第17話 ガチャで爆死する人たち⑤

「……それは?」

「ヘイローダッシュボタン」

「小ネタのデパートかよ、お前はよ」

「ジョブズからパクってないわよ」

「ベゾスからパクったんだな」

「パクったのは失敗だったわ」

「だろうな」

「毎度、ヘイローダッシュっす。サンサーラ様にお届け物っす」

「いや早いな」


 いつの間にか、見覚えのあるつなぎの配達員が小箱を抱えてサンの傍に立っていた。一連の手続きを終えて、早速開けた箱の中身とは。


「いや箱一杯ヘイローばっかりかい。こんなのばっかりでどうするんだ」

「ヘイローが魔法のスマホだと思っているなら大間違いってこと。見てなさい」


 サンがヘイローの束を無造作に放り投げると、淡い光を放って空中に浮かぶ。指揮者の真似事のように拍を取りながら、それぞれのヘイローに指示を飛ばすと、ヘイローは生きているかのように振る舞い、各々がレツィスやミア、魔法陣を囲む召喚師の頭上へ向かい、滞空した。

 そして、いつになく神妙で厳かな面持ちのサンは、手持ちのヘイローに手をかざす。


「サンサーラの名の下に、篤信の徒らへ、一時の神威を授けん」


 ヘイローへ力を注ぐサンサーラ。

 時を同じくして、浮遊するヘイロー群より、召喚師たちに光が降り注ぐ。

 光は彼らの身体を巡り、魔力の奔流となって大気が逆巻く。燭台の炎は猛り、魔法陣と同じ蛍光に変じる。蛍光は、暗闇に閉ざされた天井に星々の如き瞬きとなって浮かぶ。風と火と星が陣に誘われ、目的に足る魔力を注がれた魔法陣は稲妻を伴う閃光を放ち、中央に集い、光の繭を織る。

 繭の暖かな光は脈動し、七色に変じていく。

 それはまるで、嵐の只中に立っていながら、その暴威を被らず、その脅威を傍観するだけのような、心を高揚させる光景だった。

 成功の兆しを見せる召喚魔法に喜色ばむ中、労力に対する成果が一度目から見違えるほど変化していると、レツィスとミアだけが気付いたようだった。

 やがて、繭の中に人影らしきものが現れる。

 それはおぼろげながら、何年と目にした輪郭。

 この世界で俺だけがわかる、俺自身の姿だ。


「さあ、心して臨みなさい」サンが背中越しに語りかける。「女神サンサーラの使徒として、世界の荒波を鎮める戦いへ!」


 光の繭が解ける。

 膝をつき、背を丸めてたたずむ男。中から姿を現したのは、紛れもなくスーツ姿の俺だ。


「肉体に触れば、魂が戻るわ。ここまでカッコよくお膳立てしてあげたんだから、凛々しく名乗り挙げてきなさい。ペカッ」

「……ドヤ後光はやめろっての!」


 俺は俺の身体の下へ走った。

 結局、サンには振り回されてばかりだったが、きちんと役目を守り、俺へ道を示したあたり、ちゃんと神様だったのだ。

 あんなろくでもない女神に、思い知らされるとは。

 あんなハチャメチャな女神の下に就いたのだから、この先、何があっても大丈夫な気がする。

 だから今度は、臆さずに自分の人生を生きる。

 そう決めて、自分の身体に触れようとしたその時――。


 他の影が、俺の身体の目前に迫っていた。

 外套を纏い、ペストマスクを着け、両腕に鉄爪を伸ばす小柄な人間。素早く、音もなく、闇に溶けて闇より浮かんだように現れたそれは、俺の身体目がけて、爪を振り下ろす。

 俺、サン、召喚師たちの驚愕を置き去りにして、刺客の凶刃が迫る。


「ちょ、何これッ――」


 間に合わない。

 そう思ったその時。

 俺の身体は熱と光を放ちながら膨張する。光と熱は人々を呑み、地下空間をホワイトアウトさせた。

 俺の身体が、爆炎を轟かせて、地下空間を吹き飛ばしたのだった。

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