第26話 支柱にするもの:後編

 白い息を吐く。口いっぱいに広がるコーヒーの苦味は嫌いじゃない。

 だが自分でコーヒーを作ると微妙に口の中が泥臭くなって好きではない。昔コーヒー嫌いだった父が泥水呼ばわりしていたのを思い出した。

 コーヒーを飲む時は大抵夜中に動かないといけない時なんかで好き嫌いなんて言ってられない状況だった。

 でも今は好きで飲んでいる。瞼を閉じ、カップからのぼる香りを楽しむ。肩の力を抜ける時間は貴重だ。

 黒いコーヒーに写る自分の顔は酷く疲れて見えた。


「ステアーさんはどうしてこの渋谷に?」


 目の前で片目隠しの少年が笑顔で私を見つめている。

 透き通った水色の宝石のような瞳ひとつ、その中に私の顔が映り込む。

 そこで私は我に返った。そうだ、ここは渋谷で、川崎ではない。故郷と同じ間取りの食堂で私は私を見つめるホープの顔を見返す。

 どの位時間がかかったのか分からないが、私が人の前で呆けていたのは間違いない。

 ホープは眉頭を上げて小首を傾げる。


「ん、ああ、ごめん。なにかしら?」

「どうして渋谷に来たのかなって思って」


 ようやく言葉が頭に入ってきたところで、カップを置いた。すると私の右側で足を小刻みに動かし貧乏ゆすりしている蛭雲童があっと素っ頓狂な声をあげた。


「そういやぁ結局ここまで案内しやしたが、詳しい事情は聞いてなかったですぜぇ」

「そうだったかしら」


 半ば投げやりに返すと蛭雲童は苦笑する。


「だって最初は俺に案内させた後は殺すみたいな剣幕だったでしょう?」


 蛭雲童の言葉に反応したのはホープだった。唖然とも緊張ともいえる曖昧な表情でその青い瞳を私と蛭雲童とを行き来する。

 私はそういわれ、ああそうだな。とため息混じりに流したのだが、やはりホープは食いついたようだ。


「え、あの……お二人はどういう関係なんですか?」

「ホープちゃんよくぞ聞いてくれた! このお姉ちゃん怖いんだぜぇ?」

「誰がお姉ちゃんだ気色悪い。……仕方ないわね」


 仕方ない。別に黙っていなきゃ行けない話でもない。

 川崎ヴィレッジでの一件、コロナという少年を追って横浜を出た事、理緒を一人置いてきた事、小杉での出来事、枸杞の死、蛭雲童との出会い。それらをホープに要所要所を掻い摘んで話した。

 蛭雲童はわざとらしくそれに相槌していたが、ちゃんと話が頭に入っているか怪しいものだった。

 自分で話してみると、半月くらいの間に多くのことがあったなと思う。

 手短に話すつもりだったのに、話し始めるとついつい必要無いでだろう事柄まで話してしまった。

 ホープは真剣に、優しい表情でそれらを受け入れるように聞いてくれた。そして話し終わると真剣な表情になる。

 それはその小さな体と幼い顔つきとは思えない程に大人びていて、その顔はまだ見たことの無い母の顔のようで、まだ会って数時間の少年に母性のようなものを感じた。

 川崎を出て長らく地上にいて自分の感性がおかしくなってきているのではと思ってしまったが、話を終えた後のホープの表情はまさに子をたしなめるような親の顔だ。これは他の家族の姿を見てきたからわかる。


「それで、そのコロナさんを追って魔都に入ろうと?」


 ホープの言葉に私はしまっていた電子地図をテーブルに置いて地図を表示させた。

 薄緑の光が四角に広がると、平面地図が表示され、自分のいる場所にアイコンが乗っかる。その様子を見て驚いたのはホープではなく蛭雲童だ。こんな完璧な状態で機能する電子地図始めてみたと言って誰よりも興味深々といった様子で表示された渋谷周辺マップを覗き込む。


「これを見る限り、塀は隙間無く魔都を囲っている。中に入る方法、ここにあるんじゃない?」

「それは……」


 うろたえるホープ。嘘はつけない子だな。私もデタラメに言ったつもりではない。ただのミュータントを警戒するくらいならあんな駅を封鎖するような程に厳重な警備をする必要は無いだろう。

 この辺にいるミュータントは私や蛭雲童で数が負けていても処理できてしまう。私は確信していた。


「あるんでしょう。魔都に繋がる道が」

「お、そうなのか? どうなんだ?」

「うっ……えっと……」


 私と蛭雲童に見つめられ、席に座ったまま背筋を伸ばして困った顔をしているが、その表情には強い意志を感じた。我が強いというべきか、理性的というべきか。自分の考えを押し通すという性格が見て取れた。


「……お察しの通り、わざわざ少し歩いたところの駅を封鎖して警備しなければならない理由は強力なミュータントが出現する場所であるからです。そして、その出現する場所は地下鉄の線路の奥からです」

「地下鉄か……」


 蛭雲童が眉間に皺を寄せて苦々しい顔をする。地下鉄は核崩壊後の熱波と汚染で地上に出れない人々の各シェルターを行き来できる唯一の道として使われてきた。

 地下鉄の無い駅に出来たヴィレッジシェルターはその一基で機能できるような作りであったが、全てのシェルターがそこまで量産するには技術面よりも資金面で問題があったらしく、人口が多い東京周辺はその地下鉄網を活かし、大量のシェルターにそれぞれの役割を持たせる事で一基にかかる建設費を安くしたと聞く。

 だが今現在、地上で我々が物資のやりとりをしている。理由は色々あるが一番多いのは地下鉄の崩落で行き来できない場所がある。

 そして暗闇からのミュータントの襲撃、それに閉所で対抗しなければならないという事だ。

 早期にトンネルが崩壊し、食料を自力でやりくりできなくなったヴィレッジシェルターもあったと聞く。そんなシェルターの未来など火を見るより明らかだ。

 暗く、ミュータントが潜んでいる地下鉄は私達人間の間では化け物の巣窟という認識であり、野蛮なブリガンド共でも避けて通る場所なのだ。

 蛭雲童が嫌な顔をしたのは恐らくブリガンド時代に色々いい思い出が無かったのかもしれない。

 ホープは話を続ける。


「そして、あの地下鉄の先は魔都へと続いており、地上に出る事もできると聞きました」

「聞きました。とは?」

「戻ってきたものが全身傷だらけで錯乱していたので信憑性が無いと言うことです。その人は最終的に……自殺されました」


 言葉を詰まらせながら

 ホープの言葉に蛭雲童は青ざめる。しかし、蛭雲童の感情もホープの思惑も私には関係の無い事だ。恐ろしい話を聞かせてこちらの出方を伺っているんだろうが私には通用しない。


「手がかりがそれでも私は行くわ」

「ダメです。自ら命を散らしに行くような真似はさせられない」


 ぴしゃりとホープは食い気味にいってくるが、ホープがなんていおうと私の決めた事をここまで来て曲げるわけにはいかない。ここまで来るのに既に多くを巻き込んでしまっている。

 私と出会わなければどうなっていたかも分からないが、枸杞は私と出会って死んだ。私を殺させる為に薬を使われて、その過剰摂取で死んだんだ。

 理緒も置いてきて、もしかしたら私を恨んでいるかもしれない。蛭雲童も私があの部隊を滅ぼさなければまだブリガンドとして生きていただろう。

 今更ここで一人の少年に駄目ですといわれて、はいそうですかと引き返すわけにはいかない。


「その答えは、私の腕っ節で示すわ」

「正気かよあねさん!」


 傍から見たら、どう考えても自暴自棄になっているようにしか見えなかっただろう。もしくは子供の話を信じない大人か。私は自棄になっているつもりも子供の話だからと聞く耳を持たないというわけでもない。強いていうなら、私には帰るところなんてないだけなのだ。


「世界が憎いの?」


 突拍子の無いホープの言葉に私は息を飲んだ。いきなりの言葉に、そんなわけ無い。という言葉が出てこなかったからだ。


「それは……」


 私は咄嗟に言葉に詰まり、答えることができなかった。ホープは伏し目がちの私をジッと見つめてくる。無言の重圧だ。

 こんなプレッシャーを感じさせたのは他でもない父以外には初めてで、どう返せばいいかわからない。ムキになるのも大人気ない。

 言葉に詰まっているとホープは席を立ち、また厨房へ引っ込んでしまった。そして直ぐに戻ってくると手には湯気が立ち上るコーヒーを手にしていた。

 黙ったまま席に着くとホープはやっと口を開く。


「ステアーさん、聞いてほしい。……ボクは、ミュータントなんだ」

「え……」

「はぁ? なにいってんだ。どう見ても生意気なガキにしか見えないぜ」


 一言多いが蛭雲童のいう通り、目の前にいるのは目と髪の色が少し変わっている一人の人間だ。

 しかしホープの真剣な眼差しは冗談だとは語らない。ホープがゆっくりと手にしたカップを口に運び、口元が隠れた瞬間、その変化が起きた。

 湯気が消えたのだ。いや、湯気が消えたというよりも、一度引っ込んでまたゆらゆらと白い煙が立ち上る。

 見てといわんばかりにホープはテーブルの真ん中にカップを置いたので、私と蛭雲童はそのカップを覗き込み、同時に、え!? と声をあげた。

 カップの中のコーヒーがさっきの一瞬で凍りつき、黒い塊となって白い冷気が出ている。上がっていると思っていた湯気は実際は冷気であり、目の前で昇る事無くカップの淵からテーブルへと滑り落ちていく。

 何が起きたのか分からず、ホープの方へ顔を向けると弱弱しいが、聞き取りやすい声で言葉を紡ぐ。


「ボクの体には普通の人間には無い器官が備わってて、そこからボクは一瞬で物を凍らせられる息を吐ける。それにね……」


 ホープは片手を前に出し、手の平を見せてくる。釣られるように視線をその手に向けると、僅かながら私には無い、いや、私達には無いものを見てしまう。

 穴だ。手首に小さい穴が開いている。傷ではないようで出血は無いが、注射痕よりも大きな穴が開いているのだ。その穴を凝視しているとホープは恥ずかしいのか手を引っ込める。


「この穴からはボクの体の中にある水分を氷にして発射できる。鉄砲のような器官なんだ。ボクはこの体の特性でこのヴィレッジのミュータント討伐の、そう、おじさんが駅のところで言っていたように、このヴィレッジの支柱みたいなものなのかもね」

「そんなことが……?本当に?」

「マジかよ……」


 ホープは自嘲的な笑みを浮かべて肩を竦める。


「ボクの本気の息ならステアーさんもおじさんもこの場で抵抗する間もなく、血の一滴も残さず氷漬けにできるよ」

「ヒッ……お、脅す気かよ」

「できても、する気は無いんでしょう?」


 私の言葉にホープは小さく頷く。当たりだ。ホープは私達を〝自分の意思で勝手に〟殺すことはできないのだ。

 仮に殺せば、ミュータントである彼はその行為に対し周囲に説明を求められるだろうし、好きに力の行使を許してしまえばホープの存在は人間にとっては頼れる存在から恐るべき存在へと変わる。

 信用も落ちて今までのような生活はできなくなるだろう。

 ホープは表面上はこのヴィレッジの要であり、多くの決定権を持った有力者。

 だが実際はミュータントという異種であり、人間に近しい存在なだけに一緒に生活をしているが頼らないといけない状況でなかったら即座にその地位は蹴落とされているだろう。

 人間は歳を重ねると年下に対して傲慢になり、根拠も無く自分の方が優れた存在だと思い込む事が殆どだ。権力者というのは常に自分より優れたものと自分より若いものを疎ましく感じる。

 両方を兼ね揃え、更に人間とは違う存在であるホープは他の人間にとっては邪魔でしかないのだ。

 だから、ホープは他のヴィレッジ住民にそれなりに命令できても、住民からの要請を断る事はできないし、身勝手な行動取る事は住民を行動の是非を問わず刺激してしまうだろう。

 私達を兵士達の意見を無視してヴィレッジに招き入れてくれたのは相当な自分勝手な行動だったと思う。なぜそこまでして私達を招き入れたのか。気分で、という筈はない。


「ホープ。なぜあなたは私達をヴィレッジに入れてくれたの? 本当はかなり不味かったんじゃない」

「……どうやらステアーさんは色々気付いてしまったみたいだね」


 小さくため息をつくと、ホープは仕方ないかとポツリ。


「内部の人間には頼めない事があるんです」


 交渉だ。頼み事には交換条件がなければならないのがこの世の常だ。ここぞとばかりに私は言い放つ。


「受けても良いけど。代わりに魔都までの道は教えてもらうわ」

「そうだそうだ。頼み事をするってことは対価がいるもんだ。お前にできないことだから俺達に頼むんだろ。力で解決しようもんなら損するぜ?」

「それは……」


 口は悪いが蛭雲童は私の言いたい事を殆どいってくれたので私は黙り、蛭雲童が放つ独特の圧力を殺さないようにする。ブリガンドであり、強面の男ができる強気の姿勢だ。

 私に出会った時に見た情けなさは今はない。

 ……いや、子供に凄んでいる時点で情けないか。

 なにか言いよどんでいたホープも蛭雲童の熱烈な視線に耐えかねて、分かりました。とため息混じりに了承した。


「分かりました。明日、魔都までの道を案内します。ボクの頼みは一つ、魔都の入り口を爆破して塞いで欲しいのです」


 ホープの静かに微かにいった言葉に驚く。

 ミュータント退治はこのヴィレッジが他ヴィレッジから物資を貰う為のビジネスであり、ホープの今の立場を守る事だ。

 魔都から地下鉄を通ってやってくるミュータント。その出入り口を塞いでしまえばヴィレッジは平和になるかもしれないが、ビジネス手段を失い、ホープの今の立場も危うくなるだろう。

 なぜそんな事を頼むのか。


「爆弾は明日にでもお渡しします。帰ってくる時に爆破していただければ結構です」

「魔都から来る事も分かっていてその出入り口まで分かっているのになんでテメェらで行かないんだ?」

「ミュータント退治はこのヴィレッジの商売だから公に動けないんです。それに行けるとはいってません。魔都から帰ってきた方、彼が戻ってきてからミュータントの出入りが激しくなり、それ以降は魔都へ向かう作戦は一度も行われていません。こちらも退治だけなら広いホームで待ち構えていた方が楽ですから」


 そこまでいい終えると蛭雲童はようやく私と同じ疑問に行き着いたらしく、わざとらしく首を捻った。


「ああん? 商売を自分から畳もうってのか?」

「ボクは本当は争いとか好きではないし、襲撃のサイレンが鳴る度にヴィレッジの子供達が怯える姿を、もう見たくないんです。商売は別に見つければいいんです」


 どこまでが本心なのかわからないが、私は魔都へ行くことができればそれで構わない。蛭雲童は今のホープの言葉に特に疑問を抱いている様子はなかった。私はこれ以上ホープの考えを聞くのも野暮だと考えてこの場は解散しようと提案した。夜中に集まってひそひそ話は巡回に見られたら怪しまれる。


「爆弾については明日貰ってから聞くことにするわ。そろそろお開きにしましょ」

「わかりました……ありがとう。ステアーさん」


 頬を緩めて笑むホープは歳相応の子供に戻っていた。そんなホープを後ろから軽く首に腕を回した蛭雲童はホープの頭にゲンコツを擦りつける。


「俺もやるんだよ。俺にも感謝しやがれ」

「あ、ありがとうおじさん。」

「おじさんじゃねぇ!」


 ようやく集まって最初の空気を取り戻したところで私達はホープの部屋に戻ることができた。

 部屋を暗くする。机の上にあるスタンドライトだけを点けて、天井の照明を消すとそれぞれの寝床に体を投げ出した。

 布団に入ってすぐに蛭雲童はいびきをかいて眠りだす。地上の生活では安全で尚且つ寝心地の良い寝床で眠れることなど殆どない。

 ブリガンドとして生活しているならヴィレッジに入れない分なおさらだ。よっぽど寝心地が良かったのだろう。

 寝に入ろうとする私に、ホープは小さな声で語りかけた。


「ステアーさんはどうしてそこまで真っ直ぐなんですか?」

「どういうこと?」

「ボクみたいな強力なミュータントが本能のまま襲ってくるかもしれないっていう魔都に、どうして迷いなく向かおうと思えるのかなって。なにを心の支えにしているのかなって。そう思ったんです」


 ホープの率直な疑問に私は今答えられる言葉が見つからない。

 支えになるものを、悉く失い、手放してきているからだ。ただ生きたいのであれば、理緒を見守る為にも横浜で上手くやれるように模索すればいいだけの事。

 それを私はその時のショックでコロナという信用して良いのかも分からない一人の子供の好意を頼りにこんなところまで来てしまったのだ。

 だが、私より誰かを思いやれる心を持っているホープにいってやれる言葉は一つしかなかった。


「心の支えっていうほど大それたものなんて、今は無いよ。私はただ、居場所を探しているだけ」

「居場所……?」


 もぞもぞと毛布の擦れる音がする。ホープが寝返りをうってこちらを向いたのか、はたまた背を向けたか。

 ようやく暖まってきた寝床に眠気を覚える。


「あなたみたいに必要としてくれる人に囲まれて生きれる場所って事。あと、あなたは自分の事ミュータントミュータントって言ってたけど、あなたは充分人間よ。もう少し胸張って生きなさい」


 私はそういうと、ホープはなにも言葉を返してこなかった。

 暗い部屋の中、私も眠気がピークに達し、コーヒーを飲んだ後だというのにあっさりと眠りに落ちていった。





 翌日。

 ホープは先に部屋を出ており、私はまだ寝ている蛭雲童を蹴り起こすと真っ直ぐ夜に寄った食堂に顔を出す。

 今度はしっかり対価を支払って簡単に食事をして腹を満たして、武器の調子を見ながら駅前のスクランブル交差点に向かった。

 防刃処理を施された外套を纏ってホープは私達を待っていた。


「おはよう二人とも。よく眠れたかな」


 私達の方へ駆けてくるホープは昨日よりもどこか元気そうだ。


「ああ、ゆっくりさせてもらったわ」

「飯の味は微妙だったがなぁ」


 素直過ぎる蛭雲童を肘で小突く。入った場所がまずかったか、横で蛭雲童はビクビクと震えながら悶えているが放っておく。

 苦笑いするホープはハッとなにかを思い出した様子で自分の懐を探ると何か小さな袋を手にして私に差し出した。

 それはかなり網目が細かい特殊な繊維でできた袋であり、一見して中身は凹凸の無い四角形のなにかであることはわかった。

 口が紐で縛られていて、余った紐が手から漏れて垂れ下がっている。

 子供の手で握れば全体が隠れてしまう程度の大きさだ。


「これは?」

「お守りです。ベルトにつけるなり、銃にくくるなり、外に出しておくとご利益があるみたいですよ。きっとステアーさんを守ってくれます」


 ふーん。といいつつそれを受け取ると見た目に寄らず少し重いなと感じた。重いといっても一〇〇グラム程度だろうか。

 私はそれを言われたとおりにTMPのフォアグリップに括りつけて、垂れ下がらないように限界まで巻いて固定する。


「ありがとう」

「それと、これが爆弾と起爆スイッチ。遠隔操作で、爆弾のスイッチを入れて、起爆スイッチを押せば即時に爆発しますので距離を取ってから押してね」


 そういわれ手渡されたのはクリーム色をした粘土のような長方形の物体にケーブルと小さな機械が接続された物、プラスチック爆弾だ。それと一緒に渡された赤い引き金がついた銃身の無いグリップだけの銃みたいな物が起爆スイッチだろう。

 爆破の仕方をホープに教わると周囲に見られないようにそそくさと外套の中に隠した。


「それじゃ行こう。案内するよ」


 そういうとホープはスキップしながら駅の方へと向かっていく。

 私もついていこうと歩き出し、数歩して後ろを振り向く。


「なにしてんのアンタ……」

「ひ、酷いですよあねさぁん……」


 まだ悶えている蛭雲童にすまんすまんと適当に謝りながらも私はずんずんと先に進む。どうせこいつはついて来るしかないのだから。

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