スリガオの閃光 ~山城 扶桑最後の戦い~
第1話 奇跡の邂逅
闇とスコールという悪条件の中、スリガオ海峡突入前に第二遊撃部隊と邂逅できたのは僥倖というよりも奇跡と言ってよかった。
重巡洋艦が二隻に軽巡洋艦が一隻、さらに駆逐艦四隻を擁する第二遊撃部隊の加勢はただでさえ寡勢だった第一遊撃部隊第三部隊の西村司令官にとっては干天の慈雨にも等しく思えた。
その西村司令官が率いる第一遊撃部隊第三部隊は戦艦「山城」と「扶桑」を除けばあとは重巡「最上」と四隻の駆逐艦にしかすぎない。
本来であれば、このわずか七隻だけで有力な米艦隊と対峙しなければならなかったのだ。
それが、数だけで言えば倍になったのだから心強いことこのうえない。
その第三部隊のうち重巡「最上」ならびに駆逐艦「山雲」と「満潮」、それに「朝雲」と「時雨」が左前方に突出していく。
さらに第二遊撃部隊のうち軽巡「阿武隈」に率いられた駆逐艦「曙」と「潮」、それに「不知火」と「霞」がこちらは右前方に進み出る。
事前の水上偵察機による索敵でスリガオ海峡に多数の駆逐艦と魚雷艇が展開していることを第三部隊はすでに確認していた。
それらが、闇とスコールに紛れて自分たちを多数の魚雷で串刺しにすべく進撃してくるのは分かりきっている。
西村司令官は思う。
もし事前に第二遊撃部隊と合流できていなければ、わずか二隻の戦艦と一隻の重巡、それに四隻の駆逐艦だけの自分たちはあっという間に敵に包囲され、そして多数の魚雷を食らって全滅していたことだろう。
だが、それでも最悪の状況にさほど変わりはなかった。
わずか二隻の巡洋艦と八隻の駆逐艦で数十隻にもおよぶ敵の駆逐艦や魚雷艇をさばける道理もない。
それでも彼らは自分たちに血路を開くために絶望的ともいえる戦力差を省みず戦いに臨もうとしている。
事ここにおよんで西村司令官に言えることはありきたりの言葉しかなかった。
旗艦「山城」から発光信号がとぶ。
「武運を祈る」
この闇とスコールの中、それが一〇隻の味方に届いたかどうかは西村司令官は最後まで知ることはなかった。
その西村司令官が直率する主力は旗艦である「山城」を先頭に僚艦の「扶桑」が続き、さらに第二遊撃部隊の重巡「那智」と「足柄」が殿を務める。
即席の合同チームだから複雑な艦隊運動は望めない。
単縦陣以外に取りようがなかった。
それら四隻の左右、その海面上で早くも白い光あるいは赤い光が明滅をはじめる。
左右に分かれた二隻の巡洋艦と八隻の駆逐艦が米軽快部隊と戦闘を開始したのだろう。
閃光と轟音が響いてくる。
いずれかの艦が今、死んだのだ。
それが敵のものなのか、味方のものなのかは判然としなかった。
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