第5話〈4〉【華の日本人ですが、何か?】
現在、この私。
【
前後左右。
視界をどちらに向けようとも、目の前には一面の闇が広がっている。
そう、文字通り。
『お先真っ暗』状態なのだ。
……そりゃあ、そうだよ。
夢にまで見た憧れの留学生活は、初っ端からトラブルだらけだったもん。
ホームステイ先に私と同じ年齢の女の子がいるって聞いたから、実家からわざわざ沢山のお土産や遊び道具を持ってきたのに……。
結局、ソレも使わず仕舞い。
それどころか。
その子の意地悪なパパとママに、たったの数日で家から追い出されちゃったんだよ?
もう、どこに行けばいいのかわからなくなるのは当然だよね……。
……。
……ふふ、なんてね?
私は【自身の目を覆い隠していた両手】をそのままに。
近くにいるであろう、とある人物に話しかけてみる。
「カノンちゃーん? もう開けてもいーい?」
私は一瞬だけ顔から両手を離そうとすると、丁度その場面を彼女に見られていたのか──
「No〜!〈だめーっ!〉」
──と、カノンちゃんの慌てた様な声が返ってくる。
「あ、ごめんごめんっ! まだなんだね!」
現在、私が足を踏み入れていた場所は屋敷の三階にある──【カノンちゃんの自室】の中だ。
昼食を済ませた私は、ルーヴェインさんとの約束を守るべく。
引き続き、メイドのアメリアさんに新たな仕事の要求を申し出たのだが、いざ頼まれたモノはまさかの子守り。
最初は客人の立場である私に遠慮しているだけなのかと思ったが、どうやら本当にそれ以外に今やるべき仕事が無いらしく。
三時のオヤツまでの間、アメリアさんと二人でカノンちゃんの遊び相手をすることとなったのだ。
しかし、いざ洗い物を済ませて『カノンちゃんの自室』に向かっていると、途中で廊下にある電灯が一斉に灯りを消したのである。
どうやら、屋敷内で『一部の停電』が発生してしまったらしい。
停電ならば、放っておけば直るだろうと私はそこまで気にかけてなかったのだが……。
何故かアメリアさんは、その場で異様に慌てふためき……。
私にカノンちゃんの件を一任した途端、彼女は一目散に何処かへ走り去ってしまったのである。
最初は取り残された事に戸惑ってしまった私であったが……。
これは見方を考えれば、ようやく腕の見せ所がやって来たということだ。
昼食の件では結局、アメリアさんの手を煩わせてしまったが、これは名誉挽回のチャンス!
……さて。
話は戻るが、私はカノンちゃんの自室のど真ん中にいる最中である。
一応、事の発達を説明するならば、部屋に入る前にカノンちゃんから目を瞑って欲しいとジェスチャーでお願いされたのが始まりだ。
とりあえず彼女の指示に従い、今もこうして目を塞いでるのだが……。
一体、これから何を見せてくれるのだろうか?
「Hana〜!〈はなー!〉」
すると、ようやく前方にいるカノンちゃん側から声が発せられた。
もう開けていいのかな?
私は彼女の合図を耳にし、目を覆っていた両手をそっと外した。
そして、ゆっくりと目を開いて目の前の光景を確認する。
「……えーっと」
目を開けた私が最初に見た光景……。
それは──
「……テ、テント?」
──絨毯の上にドンと置かれたブルーシート製の三角テントと、その中に入ってニコニコと笑み浮かべるカノンちゃんの姿であった。
……え、何これ?
なんで部屋の中にテント……?
もしかして、英国貴族の間で密かに流行ってたりするの……?
私はポカーンと口を開けていると、カノンちゃんはそのテントの中でゴソゴソと何かを漁り始め、何かを手渡してくる。
カノンちゃんがテントから取り出したもの……。
それは、ページの一枚一枚が湿気でクシャクシャになっている小汚い雑誌であった。
よく見ると、その表紙には日本人なら誰もが知っている景色が写っている。
「あ、富士山だ」
そう、そこには日本が誇る世界文化遺産。
──【富士山】がデカデカと表紙を飾っていたのだ。
文字は全て英文であった為、何となくでしか理解できなかったが、そこには母国に関する数々の写真も同時に掲載されている。
そのおかげで、この雑誌が何の意図で作られた雑誌であるのかすぐに把握することができた。
「あっ、なるほど! これ、この国で発売されてる旅行雑誌か!」
私の母国である日本。
それらに関する情報が余す事なく掲載されているのであろう。
ページを捲っていくと……。
様々なレジャー施設等の観光スポット。
数々の名産品や郷土料理等のご当地グルメ。
加えて、アニメやゲーム等の流行りに乗った細かい文化まで。
ありとあらゆる特集が組まれている様子だ。
何故、彼女はこんなモノを大事に持っているのだろうか?
「えーっと……、どぅーゆーらいく……、じゃぱん? 」
私がぎこちない英語でそう尋ねてみると、カノンちゃんはコクコクと激しく首を縦に振る。
「そうなんだ! えへへ、何だか嬉しい!」
……あ、なるほど。
だから、私が鞄に付けていたキーホルダーを知っていたのか!
一人で納得の表情を浮かべていると、カノンちゃんは私の服をクイクイっと引っ張り、私の持つ雑誌に指を差してきた。
……一緒に見たいのかな?
とりあえず、私はその場にしゃがみ込み。
その雑誌を床の絨毯の上に置いてみる。
すると、カノンちゃんは横からペラペラとページを捲り、とある特集記事を私に見せてきた。
覗き込んでみるとそこには……。
けん玉、折り紙、あやとり、お手玉、蹴鞠。
昔から日本で親しまれる娯楽。
所謂、日本の昔に流行った遊び道具がわんかさ載っていたのである。
そして、そんなカノンちゃんは続けて何かを期待する表情を浮かべながら、コチラをじっと見つめてきた。
「……え? もしかして、これで遊んでみたいの?」
そんな事を急に言われても……。
そう、今は令和の時代。
そんな娯楽に溢れきっている現代において、コレらで遊んでいる日本人などほぼいないだろう。
むしろ、今時の子供達は誰もそんな古典的な遊びなどには一切目もくれず……。
家でオンラインゲームをしているか、クラブチーム等に所属しスポーツに魂を燃やしている時代だ。
当然、新たな中学一年生となった私も年代的に言えば立派な現代っ子……。
流石にそんなものを自ら進んでやっている子なんて、私の周りには……──
──……私くらいしかいないだろう。
「カノンちゃん! ちょっとここで待っててね!」
私は嬉しさの余り。
凄まじい速さで部屋を飛び出した。
そして、一階のゲストルームに置きっぱなしだった手提げ鞄を回収し、急いでカノンちゃんの元に舞い戻る。
私は部屋に戻ってくるや否や。
手提げ鞄から「Myあやとり」を取り出し、驚くべき速度で大技──
「ブリッジーっ!」
──【十四段梯子】を完成させるのであった。
そう、私は大がつくほどのお婆ちゃんっ子なのだ。
その為、それらの昔遊びは無論のこと。
全て網羅し切っているのは言うまでもない。
おそらく、私はこの令和の世でたった一人の生き残り……。
つまり、生涯現役の昔遊びプレイヤーなのである。
……まぁ、実際は特別に昔遊びが好きだった訳じゃなくて。
家が山奥すぎたせいで周りに同年代の子が一人もいなかったから、お婆ちゃんくらいしか遊び相手がいなかっただけなんだけどね!
すると、私の華麗なあやとり術に対して、カノンちゃんは目をキラキラとさせながら感動の声を上げた。
「Wow! My home〜!〈わぁ! カノンのおうちだー!〉」
……。
何だかよく分からない喜び方をしているみたいだけど、無事に喜んでくれている様で良かった。
私は静かに喜びを噛み締める。
そうそう、これだよー!
これなんだよ〜!!
私がホームステイ先で一番やりたかったの!
実は、夢にまで見た留学生活の中で。
いくつかの目標が私の中に存在していた……。
そして、その内の一つがまさにコレ。
──日本から持ってきた遊び道具を使って、ファミリー達と一緒に思い出を作ることだったのである。
まさか、こんな形で叶うなんて……。
気がつけば私は感極まり、いつの間にかカノンちゃんをギュッと愛おしく抱きしめていた。
「そうだ、カノンちゃんもやりたいんだったよね? はい、どーぞ! お姉ちゃんが教えてあげてるから、一緒にやろうよ!」
「Yay!〈わーいっ!〉」
おそらく言葉は伝わっていないが、私の高いテンションに釣られて喜ぶカノンちゃん。
私はそんなカノンちゃんの背後に座り直し、持っていたあやとりを彼女の手にそっとかけてあげる。
そして、もう一本。
予備のあやとりを手提げ鞄から取り出し、背後から彼女の見える位置に手を置いた。
「よし! それじゃあ私の真似をしてね! まずはここに親指を引っ掻けて……」
「Mumu......」
「あ、そうじゃなくて……、こっちだよ!」
「Mumu……?」
「あれ、絡まっちゃったの? ちょっと待っててね、すぐに解くから……」
「H……、Hana〜……!」
「あ、ちょ、あの……。あ、あんまりブンブンしない方が……、ああっ……──」
……何となくここまでの会話だけでどんな事態になっているのか。
おおよその想像はつくだろう。
私があやとりを教え始めてから、ほんの数秒間……。
その僅かな時間で、彼女はとんでもない姿へと変貌を遂げてしまったのである。
「……えぇ」
なんと、彼女の操っていたあやとりは。
彼女の綺麗な金髪や細い両手首などをブラックホールの如く巻き込み。
最終的に、彼女の頭上で複雑に絡んでしまったのである……。
その結果。
カノンちゃんは両手が頭の上から離れなくなってしまい、もはや今は涙目でコチラに救援の視線を送ってくる事しか出来なくなっていた。
とりあえず、私はカノンちゃんのあやとりを解いてあげようと考え、冷や汗混じりにあらゆる角度から彼女を観察することに。
「あちゃ〜、固結びになっちゃったんだね。これは切った方が早そうだけど……」
ハサミなどは生憎持ち合わせておらず、軽く見渡してみたが、子供部屋である彼女の部屋にも存在しなかった様子。
なので、手でほぐしながら一から取っていくしかないだろう……。
「……うーん」
ひとまず巻き込んだ髪からあやとりを取ることには成功したのだが、両手首に絡まった毛糸はギチギチに結び目を閉ざしてしまっている事が原因なのか。
素手ではこれ以上解くことができなかった。
まるで、鎖が長めの手錠をかけられた犯罪者の様にショボーンと落ち込むカノンちゃん。
不味い。
このままではカノンちゃんの中にある日本への憧れが、今に崩れ去ってしまうかもしれない。
なんとしてもそれだけは阻止せねば……!
幸い、他にも遊び道具はまだ沢山持ってきているんだから、それで挽回しなきゃ!
私は床に置いていた鞄にノールックで手を突っ込み、適当なアイテムを引き抜く。
「カ、カノンちゃん! あやとりは後で切ってあげるから……、他の遊びをしようか? ほら見て見て!」
私が偶然手に取ったもの。
それは色とりどりの折り紙であった。
私はビニールに入った正方形の紙を二枚取り出し、慣れた手つきで迅速に簡単な作品を作り上げる。
無限大にある折り方から私が作ったモノ。
それは……──
「じゃじゃーん! 手裏剣だよ〜!」
──そう、手裏剣だ。
二枚の折り紙で簡単に作れる作品かつ日本らしいアイテムと言えば、やはりこれだろう。
それだけではない。
しかも、今回は……。
──【金】と【銀】の折り紙を使用して作ってあげたのだ。
折り紙セットの中にたった一枚ずつしか入っていない『レア折り紙』である光り輝くゴージャスな紙……。
これならば確実に。
どんな子供でも飛びついてくるのは必然である。
だって、あの真っ先に奪い合いの対象になっちゃう金と銀の折り紙を両方使ったんだよ?
絶対に喜んでくれるはずだよね……?
そして、そんな私の予想は……──
「Ninja〜!?」
──見事に的中した。
しかも、当たりも当たり。
大当たりだ。
カノンちゃんは顔を一変させる様にぱあっと笑顔を見せ、その表情に明るさを取り戻す。
「おーっ! カノンちゃん、忍者好きなの!? それじゃあね……」
私はカノンちゃんの笑顔を見た瞬間、畳み掛けるように他の作品も作り始めた。
忍者刀やまきびし等の武器。
額当てやマスク等の装備品。
それらを瞬時に折り、全てカノンちゃんに装着させてみる。
「じゃーん! 忍者セット〜!」
すると、彼女は恐る恐るその格好のまま。
部屋の中にあった姿見を覗きに向かい始めた。
鏡の中にいる自身の姿──『金髪の幼女忍者』を見た瞬間……。
彼女はその場で本当に嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「きゃぁ〜! カノンちゃん可愛いっー!!」
何、この反応!?
天使だよ!!
昔、弟に作ってあげた時とは大違い……!
確かあの時は……。
「ねーちゃん、じだいはおりがみよりス○ブラだぜ?」って言われたんだっけ……。
それと比べちゃったせいなのかな!
カノンちゃんのピュアな反応が凄く嬉しい……!
すると、カノンちゃんのテンションがピークを迎えてしまったのか。
彼女は窓を指差した。
「ん? 開けて欲しいの?」
私はカノンちゃんの希望を読み取り、窓を開ける。
すると、一気に室内に風が舞い込んできてしまった。
「わっ!?」
そのせいか、床に広げていた折り紙の一部がカノンちゃんの部屋中に散らばってしまう。
「わー!? 散らかすと怒られちゃうよー!」
それを見た私は、部屋のあちこちに舞ってしまった折り紙達を回収しようと、窓から目を離すように背中を向けた。
すると、次の瞬間──
『Kawarimi no jutsu〜!!』
──と、背後から。
そんなカノンちゃんの跳ねる声が聞こえてきたのである。
「え?」
私は背後から聞こえてきたその声に反応し、咄嗟に後ろを振り向く……。
すると、そこには。
──狭い窓枠に二本足を立たせているカノンちゃんの姿があった。
しかも、それが確認できたのはほんの一瞬だけ。
次の瞬間、カノンちゃんはそんな台詞を放ちながら、まるでヒーロー戦隊になりきったかの様に……。
その窓から。
外に向かって飛び立ってしまったのである──
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!??? カノンちゃぁぁぁぁんんん!!!???」
──人間。
意外と緊急事態には本領以上の力を発揮できるモノなのか。
私は瞬時に身を乗り出し、カノンちゃんの元へ雷の如く駆け寄った。
そして、火事場の馬鹿力で。
見事、カノンちゃんの脇腹に両手を差し込む事に成功する。
「カノンちゃん!? 違う違うっ!! 色々間違ってるっ!! それ変わり身の術じゃなくて……、身が変わり果てる方の術だからっ!? だから、早く戻ってきてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
私は、急いでカノンちゃんを引き上げて天蓋付きの大きなベッドに放り投げるように座らし、慌てて背後の窓をバタンと封鎖。
息を切らしながら、そっとその場から踵を返し、そのままカノンちゃんをギョッと見つめる。
こ、この子は恐怖を感じないのだろうか……?
いや、違う。
子供というのは周りの人間を見て育つ生き物。
もしかしたら、彼女も『誰か』の真似をしてあの様な愚かな行動に出たのかもしれない……。
もう、誰ですか!?
過去にカノンちゃんの前で【窓から出入りしたことのある人】はっ!!
信じられないっ!!
私は心の中で。
正体不明の反面教師に怒りを覚えながらも、口を膨らませていると……。
『……S,……Sorry……!〈ご、ごめんなさい……!〉』
カノンちゃんがそんな私の顔を見て、泣き出しそうな顔をする。
どうやら、先程私が発した日本語の叫びを『怒りの声だ』と勘違いしてしまったらしく。
プルプルと身体を震わせ始めたのだ……。
それを見た私は、思わず反射的に。
その場で首をブンブンと横に振ってしまう。
「ち、違うよっ!? えーっと……、アイアム!ノット、アングリー!」
このままでは、折角取り戻せそうだった楽しい時間が台無しになってしまう……。
そう考えた私は、もうなりふり構わず。
禁じ手に近い最終手段に手を出すことにした。
私は手提げ鞄のポケットから、弟に借りた携帯ゲーム機とゲームソフト一式を取り出す。
「ほ、ほら見て! お姉ちゃんね、携帯ゲーム機も持ってるんだよ〜! き、今日はもう大人しくゲームでもしてよっか!?」
本来、これも人見知りな私が留学先で馴染めなかった場合のリーサルウェポンとして借りてきたアイテムなのだが、まさかこんなに早く使うことになるなんて……。
すると、カノンちゃんは鼻をスンスンと鳴らしながら、興味ありげに私の手元を凝視し始める。
「おウチにあったゲームソフト全部持ってきたんだー! 好きなの選んでいいよ!」
私はカノンちゃんが座るベッドに腰を掛け、布団の上に次々とゲームソフトを並べていく。
すると、カノンちゃんはゲームソフトに描かれているパッケージのイラストのみを見て判断しているのか……。
暫く経ってから、とある一本のソフトを手に取った。
よくみると、それは私の父親が購入してきたゲームである模様。
タイトル──【信長の宿望】
戦国時代を舞台とした本格シュミレーションゲーム。
私も普段からゲームをあまり進んでプレイしないので詳しいことは分からないのだが、前にお父さんがそんなことを言ってたような……?
というか、チョイス渋っ!!
その年で【信長の宿望】は早いよ!!
絶対に大人向けのゲームだよ、コレ!
「コレはちょっとカノンちゃんには難しいんじゃないかな……? ほら、こっちの【アニ谷】とか面白そうだよ! 可愛い動物さんがいっぱい出てくるみたい!」
私はその隣にあったゲームソフト。
【アニ谷】を薦めてみた。
タイトル──【アニマルの谷】
可愛い動物達が住む島で、気ままな生活を体験するスローライフゲーム。
これは妹から借りてきたゲームなので、女の子にも人気なのは間違いないだろう。
「ほら、パッケージのイラストも可愛いよ! 猫ちゃんとか、犬さんとか……。あっ、『ワニ』さんなんかもいるみたい! 面白いね!」
すると、カノンちゃんはそんなゲームソフトのパッケージに映る『ワニ』を確認するや否や。
突然、何かを思い出すかの様にズーンと気分を沈めてしまった。
あれ!?
テンション下がってない?
何か苦手な動物でもいたのかな……?
幾ら他のソフトを薦めても見向きもせず、カノンちゃんは【信長の宿望】から手を離さない。
視線の先を追いかけてみると、どうやら戦国時代ということもあり、パッケージには【忍者】が描かれていたようだ。
なるほど、コレが理由か……。
「じゃ、じゃあせめてこっちの【武将無双】にしない? カノンちゃんの大好きな忍者さんも出てくるし、爽快感があって気持ちいいよ!」
私が最後の望みをかけて推薦したソフト。
タイトル──【武将無双】
ばったばったと敵軍を薙ぎ倒す、爽快無双アクションゲーム。
実は、このソフト。
唯一、私の私物である。
何を隠そう。
私は大の少女漫画やアニメ好きなのだ。
そして、このゲーム。
私好みの黒髪イケメン武将が沢山出てくるらしいのだが、それを知っていた弟は日頃の感謝として……。
この前の誕生日に遠くのゲームショップにて中古で安く売っていたこのゲームを購入し、それをそのままプレゼントしてくれたのである。
「……!? Ninja〜!」
こちらも戦国時代が舞台。
つまり当然、カノンちゃんの好きな忍者が登場する作品だ。
その結果。
見事にカノンちゃんを釣れたようなので、私は早速このゲームを起動させることに。
最序盤の簡単なステージを選択し、そのままカノンちゃんに本体を手渡す。
まぁ、このゲームは適当にボタンを連打してるだけで大体なんとかなるし。
小さいカノンちゃんでも多分クリアできるよね。
そう思っていた矢先……。
突然、カノンちゃんが持つゲーム機から、声優さんが熱演する迫真の討死ボイスが流れてきた。
よくみると、液晶にデカデカと【討死】の二文字が浮かんでいたことに気がつく。
「……あ、あれ? 残念、討ち取られちゃったねー……! 【普通】は少し難しかったのかな? 難易度一つ下げてみよっか!」
そして、最スタート。
……。
しかし、再び断末魔が。
「……【とても易しい】にしてみるね」
……。
以下省略。
「チュートリアルやってないからだよきっと! チュートリアルをしよう!」
……が、それでも。
『──ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!』……と、やられボイスの後に敗北BGMが部屋に流れ始める。
……。
雑兵無双されとるじゃない……!
そもそも、チュートリアルで負けることってあるの!?
私がテレビ見ながら片手間にやった時は……、『放置しててもいつの間にか勝ってた』レベルだよ!?
逆にどうやって負けてるの!?
「……gusyu〈……ぐすっ〉」
するとようやくというべきか。
遂にというべきか……。
次第にカノンちゃんの目から。
ポロポロと涙が零れ落ちてしまう。
「わわっ!? だ、大丈夫だよー? 難しいゲームだったもんね。その……、な、泣かないでー……!」
私は慌ててフォローの言葉を口にするが、彼女はそんな私の声に被せる様に──
「Too much fun…….〈たのしすぎるよぅ……〉」
──と、発言。
まさかの嬉し泣きの方だったことから。
私は思わずその場でズッコケしまった。
そして、満足がいったのか。
カノンちゃんはゲーム機をそっと横に置き、隣にいた私の手をぎゅっと握ってくる。
「Hana!〈ハナっ!〉」
すると、彼女は少し緊張した面持ちで。
私にこう告げてきた。
「──とも……、だちっ!」
「え……?」
なんと、彼女が日本語でそう口にしてきたのである。
『友達』──。
間違いなくそう言ったのだ。
その瞬間、私は留学前に自宅で何度も練習していた……。
とある英文を脳裏に過らせた。
「待って! そこからは、私に言わせてっ!」
そして、私は再三練習したその英文を。
目の前のカノンちゃんに伝える──
『Would you like to be my friend?〈私と友達になってくれませんか?〉』
──私が留学生活で夢見ていたこと。
その二。
それは、海外の友達を作ることだ。
その瞬間。
カノンちゃんは今日一番の笑顔を見せながら、私の胸に両手を広げて飛び込んでくる。
私はベッドに倒れ込むような形で。
そのままカノンちゃんにぎゅーっとハグをされたのだ。
「Yay! want to become〜〜!!〈わーい!! なるなるぅー!!!〉」
「ふふっ」
私は感動のせいか胸がいっぱいになり、段々と息が苦しくなってしまう。
段々と……。息が……。
……あ、あれ?
なんだか、本当に呼吸が苦しい……。
そう、この時。
私はカノンちゃんの両手首についたままのあやとりの存在をすっかり忘れていた。
どうやら、不運にも彼女の腕に繋がるあやとりは、私の喉にかかってしまっていたらしい。
「ぐふっ!? カ、カノンちゃ……、あやとり……、し、死ぬぅぅ……!?」
そのタイミングで丁度。
とある二つの音が部屋に鳴り響く。
一つは、部屋の扉から顔を出したアメリアさんから──
『お待たせしましたわ華様。遅れてしまって申し訳ございません。やはりもう少し時間がかかりそうなので、先にスイーツをお持ちに……」
そして、もう一つは──
『敵将っ! 討ち取ったりぃぃぃー!!!』
──カノンちゃんが放置していたチュートリアルが勝手に目的を果たしたのか……。
携帯ゲームから鳴り響く。
高らかな勝利ボイスだった。
「は、華様ぁぁーーーーっ!?」
──あと少し、アメリアさんの到着が遅ければ……。
私もゲーム内の敵武将と同じ末路を辿っていた事だろう。
✳︎
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