第6話 激闘の末

 友軍駆逐艦が「赤城」に向けて介錯の酸素魚雷を放つ。

 他艦に救助された「赤城」乗組員たちは、その誰もが沈痛な面持ちでその現実をかみしめている。


 第一航空艦隊の旗艦「赤城」は被弾当初は沈没の危険は無いと判断されていた。

 四万トン近い巨艦がわずかばかりの爆弾で沈むはずも無い。

 だが、同艦は被害応急の拙さから消火に手間取ってしまう。

 そのうちに機関室にまで火がおよび、そのことで動力を喪失する。

 攻撃偏重の帝国海軍の艦艇は一隻の例外もなくダメージコントロールに難があった。

 艦内には木材などの可燃物が多く、そのうえ艦の塗料が燃えたりあるいは電路の被膜が導火線のごとく火を艦内各所に広げたりしてしまうなど、想定外のことも立て続けに起きてしまった。


 「加賀」と「蒼龍」の姿はすでに無かった。

 「加賀」は艦橋至近に被弾したことで艦長をはじめとした主要スタッフを一挙に失った。

 そのことで指揮系統が混乱、初期消火に失敗する。

 最後は「赤城」と同様、機関室に火が入り、動力を喪失したことで沈没のやむなきに至った。

 「蒼龍」もまた被弾して間もなく機関に火が入り動力を喪失、消火不能に陥り真っ先に沈んだ。


 三発を被弾した「翔鶴」は、一時は沈没が危惧されるほどに炎と煙をあげていたが、かろうじて鎮火に成功した。

 僚艦の「瑞鶴」は二発を前部飛行甲板に被弾したもののこちらは初期消火に成功、そのことで帰還してきた第二次攻撃隊ならびに第三次攻撃隊の少なくない機体を収容している。


 一方、日本の第二次攻撃隊と第三次攻撃隊は大きな被害を出したものの、「エンタープライズ」と「ホーネット」、それに「ヨークタウン」と「レキシントン」の四隻の空母をすべて撃沈した。

 さらに駆逐艦「ハンマン」を撃沈し、五隻の巡洋艦と八隻の駆逐艦を撃破した。


 両軍ともに被害甚大、盛大な刺し違えといってもいい戦いだった。

 軽巡「長良」で南雲長官は沈みゆく「赤城」を見ながら草鹿参謀長に力の無い声で気になっていたことを尋ねる。


 「この戦、どうみる」


 「我が方は空母三隻を失い、二隻を撃破されました。

 一方で奇襲を仕掛けてきた四隻の米空母をすべて撃沈し、さらにミッドウェー基地は七戦隊の艦砲射撃でその機能を喪失しています。

 同地の航空機もまた飛行場が破壊されるとともに撃破されたはずです。

 今回の戦いは艦艇だけみれば五分五分の痛み分けといったところでしょうが、ミッドウェー基地を破壊した分だけ我が方の判定勝ちといえます」


 端的な南雲長官の質問に、だがしかし草鹿参謀長はそう答えるしか無かった。

 今は日米の国力や工業力といった格差については考えたくない。

 搭乗員の大量喪失についても同様だ。


 「そうか」


 小さく頷き南雲長官は「赤城」に暗い目を向ける。

 一航艦は確かに米空母を全滅させた。

 ミッドウェー基地も七戦隊の四隻の重巡の力を借りたとはいえ撃滅に成功している。

 敵空母撃沈とミッドウェー攻略という二大作戦目標を達成したのだから一航艦は、帝国海軍は戦略的勝利を挙げたはずだった。

 だがしかし、南雲長官は勝った気にはなれなかった。

 その彼の瞳にわずかに艦首だけを海面に突き出していた「赤城」が完全に海没するのが映る。

 南雲長官には、それが何かの暗示に思えて仕方がなかった。



 -日米10大空母決戦 死闘のミッドウェー(完)-

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