていたが、この一瞬で聖女の中に眠る狂信者の才能が開花してしまったのか? まさか、あんな温かな手と優しい言葉をかけてくれた彼女が……
ああー、ダメだ! この人、目が泳いでいる! ソワソワし始めちゃったよ! 祈りたくて口がむずむずしてらあ! 狂信者だ! 嘘だと言ってくれ! 覚えたての遊びにドはまりして顔がツヤッツヤじゃねーか!
「そ、そうだ! 自己紹介、自己紹介まだだったよな!? な!?」
近くにいた
「だよなあー! アハハ! 遅くなってごめんな! じゃ、僭越ながら! 知っての通り、俺は女神サンサーラの使徒、預言者、英雄、勇者、幽霊、
「人間どもー、信仰してるー? 余であるぞー」
「サ、サンサーラ様!? 本当にサンサーラ様なのですか!?」
「……レツィぴ」
「ほ、本物……! 嗚呼、何と、おいたわしい姿に……!」
「あなたが思うより健康です」
「うっせぇわ」
やっぱりあの神託、原文で受信してるんじゃねえか! あだ名で真偽判定してんじゃねえよ!
じゃあ送り返されたのも原文じゃねえか!! 可愛いなこの狂信者!!
阿吽の呼吸・参ノ型・渾名――
うっせぇわ! 二番煎じの言い換えばっかりよお!
「はいはーい、神は最初から生首なので心配要りません!!」
「左様でございますか!?」
「違う」
「左様です!!」
「今、違うとおっしゃっていませんでした……?」
「おっしゃっていません次!!」
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