6. 一箱分の距離

 絶望しかけた翌日でも、現実は容赦なく巡る。小テストに焦り、眠い授業を乗り越え、そんな中でも、どうしても昨日のことが思考を邪魔する。

「せりりん、どしたの?」

「あ、なっちゃん」

 後ろの席のなっちゃんに声を掛けられて振り向く。中学生の時に、隣県から引っ越してきた子である。

「元気ないね」

「……そ、そうかな」

「うん」

 なっちゃんは結構、はっきりと物言う人だ。なんて答えたらいいのだろう。

「あの、もしもなっちゃんがさ」

「芹奈、先生が呼んでる!」

 教室前方のあいりに叫ばれる。

「そうなの? 今行く。……なっちゃん、ごめん。ありがと、また後でっ」

 廊下に出ると、美術部かどこかの用具が段ボール箱に詰められて置かれていた。

「担任が運んどけってさ。一緒に行こ」

「はあ、わかった」

 箱は一個だけで、わざわざ二人で運ぼうとしているのだから、重いかと思ったのだが――軽かった。あいりでも一人で持てるんじゃないかな、ってぐらいに。

 私はまっすぐにあいりを見た。

「あいり」

「ん?」

「なっちゃんと話すな、ってこと?」

 あのタイミングで声をかけるだなんて、そうとしか思えない。

「だってさ、口外されちゃマズいから。わかってるよね?」

「口外なんて! するわけないでしょ。ふざけないで」

 あいりの目がきゅ、と細まった。

「あのさ、私は、自分だけが大切だから隠すんじゃないの。周りの人も平和に過ごすことを望むから、隠すんだよ」

 ……え?

「あ、美術室過ぎちゃった。ほらバックバック。今日、お母さん家にいないから、ちゃんと話そうよ。来れる?」

「はいはい」

 狂った風習に染まりきっているのか、そうでないのか。あいりのことがわからない。

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