その2 四ツ谷署

 四ツ谷署の担当刑事はヤマハシさんといった。

 30代くらいの男性だ。


「この中に該当者はいませんかね?」


 そういって100枚か200枚ほどの写真のたばを渡された。

 1枚ずつ順番に確認する。


 違う、違う、違う、違う、うーん違う、違う、違う


 そんな感じで写真をっていった。

 最終的に選び出したのは2枚だ。

 でも「これだ!」という確信は全くなかった。

 そもそも2枚の写真もお互いに全く似ていない。


「人間の記憶なんていい加減なものですね」


 そう言うと


「でもこの2人は目が似ていますよ。誰でも怖い思いをしたら顔なんか覚えていませんからね」


 そうヤマハシさんに慰められた。

 怖いも何も、包丁自体が目に入らなかったんだけど。


「速い! もう終わったのですか?」


 横にいた婦警さんに妙に感心された。

 普通はもっと時間をかけるものなのか。


「警視庁本部で詳しいお話をうかがいましょう。もうしわけないですが、地下鉄での移動になります」


 もはや、被害女性も怪我をした男性もバラバラだ。

 それぞれ別に事情聴取を受けるのだろう。



 世間話をしながら、もう1人の若い刑事さんと3人で移動する。


「刑事さんと警察官はどう違うのですか?」

「制服を着ているのが警察官です」

「やり甲斐がいのある仕事ですね」

「いや、怖いですよ。こないだ同僚が殺されました」

「ええっ!」

「自分は目撃していたんですが、喉を切られて死ぬまで1分もたなかったんじゃないかな」

「うわあ!」

「相手が包丁やナイフを持って暴れていたら確保するのは大変なんですよ」

「そうですよね」

「それでも武宮たけみやさんは犯人に立ち向かったんだ。偉いですね」


 いや、だから包丁は目に入らなかったんだって。


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