ビスマルク救出作戦 ~ドイツ機動部隊~
第1話 ドイツ機動部隊
洋上を八隻からなる艦隊が疾駆している。
六隻のZ級駆逐艦が小ぶりな輪型陣を形成、その中央には「グラーフ・ツェッペリン」と「ペーター・シュトラッサー」の二隻の空母の姿があった。
ドイツ海軍がようやく手に入れたささやかな機動部隊。
八隻の艨艟たちは急いでいた。
執念深い猟犬に追われ、包囲殲滅されようとしている僚艦を救うために。
一九三〇年代半ば、他の海軍列強の例に漏れずドイツ海軍もまた空母を欲するようになった。
英国や米国はもちろん、フランスや日本でさえもが持っているからというかなり消極的な動機ではあったが、しかしその一方で洋上航空戦力の重要性もまた関係者らはそれなりに理解していた。
ただ、空母を建造するにしても残念なことにドイツ海軍にはそのノウハウが無い。
ゼロベースで開発を進めるには膨大な時間がかかるし開発費も莫大なものになる。
それを避けるためには他国からの技術導入がどうしても必要だった。
そうであれば英国からのものが望ましい。
海軍大国であり空母先進国でもある同国は米国や日本と違って地理的にもドイツに近い。
だが、日々ドイツとの関係が悪化している英国がそれを許すはずもない。
次善のフランスや米国もまた状況は似たようなものだった。
そこで、ドイツ海軍は窮余の策として日本を頼った。
ドイツ海軍としては空母の基本設計や運用のノウハウをある程度習得してから具体的な建造計画を進めるつもりだった。
日本はドイツに対して好意的だった。
帝国海軍は当初は「赤城」の図面を譲渡するつもりだったらしい。
だが、そんな古びた巡洋戦艦改造の「赤城」よりも最初から空母として設計された、できれば最新鋭艦のものが望ましい。
そう考えるドイツ海軍はダメ元で日本にそのことを訴えた。
意外にも帝国海軍は建造中の「蒼龍」の図面を快くよこしてくれた。
他にもこれまで帝国海軍が培ってきた補給や訓練のノウハウもまた惜しみなく教示してくれた。
ドイツ海軍としてはそれはそれでありがたいことではあったのだが、一方で一万五千トン級の「蒼龍」では艦内施設が狭隘で、設備もとても満足できるものではなかった。
搭載する艦上機の数に比して爆弾搭載能力や魚雷調整能力が低いうえに航空燃料の搭載量が危険なくらいに少ない。
さらに、艦全体の防御力ももの足りない。
一万五千トン程度の排水量ではやはり限界があるのだ。
当時、ドイツは英国との協定で三万八五〇〇トンの空母建造枠を獲得していた。
もし、二隻建造するとしたら一隻あたり一万九二五〇トンになる。
ドイツ海軍は「蒼龍」の設計図を元にその拡大改良型ともいえる空母の建造に着手した。
「蒼龍」の設計図を流用あるいは参考にすることによって設計に要する時間を大幅に節約できた二隻の空母は一九四一年の年明け早々に竣工する。
だが、戦時中のことでもあり、両艦の就役は極秘とされた。
全長は元になった「蒼龍」に比べて五パーセントほど長い二四〇メートル。
艦幅のほうは大幅に拡張され二八メートルとなった。
この結果二層ある格納庫も上下ともに幅二〇メートルを確保することができた。
速度要件は初期の計画から大幅に緩和していた。
実は二隻の空母は当初、単艦での運用も考えていた。
おもに通商破壊戦に使うためだ。
この場合、イギリスの軽快艦艇から逃れられるだけの速力を要求される。
しかし、第一次世界大戦以降、異常ともいえる発達をみせる航空機や潜水艦の脅威が著しい今、護衛艦無しで空母を単艦運用するのは無謀だという帝国海軍からの指摘を受け入れたことでドイツ海軍は方針転換する。
そのことで、計画では三五ノットの速力を要求されていたのがこれを三〇ノットに改めた。
この結果、機関容積を大幅に縮小することが可能となり艦内容積に余裕が生まれる。
そこで格納庫や居住区画、それに燃料タンクが拡大され、「蒼龍」に比べてずいぶんと余裕のあるものになった。
さらに防御力も強化され、結局は二万トンを大きく超えることになったが、他国には一万九二五〇トンと通告している。
艦上機の開発、配備も順調だった。
ドイツ総統との不仲をうわさされていた空軍元帥が総統から不興を買う何かをやらかした。
空軍第一主義者の影響力が弱まっている間にドイツ海軍は打てるだけの手を打った。
その甲斐あって艦上戦闘機のBf109T、艦上急降下爆撃機のJu87C、艦上攻撃機のFi167の数を揃えるのに成功した。
完成した二隻の空母はそれぞれ「グラーフ・ツェッペリン」「ペーター・シュトラッサー」と名付けられ、両艦はそれぞれBf109Tを二四機、Ju87Cを一二機、Fi167が一八機の計五四機を搭載している。
もし、当初計画のような通商破壊戦のための水上砲戦も意識したような空母であったとしたら搭載機の数は大幅な減少を余儀なくされていただろう。
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