その3 警視庁本部

 桜田門の駅について階段を上っているときのことだ。後ろから声をかけられた。


「服が切れちゃっていますよ」

「えっ?」


 後ろから階段を上っていた通行人に指摘された。


「御協力ありがとうございます。私らこういうモンなんで」


 ヤマハシさんと若い刑事さんが振り向きざま同時に警察手帳を見せる。

 そう言われて通行人は距離を開けた。



 警視庁本部は立派な建物だった。


「こういう隙間すきまには詰め物をしているんですよ。前に爆弾を仕掛けられたことがあって」


 そうヤマハシさんは建物の壁の穴を指さした。


「おっ、ヤマちゃん。今日はこっち?」

「中央線の電車の中で●△■★」

「あっそう! ▼◇◎※」


 隠語いんごで行われた会話が全く理解できない。


 その後はひたすら書類仕事。

 ヤマハシさんの質問にオレが答えると、若い刑事さんがその場でノートパソコンに入力していく。


「最近流行っている〇国の暴力スリですね。多分、今頃は成田空港ですよ」


 東アジア某国の名前をあげた。


「日本人のスリは職人芸ですから、素人に目撃されることは絶対にありません」

「そうなんですか!」

「連中は3人組でね、武宮たけみやさんがとりおさえようとしていたときに、後の2人がドアを押さえて閉まらないようにしていたんだと思いますよ」


 今思えば、いつまでってもドアが閉まらなかった気がする。


 我々3人が話をしている間にも周囲では「タタキのヨンパチ!」とか、そんな隠語が飛び交っていた。


「じゃあ、これを読んで特に訂正するところがなかったら署名と拇印ぼいんをいただけますか?」


 いつのまにかプリントされた調書を示された。

 独特の改行の仕方がリアルな雰囲気をかもし出している。


「ちゃんとできています」


 細部まで確認して署名した。


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