アイス(2)

 狩野が、愛ちゃんのすぐ横に立ってる。

 なにか話しかけてるみたいだけど、愛ちゃんは、狩野のことは目に入っていないようなそぶりだった。存在ごと消してる。

 すごい塩対応だ。僕に対する態度よりも、ずっとひどい。


「そういうの、やめてくれる?」

 つかつかと近づいていって、狩野のそばに立った。

「借りたの?」

「借りたよ」

 これは、愛ちゃんと僕の会話だ。

「じゃあ、行こう」

 すっと前に出て、愛ちゃんが歩いていく。

 僕も後を追った。

「ちょ、待てよ」

 狩野が、あわれっぽい声をだした。

「なに? 何度も言うけど、デート中なんだよね」

「おまえ、そういうの嫌われるぞ」

「もともと嫌われてるから、いいよ」

「いいから、聞けよ。海藤にも関係あるんだって」

「図書館の外だったら、いいよ。マナー違反だ」

 僕が言うと、やっと黙った。


 図書館の自動ドアから外に出た。

新島にいじま。海藤のことが好きなんだってよ」

 狩野が、どや顔で言った。

「……はあ?」

 ものすごくばかにしたような声がでてしまった。

「おまえなあ」

「どうでもいい。興味ない。

 っていうか、それを狩野が僕に言うのって、おかしくない?

 新島さんが、『言っていい』って言ったの? そうじゃないなら、いじめと同じなんだけど」

「急に、べらべらしゃべんなよ……」

 狩野は、鼻じろんだみたいだった。

「海藤は山野ひとすじだけど、山野は、てんで冷たいじゃねーか。

 それで、新島が、海藤がかわいそうだって……」

「はあ? 新島さんって、そんなにばかだったんだ。知らなかったな」

 僕は、勝手にかわいそうな存在だと決めつけられて、勝手にかわいそうがられていたのか。

「その話、もうやめてくれない? 僕の新島さんへの好感度メーターが、ゼロ以下になる前に」

「わ、わかったよ」

「行こう。京助」

 愛ちゃんが言って、僕たちは狩野を置いていくことに決めた。

「うん。じゃあね」

「……おう」

 さすがに、自分がなにかやらかしたことは、わかってるみたいだった。


「すごい話だったね」

「つっこみどころが多すぎるよ」

 ふたりきりになって、愛ちゃんの態度は、少しやわらかくなっていた。

 僕たちは、コンビニに向かって歩いてる。やっぱり暑かった。

「人に言われて、うれしいと思う? あんなこと」

「いろいろ言われてたから、わかんない。どれのこと?」

「新島さんが、僕のことを好きだって。本当かどうかも、あやしいけど」

「狩野くんが知ってるのは、なんでだろ」

「……ああ」

「あたしだったら、言わない。本人にしか。

 人にしゃべると、へる気がする」

「へる?」

「そう。大事なきもちが」

 前を見ていた愛ちゃんが、こっちに顔をかたむけて、僕を見た。

 どきっとした。きれいな目だった。

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