第13話 ガチャで爆死する人たち①
鎧を着込んだ兵が、荷馬車に詰まれた剣の一本を鞘から抜き、刀身を吟味している。兵士は、二本目を見た後、すぐに剣を元の場所に戻した。
「ヒティムズ殿の工房でありますか?」
荷主の商人は驚いたように目を丸くし、顎髭を撫でた。
「おわかりで?」
「ええ。重量も重心も、寸分の狂いもない……まるで剣の双子のように均質で、堅実な造りは使い手を選ばない……見事であります」
「ほう、番兵であるのが勿体ない」
「ハハッ、まさか。売り物を手放せない武器商が成り立つでありますか」
「品を愛でるのは一流の証。娘の婿にはそういう者をと思う」
「でありましたら、剣を探されると良いであります。鞘ばかり二つでは、どうにも具合が悪いでありましょう」
「むっ、これは失敬。てっきり殿方とばかり……。であれば、なるほど、余程お好きなようだ」
「趣味でありますよ。良い武器であります。ようこそ、エアモ・ツネスへ」
そうして商人は検問を通り、城壁内の都市へ荷車を進めた。
「では次の方」
モドグニク王国、旧王都エアモ・ツネスは、地下に広大な古代遺跡を有する城郭都市である。
人類が踏破した数少ないダンジョンの一つである古代遺跡は、その構造自体が結界として機能する。踏破後の大改修と共に結界も復元されて以来、奠都から遷都を経て、都でなくなった後の世でも不落の名の下に人は集い、今日まで繁栄し続けてきた。
しかし、魔族の侵攻により、モドグニクの国境は徐々に後退。対する王国軍の健闘も及ばず、侵攻された地域から国民を避難させる時間を稼ぐことはできたものの、ついには王国のほぼ中心地に当たるエアモ・ツネスにまで防衛線を下げることとなった。
後にモドグニク王はエアモ・ツネスを国防の要と定め、実質的な敗走という形で新王都オゴ・ツネスに王政機能を移転する。
国土の三割を奪われ、難民も多数。戦争特需に沸くエアモ・ツネスに運良く移住できた者は良い。だが、行く当てすらない者たちを支援するには、生産力を失った国の懐は心許なかった。
そのような支援から溢れた多くの者は城壁を寄る辺として粗末な居を構え、明日をも知れぬ生活を余儀なくされていた。
壁の内外で明暗が分かれる。故に、連日のように、城門には逃げ延びた民が殺到している。
武器商人の次に検問を受ける彼女も、その一人のようだった。
「ウオビス・イムズ……イプネフ村の薬師……」
番兵は書面の名前と、女性の顔を交互に見比べた。
黒の喪服とベールに身を包み、泣きぼくろに儚さを漂わせる、妙齢の女性だ。ダークブロンドの長髪を団子にまとめているが、旅の最中に崩れたのか、みすぼらしく荒れている。
「失礼でありますが……お一人でここまで?」
「……ええ、ご覧の通り」
「それは、さぞご苦労なされたことでありましょう」
喪中の女性が一人、慣れない土地に流れ着く。置かれた身の上や、ここに来るまでの苦労は、察するに余りあるだろう。
しかし、番兵には腑に落ちない点もあった。果たして、ウオビス・イムズの素性は、資料や態度通りの人物像なのか。
チラリ、と番兵はウオビスの隣を見やる。
「しかし、これはまた、随分と大荷物でありますね」
二頭引きの馬車に、幌の形が変わるほど、ギュウギュウに詰まった荷物。多くは書物のようだ。どのような内容であれ、金を工面するには良い選択だが、移動に支障が出るほど積み込むのは、欲が過ぎるのではないだろうか。番兵はそう考えた。
ロマの虚ろだった目が、一瞬だけ見開かれた。所在なさげに視線が泳ぎ、おもむろに俯いた。
「夫共々、薬師を営みながら、魔術研究の真似事をしておりまして……。調剤用具さえあれば良かったのですが、あの人の書き残した物と思うと、どれ、も、捨てるに、捨て、られなく、てぇ……!」
ウオビスの肩が震え、すすり泣く。
「し、失礼! 出過ぎた真似でありました! 移住許可証も問題ないであります。どうぞ、お通りください。エアモ・ツネスは安全であります。苦しい思いをされた分、安らかにお過ごしください」
「うう……っ、ううう……」
はーい、承知してまーす。
私、ロマ・ナイギッド。今をときめく死霊術師。
一に死にたくない、二に死にたくない、三に死なない、四は言語道断で、五に死にたくない。とにかく死にたくなくて、完璧な不老不死を目指して鋭意研究中。
世の乱れに乗じて、適当な村で死んだ奴の戸籍を乗っ取って、安全で資材も集まるエアモ・ツネスに潜り込もうと思って一芝居打ってみたら、面白いくらいにハマっちゃった。
大女優ロマちゃん爆誕の予感!?
でもでも、ロマ、研究で忙しいから、そのスカウトは辞退しちゃう。
何だか幸先良い感じ。このまま夢にまで見た永遠の命を手にするのも、案外近かったりして。
でもでも、死霊術は禁忌だから、見つからないように気をつけなきゃ。
よぉし、ここから始まる新生活で、アンデッド極めちゃうぞ。
という、ウオビスことロマの下卑た笑みは、俯きの陰に隠れて、誰にも知られなかった。
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