アイス(4)

「こまるよ……」

「なんで、京助がこまるの?」

「だって。つきあうの?

 万代くんのこと、好きなの?」

「わかんない」

 愛ちゃんは、あっさり言った。

「今は、なんとも思ってないけど。これから、かわっていくかもしんない。

 わかんない」

「えー……」

 それは、こまる。すごく、こまる……。

 愛ちゃんのほうに、にじりよっていった。愛ちゃんが、頭を後ろにそらした。

「なに?」

「だめ、だめ。ぼっ、僕にしなよ」

「京助には、にあわないせりふだよね。それ」

「どもったしね」

「そこは、気にならなかったけど」

「そう?」

「うん」

「ことわるのは、いいけど。同じクラスだと、気まずくなるよね」

「それは、いいよ。気にしなくて」

「そうかな?」

「うん」

「新島さんのことは? どうするの?」

「どうもしない……っていうか、なにを僕に求めてるのか、わからないし。

 そもそも、狩野の情報にどれだけの正確性があるのかっていう話だよ」

「むずかしすぎて、わかんない。早口だし」

「ごめんね。正しいかどうか、わからないよってこと」

「そうかな」

「僕は、狩野も愛ちゃんが好きなんじゃないかなって……」

「やめてよ。きもちわるい」

「えっ……」

「狩野くん、きらい。あたしに、かまおうとするし。呼んでないのに」

「そ、そう」

 じゃっかん、狩野に同情した。

 愛ちゃんの反応は、あまりにもはげしかった。

「夏休みの間は、会わなくてすむと思ったのに。いたし」

「狩野にも、図書館に行く権利はあるよ」

「わかってる」

 にがにがしいとしか言いようのない顔で、愛ちゃんが言った。


 ふと、僕の頭の中に、ある図が浮かんだ。

 中心には、愛ちゃんがいる。

 そのまわりに、僕と狩野と万代くんがいて、三人からの矢印やじるしは、愛ちゃんに向いている。この矢印は、好意ってことだ。

 さらに、僕を指している点線の矢印がある。それは、新島さんからでてる。

 問題は、愛ちゃんからの矢印の行き先がどこなのかが、わからないということだった。

「愛ちゃんは、さあ」

「うん?」

「いるの? 好きな人」

 愛ちゃんが、ぐっとつまった。

 長い沈黙があった。

「……」

「愛ちゃん?」

 だんだん、白い頬が赤くなってきた。

 怒ってるような顔つきをしてる。まずかったかな……。

 僕が後悔しはじめたころに、「京助は、ばかだと思う」と言った。

「えっ?」

「あたしが、アイスを買ってもらうのは、京助だけだから」

「それは、あたりまえのことでしょ」

「あたりまえじゃないよ。ぜんぜん」

「そ、そうかなー……。

 え? 僕も、愛ちゃん以外の人に、アイスを買ってあげたりなんか、しないよ。

 なにひとつ、僕にメリットがないし」

「メリットとか、そういう……。

 かんじんなところが、ぬけてるんだよ」

「そうかなあ」

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愛ちゃんと僕 -おさななじみの愛ちゃんは塩対応だけど、僕は気にしない。愛ちゃんのことが大好きだから……。- 福守りん @fuku_rin

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