四章

14

「本当によかったんですか。ミナトさんのお葬式に出なくて」


 ナギサが気遣わしげに尋ねた。


「うん、また何かやらかしたら困るしね」僕は言った。「それに、こうなったらナギサを一人にしたくないし」


 ミナトが魔臼に殺されてから二日が経っていた。彼女は自分の部屋で魔臼に絞め殺されていたという。屋内だからといって安心できるわけではない。


 僕の言葉を聞いて、ナギサは途端に上機嫌な顔になった。


「まったくしょうがない兄さんですね。心配性なんですから」


 僕はその日、水回りの掃除をすることにした。お風呂、トイレ、台所。どこへ行くのにもナギサがついて回ってくる。「魔臼に襲われたとき、兄さんがそばにいなかったら困りますから」とのことだけど、単純に甘えたいだけだったりして。この前の失敗で懲りたのか「手伝いましょうか」とは一度も言ってこない。


 僕は手袋とバケツ、使い古しの歯ブラシ等の掃除セットを片手に家の中を行ったり来たりした。いずれもウミネコさんが島に持ってきてくれたものだ。彼女がいなかったら、僕はいったいどうやってシンクの汚れや、浴槽の垢を落とせばよかったのだろう。考えるだけでもぞっとしない。まったく、ウミネコさん様々だ。


「よし、きれいになった」


 僕は汗を拭いながら言った。お風呂もトイレも台所もぴかぴかだ。掃除を終えたときの達成感は何物にも代えがたいものがある。


「兄さんたら、本当に満足げな顔」ナギサがおかしそうに言った。「わたし、兄さんのそういう顔が好きです」


「ありがと」


「兄さんはこうしているときが一番幸せなんじゃないですか?」


 そう言うナギサが一番幸せそうな顔をしていた。この笑顔を壊したくはない。僕は努めて明るく言った。


「そうだね」

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