第3話 英空母撃沈

 英空母「アーク・ロイヤル」は混乱を極めていた。

 少し前にどこから飛んできたのかは分からないが、「アーク・ロイヤル」は複葉機の接触を受けた。

 どう見てもドイツ機だった。

 その複葉機は盛んに電波を発信していた。

 レーダーが数十機の編隊を捉えたのは、それからしばらくしてのことだった。

 「アーク・ロイヤル」のマウンド艦長はただちに戦闘機の発進を命じた。






 「グラーフ・ツェッペリン」と「ペーター・シュトラッサー」は一二機のFi167を索敵に出していた。

 「ビスマルク」を追撃する英艦からは断続的に電波が発信されていたこともあり、位置を特定するのはさほど困難ではなかった。

 そして、索敵に出したうちの一機が英空母を発見する。

 ドイツ機動部隊司令官はただちに攻撃隊の発進を命じた。

 「グラーフ・ツェッペリン」と「ペーター・シュトラッサー」からそれぞれBf109T一二機、Ju87C一二機、Fi167一〇機の計六八機が出撃した。


 ドイツの機動部隊の頭上を守るのは「グラーフ・ツェッペリン」所属の一二機のBf109Tのみだった。

 ほとんど全力攻撃と言ってよかった。

 それらのうち、二四機のBf109Tは迎撃してきた「アーク・ロイヤル」のフルマー戦闘機を完全に抑え込んだ。

 数も機体性能も劣る「アーク・ロイヤル」のフルマー戦闘機はBf109Tから自身の身を守ることで精いっぱいだった。


 味方戦闘機隊の奮戦によって無事に英艦隊上空に到達したJu87Cの搭乗員は高速で転舵を繰り返す「アーク・ロイヤル」を見て、「ずいぶんと大きな的だなあ」という少し間の抜けた感想を抱いた。

 これまで地上を高速で動き回る戦車を相手に訓練や実戦を重ねてきたJu87Cの搭乗員にとって、戦車より遥かに大きい的の「アーク・ロイヤル」の飛行甲板に爆弾を命中させることは、さほど困難なことではなかった。

 二四機のJu87Cは次々に翼を翻して「アーク・ロイヤル」に襲いかかる。

 同艦はあっという間に一〇発近い爆弾を浴び、大きく速度を落とした。

 さらに直撃弾以外にも至近弾によって水線下に破孔や亀裂が生じ、無視できない浸水も生じている。

 あるいは、これが装甲空母の「イラストリアス」か「ヴィクトリアス」であればこれほどのダメージは受けなかったのかもしれない。

 しかし、「アーク・ロイヤル」は装甲空母ほど堅牢ではなかった。


 速度を大きく衰えさせた「アーク・ロイヤル」に対し、今度は二〇機のFi167が両舷から迫る。

 軍艦にとっては悪夢、雷撃機にとっては理想の左右同時雷撃。

 この挟撃から逃れる術は「アーク・ロイヤル」には無かった。






 「グラーフ・ツェッペリン」ならびに「ペーター・シュトラッサー」隊の活躍で傷ついた戦艦「ビスマルク」は虎口を脱した。

 巡洋戦艦「フッド」を戦艦の艦砲で、空母「アーク・ロイヤル」を空母艦載機の航空攻撃で撃沈した一連の海戦の結果に気を良くしたヒトラー総統は機動部隊の増強を命令した。

 空母「グラーフ・ツェッペリン」ならびに「ペーター・シュトラッサー」を基幹とし、そこに戦艦「ビスマルク」と「ティルピッツ」、さらに巡洋戦艦「シャルンホルスト」と「グナイゼナウ」が加わった。

 補助艦艇も強化され、巡洋艦四隻と駆逐艦一二隻がこれら六隻の空母と戦艦の周囲を固める。

 ドイツ唯一の機動部隊はこの後、戦争終盤まで暴れまわることになる。

 それは「第二次スカゲラック海戦」と呼ばれる英本国艦隊との最後の激闘の日まで続いた。


 ~ビスマルク救出作戦 ドイツ機動部隊(完)~

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