第12話 おつきあい

その夜、離れがたくて本当に帰るのかと何度も彩葉ちゃんに確認したものの、お疲れですから明日またくると約束してくれて帰ることになった。


「いろいろ無茶をさせてしまったので、今晩はゆっくり休んでください」


それに渋々肯きを返して、また明日と長いキスをして彩葉ちゃんは部屋を去っていった。


一人残された後は急激に睡魔がやってきて、朝までを一気に眠って、起きて彩葉ちゃんがいないことが不安になった。


なんとなくおかしいことはわかっている。


それでも彩葉ちゃんに触れてからの自分が、今までとは全く違う自分になったような気さえしていた。


淋しいという思いを彩葉ちゃんは想像以上の形で充足してくれた。それはただの友人を遙かに超えた行為も伴っていたものの、まっすぐな彩葉ちゃんの求めは心地よかった。





午前中に届いた彩葉ちゃんからのメッセージは、昼前に行くので一緒にランチを食べに行きましょうという誘いで、OKを返した。


昨日の今日で疑っているわけではなかったけれど、毎日会いたいというわたしの望みを彩葉ちゃんは真剣に叶えようとしてくれるのだと思うと嬉しかった。


お昼前のあともう少しで準備が終わりそうという頃合いに、インターフォンが鳴る。マンションのオートロックを解除すると同時にわたしは玄関に出る。今の家は2階なので、すぐに彩葉ちゃんが階段を駆け上がって到着するだろうと、玄関を開けて出迎えた。


彩葉ちゃんは相変わらずの可愛いさで、昨日ずっと抱き合って積極的なことをいっぱいした存在だとまだ認識できていない所はある。


でも、部屋に入るなりの行動はやっぱり同じ存在だった。


わたしを抱き寄せて精一杯背伸びをしてキスをしてくる。唇が触れる感触には少し慣れて素直に受け入れられるようになった。


「もうちょっとで用意終わるから、待っていてくれる?」


時間的にもそのままランチに行くのがいいだろうと、いったん部屋に戻ろうとするわたしを、彩葉ちゃんが呼び止める。


「田町さん、なし崩しみたいになっちゃったので、改めてちゃんと言います……田町さん、私は田町さんが大好きです。愛しています。私とおつきあいしてください」


それは彩葉ちゃんからの二度目の告白だった。


「…………駄目、でしょうか?」


動きが止まったわたしに、恐る恐る彩葉ちゃんが伺ってくる。


「私の淋しいっていうわがままに対して、彩葉ちゃんは傍にいてくれる。でも、体も必要っていうのが今だよね?」


「はい」


「それはつき合うってことになるの、かな?」


正直に言ってわたしはこの関係をまだ整理できていなかった。彩葉ちゃんが傍にいてくれるのであれば、それが一番いいとしか考えられていなくて、彩葉ちゃんからの告白にどう返事をしたらいいかが浮かばなかった。


「体を求め合うことに、どういう想いを抱いているかだと思います。私は田町さんが愛おしいから、田町さんを求めています。田町さんはどういう思いで私に応えてくれたんでしょうか?」


「…………彩葉ちゃんならいいかなって」


「それは私への憐れみですか?」


「そうじゃなくて……彩葉ちゃんに触れられたらちょっと嬉しいのはあるし、安心できる気がする」


「それを愛しいって言葉で人は表現するんじゃないんでしょうか?」


「…………これ、が?」


彩葉ちゃんからの言葉にわたしは自分の胸に手を当ててみる。恋愛経験がなさすぎて恋愛感情がどういうものかをわたしはいまいちわかっていない自覚がある。


これがそうだということなのか、自問自答しても自分に答えはない。


「違いますか?」


「違わないのかも……じゃあ、つきあうってことになる?」


「それを決めるのは田町さんです。私は真剣につき合って、そして体も繋ぎたいって思っています。田町さんはどう思っていますか?」


「彩葉ちゃんと同じ、なのかも。彩葉ちゃんにはわたし以外の他の誰ともつきあったりしないで欲しい」


そんなことするわけないですと、彩葉ちゃんに飛びつかれて抱き締められて、そのまま唇を奪われる。


「愛してます。愛してます。愛してます」


本当に彩葉ちゃんの愛情はストレートで、ダイレクトで困ってしまうところがあるけれど、抱きつかれて体を触れ合わせていると火に火がついてしまうのは必然に近いことだった。


ベッドに誘われて、手を繋いだまま並んで腰を下ろす。すぐに彩葉ちゃんが顔を近づけてきて、そのままキスを受け入れた。


「愛してます。もう田町さんは私の恋人ですからね」


「……彩葉ちゃんの恋人でいいよ」


初めの告白を受け入れていれば、もっとスマートな道があったのかもしれない。それでも、結局わたしは愛を理解するのに時間が掛かって、彩葉ちゃんをいろいろ困らせただろうとは思っている。


彩葉ちゃんといたくて、彩葉ちゃんが大事で、彩葉ちゃんの笑顔を自分だけのものにしたいという思いは、多分こういう選択になるしかなかったのだと納得が行っていた。


わがままを言ってでも彩葉ちゃんを自分に引き留めておきたいことに気づいた。


「可愛すぎます田町さん。いっぱい愛していいですか?」


肯きを返すと彩葉ちゃんに待ちきれないとばかりに押し倒される。見た目の可愛さとのギャップは、もう昨日十分知ったので嫌ということはなく、その可愛い顔が欲望に満ちるのを愉しむ余裕が少し出ていた。


「ずっとこうしたかったんです。好きすぎておかしくなりそうなくらい田町さんのことばかり考えていました。私以外の誰かになんか絶対触れさせたくなかった」


「そうだったの。ごめんね、ちゃんと答えを出せなくて」


「いいです。今こうして田町さんに触れられているので」


そのまま彩葉ちゃんからのキスに応えて、夢中で求め合っている間に、気がつけば昼の時間帯は既に過ぎ去っていた。


「もう家を出れそうにないね。このまま一日家で彩葉ちゃんと一緒に過ごすにしようか」


「はい。もっともっと田町さんを愛させてください」

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