第7話 拾う神がコレ⑥

 閑話休題。


「底辺の人間を選ぶって言ってたよな? 底辺である必要は何だよ?」

「自分を底辺って認めちゃって大丈夫? 泣いちゃわない?」

「後は上がるだけらしいからな」


 肩越しに交通事故死の神に目配せすると、彼は親指を立てて頷いた。去り際、俺を通さない不可思議な扉から、ささやかなエールを送るように会釈して退出する。


「神も人間も、男ってよくわからないわ」

「良いから答えろって」

「必要性だっけ? 突然有能な人間が居なくなったら、混乱の火種になるでしょう? 重要な人間であればあるほどね。だから、そういう人間ほど手を出しにくくなる」


 なるほど、もっともだ。だが。


「それだけだと、底辺で十分な理由がないな」

「元々、誰であろうと十分な力は備わってるのよ。あんたの世界の考え方で一番近いのは真空の崩壊ね。知ってるかしら?」

「シン●ヴァの最後らへんでカ●ルがそんなこと言ってたなあ、としか」

「えーと、ね」


 サンが空の封筒を手に取ると、突如その封筒は発火した。燃え尽きた封筒は、サンの手の平に灰を残すばかりとなる。


「燃え尽きた灰が、別の世界なら……」


 その灰をもう片方の手へ移すと、炎を取り戻した。


「……再び燃え盛るように、世界を支配する法則が変われば、あんたも魔法や超能力が使えるようになるの」

「異世界に行けばスーパーヒーローになれるってか?」

「ええ」サンは首肯する。「太陽を浴びた新聞記者みたいに」

「……ふーん」


 正直、まだサンの説明を鵜呑みにはできない。

 神と認めるのはまだ良いとしても、問題は俺が異世界に行くリスクだ。

 異世界転生に関する説明は口先だけ。説明を実証してみせたり、自然と備わると言う力の実感を持たせたりする配慮はほぼない。真に迫る雰囲気だけで俺の死、あるいは障害の責任をうやむやにされた。あくどい人間の手口に似ている。

 ただ、態度や話の内容だけなら、単なる悪ふざけか悪趣味な暇つぶしか。それなら迷惑には違いないが、与太話を聞くだけなら大したことはないだろう。

 何より俺は、生まれる時代や世界が違ったならば、と夢想してきた。


「……それで、どんな世界に行くか、前もって教えてくれるんだよな?」


 サンはにっこり笑って返した。


「いくつか候補があるんだけど、向こうの様子、見てみる?」

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