第26話 言葉を交わす人たち①
「本ッ当に、すみませんでした!」
俺はアンデッドと成り果てた五人に向かって土下座した。
というか、今ので一瞥はくれたが、リッチーは相変わらず離れた場所で残骸を漁っているし、キョンシーは一瞥どころかずっとピョンピョンしているし、面と向かってくれているのは残りの三人だけなのだが。
いや、グロブスターも自分の腕やら足やら胸やらに、腐肉を一点集中させる遊びに夢中になっているから怪しいものだ。
ともかく、アンデッド化の影響で、俺の姿を見れるようになったのは、不幸中の幸いと呼ぶべきか、謝罪を余儀なくされてむしろくたびれ儲けと呼ぶべきか。
いずれにせよ、一回目の爆発の原因になったのは俺だ。それに、勝手にアンデッドにしてしまったのは、きっかけはどうあれ、俺も加担している。ここで下がらない頭なら斬ってしまえ。幽霊だけど。
ちなみに、喪服は無事だった石柱に荒縄でふん縛っておいた。絶対騒ぐと踏んで猿ぐつわも噛ませておいたが、正解だったようだ。できれば鉄柱に縛りたかったくらいの暴れようである。
「不可抗力とはいえ、一回目の爆発は俺が原因だ。召喚の魔法陣も滅茶苦茶にしたし、二回目の爆発も、俺の影響がなかったとは言い切れない。どうやったら償えるのか見当もつかないし、謝罪を受け入れてくれとも言える立場じゃないけど、とにかく謝らせてくれ! 大変申し訳ございませんでした!」
儀式の失敗による損害、不幸な事故に遭った死傷者に始まり、街一つが滅び、挙句の果てには本人たちの望まない魔物化。手に負えない状況で手を尽くした結果とはいえ、国賊として処されてもおかしくはない所業の数々である。
とても頭を下げて済む問題ではない。のだが。
この世界に来たばかりの俺に、他に今すぐできることなんてねえよ!
額を地面に擦りつけるのが精一杯だ。
それも、魂だから地面すら通り抜けるし。
「全くッ、迷惑千万ですことッッッ!! しかしッ、許して差し上げますわッッッ!! 背中のように広い心でッッッ!!」
「胸張ってねえでテメェも頭下げろや筋肉メスゴリラァッ!! 前半分デカすぎてお辞儀もできねえのか!? 筋肉核爆弾コラァッ!!」
「嗚呼ッッッ!! 意味不明な罵倒かと思いきやッ、コールを心得ておいでねッッッ!! そこの殿方ッ、只者ではありませんわッッッ!!」
「会話になんねえな!? もういい!! テメェの分も謝るから!! 街を吹っ飛ばしたことなんて、謝っても謝りきれねえけどな!! 両手両膝でこっぱち、どこにも土が付かねえし!! なんで!? そう、もう死んでっからだヨ!!」
荒ぶるストレスに、ふわり、包む慈しみ。
筋肉女を指す右手が、
魂である俺に、たとえアンデッドであろうと肉体的な接触は適わない。そのはずなのだが、その両手はどこか温かく感じた。
「どうか心をお鎮めください。……英雄様、でよろしいのですね?」
夜の眷属でありながら、どこか初春の陽気のような、ほのかな慈愛を感じる声。俺の不安の一切を見透かし、罪悪感に凍える魂を融かす、優しい言葉だった。
「確かに、遺憾ながら、取り返しのつかない事態にはなりました。どのような形であれ、この罪は償っていただかなければ、モドグニク王国の示しがつかないでしょう」
もっともである。
どのような償いを求められようと、覚悟している。
「しかし、今、我々が果たすべきことは他にあるはずです。魂が輪廻の奔流に還ろうとする中で、私を世にお引き留めてくださったのは、御言葉でした。たとえ魔に身をやつしても、使命を果たせという、女神サンサーラ様と、貴方様の御言葉にございます。私は、私は、嬉しゅうございます。本来であれば、志半ばで終えるはずだった私めの命に、どのような形であれ二度目を御下賜くださったことが、大変、嬉しゅうございます」
聖女だ。
この方は紛れもなく聖女だった。
少なくとも、生首になった神よりも尊い心をお持ちの御方に違いない。
この世界に来て初めて触れた、掛け値なしで清らな心は、俺の心をも温もりで満たし、目から溢れさせていた。
何と神々しいお方だろう。
「ならばこそ、何よりもまずは我らに務めを果たさせてください。共に英雄の務めを果たしましょう」
ええ子や!!
何て子を巻き込んだんだ俺は!! 不可抗力とか言って、逃げ道を作っていた自分が恥ずかしい!!
「……その後に、諸共、史上最悪の国賊として、共に国へ首を捧げましょう。それまでは絶対に逃がしませんからね……!!」
こっわ!!
急に病むのやめてください!!
なんて言える立場じゃねえんだよなあ!!
「将来の償いはさておき、ああ、神よ。得難い機会をお与え下さり、感謝申し上げまスボァーッ!?」
神に感謝の祈りを捧げた聖女――もとい
これには
「レツィス様ーッ!?」
「死んだァーッ!?」
俺も絶叫した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます