第2話 ビスマルク包囲網

 避退を続けるドイツ戦艦「ビスマルク」は大きく傷ついていた。

 「ビスマルク」は通商破壊を目的としたライン演習作戦で大西洋へと進出した。

 そして、自分たちの前に立ちはだかった戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」ならびに巡洋戦艦「フッド」と交戦、「フッド」を返り討ちにし、「プリンス・オブ・ウェールズ」を撃退した。

 ここまではよかった。

 巡洋戦艦一隻撃沈、戦艦一隻撃破は大戦果だ。

 だがしかし、「ビスマルク」も一連の戦いで「プリンス・オブ・ウェールズ」から放たれた複数の三六センチ砲弾を浴びていた。

 さらに、「フッド」のかたきを討たんとばかりに追撃をかけてきた英空母「ヴィクトリアス」から発進したソードフィッシュ雷撃機の攻撃を受け、今度は魚雷を食らってしまった。


 そして今、空母「アーク・ロイヤル」の雷撃隊が傷ついた「ビスマルク」を捉えようとしている。

 「ビスマルク」のリンデマン艦長は表情には出さなかったものの、すでに覚悟を決めていた。

 英国人は、英海軍は執念深い。

 たかが戦艦一隻沈めるのに、どれほどの戦力を投入しているのか分からないが、近傍海域にある戦力に対して総動員をかけていることは疑いようも無い。


 英空母から発進したのであろう、十数機の複葉機が「ビスマルク」の後方から迫ってきている。

 さらに前方からは十機あまりの単葉機が凄まじいスピードでこちらに向かってくる。

 前後からの挟撃で「ビスマルク」はさらに魚雷や爆弾を食らうのだろう。

 そして、脚を奪われた「ビスマルク」は遠からず英水上艦艇に捕捉され、めった打ちにされるはずだ。

 それでも、いくら現状が絶望的な状況だからと言っても、艦長たるものが現実から目を背けるわけにはいかない。

 リンデマン艦長は双眼鏡越しに前方の単葉機を見据える。

 こちらの方が先に「ビスマルク」を捕捉するはずだ。

 その機体のシルエットがはっきりしてくるにつれて、だがしかしリンデマン艦長の困惑の度合いは増す。

 その機体は、あまりにも既視感が有りすぎた。

 その時、見張りが喜色のこもった大きな声で報告をあげる。


 「前方の機体は友軍機!」


 リンデマン艦長はとっさに対空戦闘の中止命令を発する。

 「ビスマルク」乗組員に歓喜の声で迎えられたのは「ペーター・シュトラッサー」から飛び立った一二機のBf109Tだった。

 同編隊は「ビスマルク」を飛び越え後方から迫る英軍機へと肉薄する。

 それらは複葉の機体、一五機からなるソードフィッシュだった。

 攻撃直前のため、その注意のほとんどが「ビスマルク」に向いていたソードフィッシュ隊にとってBf109Tの攻撃は奇襲も同然だった。

 そもそも、誰もこんな洋上にBf109がいるとは想像もしていない。

 虚を突かれた鈍重な複葉機はあっという間にBf109Tによって全機が撃ち墜とされてしまった。

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