アイス(1)

 母さんが作ってくれたチャーハンを、みんなで食べた。

 愛ちゃんは、お皿を洗うのを手伝おうとして、母さんに感動されていた。「女の子はいいわー」だって。

 僕と泰助は、キッチンのまわりをむだにうろうろして、愛ちゃんから「うざい」と言われた。


「でかけてくる」

「どこに?」

「コンビニ。あと、図書館」

「図書館に行くの?」

 愛ちゃんに聞かれた。

「うん。本を返したい。いい?」

「いいよ」

「また、もどってくるの?」

「どうかな。どう?」

「もどる。たいちゃんのぶんも、アイス買ってきてあげるね」

「やったー!」

 ものすごい大声だった。

「おばさんも、アイス食べる?」

「私は、いいかな。暑いから、気をつけて。

 帽子は?」

「とってから、行く」

「それがいいわね。いってらっしゃい」

「はーい」

「いってきます」

「ぼくも、いくー」

 泰助がついてこようとしたけど、母さんにえりをつかまれて、「宿題しようね」と言われていた。がんばれ。


 外は、暑かった。

 図書館の本は、手さげのかばんに入れて、持っている。

 僕は、野球の帽子みたいなキャップをかぶっていた。

「待ってて」

 愛ちゃんが、家に帽子をとりにいった。

 少しして、麦わら帽子をかぶって、でてきた。白っぽい、大きな帽子。

「にあってる」

「どーも」

 白い、小さなかばんを持ってきていた。かばんには、細いひもがついていて、それを肩にかけている。

「そのかばん、なんだっけ」

「ポシェット」

「それだ」

「おこづかいで買ったの」

「そうなんだ。先に、図書館に行っていい?」

「いいよ」


 赤いサンダルをはいた愛ちゃんと、十分くらい歩いて、いつも行ってる図書館についた。

 中は、涼しかった。

「さいこう」

 愛ちゃんが、ひとりごとみたいに言った。

「外に出たら、また暑いんだよ」

「さいあく……」

 こっちも、ひとりごとみたいだった。

「愛ちゃんも、なにか借りる?」

「おもしろそうなのが、あれば。カードは、持ってきた」


 借りていた本を先に返した。愛ちゃんは、児童文学の棚の前にいた。

「いいの、あった?」

「まだ、見たい。京助は?」

「僕も、見たいかな。三十分くらいで、いい?」

「うん」


 夏休みの自由研究のために、図鑑とかがある棚を見ることにした。

 水に、いろんなものを溶かす実験をしようと思っていた。砂糖とか、塩とか。

海藤かいどうじゃん」

 めんどくさいやつに、会ってしまった。

 同じクラスの狩野かのってやつ。小学校はちがった。ちょっと変わったやつで、みょうに、僕にちょっかいをだしてくる。あと、愛ちゃんにも。

 僕のそばに立って、にやにやしている。

「あっちに、山野やまのがいたな。

 デートかー。やるじゃん」

「うん。うらやましい?」

「……おまえって、性格わるいな」

「そうでもないよ」

「自由研究、なにすんだよ」

「教えない」

「つめてーなー。おれ、なんも決めてなくてさ」

「僕に聞きたいことがあるなら、なにをするかぐらいは、決めてからにして」

「なんだよ。ほんとに、電話すっぞ」

「いいよ。母さんのケイタイにつながるけど」

「そうなんだよな。宿題、やってんの?」

「うん。ほどほどに」

「これから、どっか行く? おれも、行っていい?」

「なんで……。自由研究は?」

「いっしょに、考えてくれよ」

「めんどくさい。やだ」

「けちくさいなー」

「デート中だから」

「だよな。じゃあ、またな」

 片手を額にあててから、ななめ上にむかって、ふってみせた。かっこつけてるらしい。

「じゃあね」


 借りたい本を選んで、カウンターに行った。三冊。

 それから、愛ちゃんを探した。いた。


「さいあく……」


 狩野にからまれていた。

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