負け犬の牙 7/8
スターリンたちは戦っていた。
相手は貴族の屋敷ほどの大きさのある、亀の怪物――この迷宮、最後の砦だ。
スターリンのみが前線で、女たちは術によるサポート。
大亀の甲羅は元の色がわからぬほどに、神術エネルギーで白く輝いている。
甲羅から出る灰色の手足や顔は、動物の肌というよりも鋼の印象が強かった。
――その見た目通りに、高い防御力。
スターリンは神具のサーベルで何度か甲羅を叩くが、意味は無い様子。
マリーの炎も甲羅に当たっては、全く効果は無いようだ。
その突進も、まさに怪物。
神具の壁を纏うスターリンさえも、大亀に突っ込まれれば吹き飛ばされている。
スターリンは下敷きにされぬよう距離を取りつつ、亀の顔を狙っている感じだ。
だが、亀にはもう一つ特技がある。
スターリンの放った首への一撃は、確かに効いていた。――紫色の血と、悲痛の顔を見せる大亀。
だが、スターリンがもう一撃と振りかぶった時、亀はその頭を引っ込めた。
頭と手足を甲羅に収め――その位置を入れ替えてから、再び出してくる。
狙うべき頭から避けるべき手足の一撃への早変わり。
その特技にフルアーマーを纏った男が、大部屋をグルグルと走り回されていた。
重量による攻撃力と、高い防御力を兼ね備えた――そんな怪物。
迷宮は試練の中で神竜と九十九階の神獣だけには、複数人で挑むことができる。
だが、エリクサーは一つだし、攻略者と判定されるのも一人だけだ。
軍隊を率いて挑み、結局は誰も攻略者と判定されなかったという噂も聞いたことはあるが……
この大亀は、軍隊でも倒せるのか?
――かつて、俺は逃げ出した。
スターリンはたったの四人で、果敢に挑んでいる。
このスターリンでなければ、俺は今考えているこの作戦を選ばなかったことだろう……
神具持ちといえどもこの怪物を目にしたら、逃げ出すと考えていたからだ。
だけど、スターリンのあふれる自信、それに伴うだけの実力――それらを俺は信じたのだ。
俺を本物の負け組と評した男は間違いなしに、本物の勝ち組だ。
――怪物と怪物の戦い。
人である俺は階段の影に潜み、来たるべきチャンスを伺うのだった。
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