第18話 同棲生活

彩葉ちゃんのお母さん達からは、部屋が余っているから一緒に住むでもいいんじゃないかと提案があった。でも、彩葉ちゃんはそれは絶対に嫌だと固辞して、2人で住む部屋を探した。


譲歩案として彩葉ちゃんの実家の近くを選んで、わたしは少し通勤が遠くなったけど、そこまで気にする遠さでもなかった。


それよりも一番最後まで決まらなかったのはベッドで、二人で同じ部屋に寝るか同じベッドで寝るかをぎりぎりまで揉めていた。


わたしは同じでいいんじゃないかと言ったのだけど、彩葉ちゃんが理性が続かないと後ろ向きで、部屋を分けようと提案した所で彩葉ちゃんから泣きが入った。


「隣の部屋に心和さんがいるのに一人で寝ろって酷すぎます。毎日泣きながら寝ます」


「彩葉ちゃんが一緒だと我慢ができないって言うからじゃない。彩葉ちゃんのお母さん達ってどうしてるの?」


身近に参考にできそうなのが彩葉ちゃんのお母さん達しか思い浮かばなくて、彩葉ちゃんに尋ねる。


彩葉ちゃんのお母さん達には挨拶に行って以降、時々食事に誘われるようになっていた。わたしの知らない彩葉ちゃんの子供の頃の話が聞けたり、今の職場の話が聞けるので、それは貴重な時間だった。


その中で感じた限りでは、2人はべたべたしたところはないけれど、互いが互いを大事にしていることは感じられていた。


彩葉ちゃんはとにかくくっついていたい方だけれど、これから先長くいればずっとそうだとも限らないだろう。


「広めのベッドで一緒に寝てます。美波ちゃんが睡眠時間が短い方なので、一緒に寝ないといつ寝てるかわからないからだってお母さんは言ってましたけど」


「うちだと、そこまで大きなベッドは難しいね」


賃貸のそこまで広いわけではない部屋で、ベッドで占拠されてしまうのを良しとすれば大きなベッドにできないわけではない。


でも、日常生活に必要なものは他にもあって、せいぜいダブルサイズが限度だろう。


「でも、心和さんに触れたら我慢できる自信ないです」


今までは平日は彩葉ちゃんが家に帰るルールがあったので、触れ合うのは休みの日がほとんどだった。


「彩葉ちゃんって毎日したい方なんだ」


「……はい。退かないでください。だって、心和さんが好きすぎるんです」


必死な顔が可愛くて、彩葉ちゃんがしたいと言えばノーと言えないだろうな、とは感じている。


とはいえ、どこまでを許していいかを悩む。


「呆れました?」


わたしが彩葉ちゃんのことを好きっていうのは、最近はちゃんと自覚している。


彩葉ちゃんとするのは気持ちがいいし、わたしに夢中な彩葉ちゃんを感じるのは愉しい。だから、嫌なわけじゃないんだけど、毎日して何が変わるのだろうか。


「今の時点で嫌なわけじゃないんだけど、自分がそれを受け入れられる方なのか受け入れられない方なのかは、わからないかな。その前提だと彩葉ちゃんはどっちがいい?」


「……すみません、調子に乗りました。自分だけのことを主張しすぎました。限度を考えるので、一緒のベッドがいいです」


「じゃあ、そうしようか」


それで漸く結論が出て、引越を済ませた。





仕事が終わって先に家に帰るのは、わたしと彩葉ちゃんでちょうど半々くらいで、先に帰った方が夕食の準備をするルールを作った。


彩葉ちゃんは親が共働きだからと、今まで家で家事をやっていたらしく、料理はわたしよりも上手いくらいだった。一人暮らしをする際に椚木さんから、家事の手ほどきを教わっておいて良かったと今更ながらに思う。上手くないにしても年上としての面子を何とかそれで保てている。


あと、一緒に住むようになって、彩葉ちゃんはわたしに触れることが多くなった。何気なく座っていてもくっついてきて、別々のことをしても体のどこかを触れ合わせていたいようだった。


「わたしって、触って楽しい体じゃないでしょう? 胸もないし、骨張っているし」


寄り掛かってきた彩葉ちゃんに一度聞いてみると、関係ないと答えが返ってくる。


「心和さんは心和さんってだけで触れたいです」


「そういうものなの?」


「人にもよるとは思いますけど、わたしは心和さんに触れているだけで嬉しいです。心和さんは嫌ですか?」


「くすぐったい、かな」


視線が合うとそのまま唇を重ねるだけのキスをする。


少しだけど、そのタイミングも最近は分かってきた。


一緒にご飯を食べて、一緒に時間を過ごして、一緒に寝る。


自分の生活の中に彩葉ちゃんがいることは、それほど抵抗なく受け入れられている。むしろ、隣に彩葉ちゃんがいないと探してしまうくらいで、傍にいるのが当たり前になろうとしていた。

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