第4話 第三次攻撃隊
第三次攻撃隊もまた第二次攻撃隊と同様、三〇乃至四〇機ほどのF4Fワイルドキャット戦闘機の迎撃を受けた。
ただの一機の九九艦爆も九七艦攻も損なうことなく米機動部隊にとりつくことが出来た第二次攻撃隊と違い、第三次攻撃隊の被害は深刻だった。
第二次攻撃隊と違って、あまりにも零戦の数が少なすぎたからだ。
護衛の一二機の零戦は艦爆隊や艦攻隊を守るべく、三倍近いF4Fに果敢に立ち向かった。
だがしかし、これだけの数の差があればいくら零戦の搭乗員が凄腕であってもすべてのF4Fを抑えきることはできない。
零戦の阻止線を突破した十数機のF4Fが次々に九九艦爆や九七艦攻に襲いかかる。
高性能機銃を持つF4Fに対し、九九艦爆や九七艦攻の防御機銃は貧弱で、そのうえ防弾装備はあまりにも劣弱だった。
F4Fの一連射を浴びるたびに九九艦爆が火を噴き、九七艦攻が翼を叩き折られる。
急降下爆撃や雷撃をやらせれば神技と言っても大げさではないほどの高い技量を誇る熟練搭乗員がミッドウェーの空で無為に命を散らせていく。
結局、第三次攻撃隊が二隻の「ヨークタウン」級空母からなる米機動部隊に取りついた時点で「飛龍」の九九艦爆七機と「加賀」の九七艦攻一〇機が失われていた。
だが、そのような修羅場にあっても第三次攻撃隊指揮官であり「加賀」艦攻隊長でもある楠美少佐は冷静に前方の空母を見据えていた。
楠美少佐が直率する第一中隊も、ここに来るまでに三機がF4Fに食われていた。
戦闘機の護衛を欠いた九七艦攻はあまりにも脆く、F4Fの一連射をくらっただけで容易に火を噴いて墜ちていった。
真珠湾以来、死線を共にくぐり抜けてきた部下たちが次々に墜とされていくのに対し、楠美少佐は何も出来なかった。
だが、今はそのF4Fの姿は無い。
その代わり、今までに経験したことも無い無数の黒煙の嵐に翻弄される。
敵の高角砲弾がそこかしこで炸裂しているのだ。
続いてアイスキャンデーのような火箭が噴き伸びてくる。
高角砲に続き、機関砲や機銃の射程内に入ったのだ。
逆に言えば、自分たちは投雷まであと一歩のところまで迫っている。
このまま全機が無事に射点に到達してくれという楠美少佐の願いは、だがしかしかなわない。
高角砲弾の爆発に巻き込まれ、あるいは機銃弾の洗礼を浴びて九七艦攻が一機、また一機と火を噴き海面へと吸い込まれていく。
射点に到達したとき、第一中隊は半数以下の四機にまでうち減らされていた。
それでも、楠美少佐が誘導した射点は完璧だった。
不発さえなければ、少なくとも投下した四本の魚雷のうちの半数は命中するはずだった。
投雷を終えて離脱を図る楠美少佐の目に反対舷から投雷したはずの第二中隊ならびに第三中隊の九七艦攻の姿が映る。
こちらもその数は出撃時の半数に満たなかった。
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