第4話〈1〉【技能テストを行いますが、何か?】

 

 ここは屋敷の二階に存在する一室。

 ──【執務室】だ。


 物静かなこの部屋の中では。

 現在、とある二つの音だけが鳴り響いている最中である。


 そして、その双方に共通していたのは……。

 共に『何かを記入している音』であるということであった。


 一つは、室内の壁際中央付近に設置される広い作業机と向き合う僕の手元から……。


 屋敷に関する重要書類や、今後の資材調達関連で連携を取っていくであろう業者達との手紙を相手に──「カッカッ」と『万年筆』の心地よい音を鳴らしていたのである。


 では、もう一つの音の出所とは。

 一体、どこからなのか?


 その答えは……。


 僕は前方に目線のみをチラッと落としてみる──




「むむぅ……」




 ── すると、そこには。


 当屋敷の幼き当主……。

 我が主である【カノン様】の姿があった。


 彼女は、僕が座る多くの書類が積まれた作業机の対面側に存在。

 執務室のど真ん中に設置された簡易型の小さな子供用学習机にちょこんと座りながら……。

 何やら、非常に難しそうな顔で机と睨めっこなされているご様子である。


 そして、カノン様の手元には。

 逆手で握られし──黒の『水性ペン』……。


 学習机の上に置かれる一枚のホワイトフリップと向き合い、彼女は慣れない手つきで──「キュッキュ」と音を鳴らしているのであった。

 

 書いては消し……。

 また書いては消す。 


 すると、暫くそんなことを繰り返し続けていたカノン様に……──



「あっー! わかったぁー!」



 ──ようやく。

 顰め続けていた顔を一変させる。

 一筋の天啓が。

 

 そう、実はこの僕……。

 只今、目の前のカノン様に『とある問題』を出題させて頂いている身なのであったのだ。


 そして、今の嬉しそうな表情と声。

 

 どうやら、ようやく僕が出題したその『問題』の答えを導き出してくれたようだ。


「おや、もう解答が出たのでございますか? 流石はカノン様でございます」


 そんな彼女の声を耳にした僕は、万年筆を持った手を一旦止めて背筋を正し……。

 机の向こう側に座るカノン様にニコッと優しく微笑みかける。


 ……『もう』とは言ってみたモノの。

 実際、僕がカノン様に出題してから経過した時間は、およそ一時間弱。

 

 確かに。

 たった一問だけの問題に対してと考えれば……。

 少々、時間をかけて過ぎているように捉えられるかもしれない。


 しかし、それが何だ?


 一瞬で導き出した答えが間違っているよりも、懸命に時間をかけて正解を掴み取ってくれる方が何倍も良い経験となる。


「では、改めまして……、問題でございます!」


 僕はカノン様に見えるように机の端にて設置していた──目の前の『ミニホワイトボード』を手を伸ばし、待ち侘びたと言わんばかりに自分の顔の横に掲げる。


 そして、僕は約一時間ほど前に出題したカノン様への問題を……。

 再び、口頭で出題。


 果たして、その問題文の全容とは──



「超難問っ! 『【1+1】=【?】』の数式が導く答えは! ズバリ、何でございましょうか!」



 ──……。


 今……。

 これを見て、『それのどこが超難問?』とか思った奴は良く聞け。


 補足しておくが、カノン様が【数字】という概念に触れたのは本日からなんだぞ?


 つまり、【算数】を学び始めて間もないカノン様にこの問題を出す分にはセーフという訳だ。


 故に、この事に関して。

 外野からとやかく文句を言われる筋合いは無い。


 『流石にそれは甘すぎだわ』とか……。

 『せめて、もう少し難易度上げろや』等と言うゴミカスみたいな意見は一切受け付けないつもりなので……。

 最初からそのつもりで頼む。


 ……まぁ、どれだけ説明しても『一から九までの数字の読み書き』と『一桁単位までの加算法』くらいしか理解してくれなかったのは想定外だったが……。

 流石に、これだけハードルを下げれば正解して下さるだろう。


 やはり、初めて直面する壁は乗り越えて欲しいと願うのは至極当然だ。


 あらゆる学問に触れる前に。

 頭を捻って自力で導き出した答えが正解していた時の喜びや感覚……。

 まずは、そういったものを肌身で体験して欲しいのである。

 

 さぁ、カノン様。

 クソデカ拍手と祝砲クラッカーの準備は出来ております……。


 なので思う存分! 満を持して!

 お手元のフリップを!


 この僕に公開して下さいませ!

 

 これに正解すれば、密かに用意していた【超豪華な午後のスイーツ】は勿論のこと……。

 僭越ながら、当執事が『死ぬほど褒め散らかさせて頂きます』ので!!


 僕はカノン様から死角となっている自分の膝の上。

 そこに用意していたパーティクラッカーにそっと片手を置きながら、カノン様に爽やかな笑顔を向けた。


「さぁ! 答えをどうぞ!」


 すると、カノン様は自信満々に。

 手にしていたフリップを自らの頭の上へシュッと掲げる。

 

「は〜いっ!」


 ……。

 

 しかし、僕はフリップに書かれたその数字を見た瞬間……。

 浮かべていたその笑顔を凍らせた。


 それもそのはず。


 何故なら。

 カノン様が手に持つフリップには。


 この様な数字が書かれていたのだから──



 「『いち』と『いち』!」



 ──そう。


 連結して並ぶ数字羅列。


 その名も【11】……。


 ……。


 はいはい。


 あー、なるほど。

 そのまま合体させた訳か……。


 確かに、二桁以降の数字はまだ教えていなかったけども……。


 一切の前情報が無かったら。

 人はアレを『じゅういち』ではなく。

 『いちといち』と呼ぶんだな。

 

 いやー。

 めちゃくちゃ興味深い。


 そして、気持ちはわからなくない……。


 ……スーッ。


 ……あれ?

 これは、もしやあれか……?


 世間的に言えば、この解答は……。


 『不正解』的な扱いになんのか……?


 僕はダラダラと額から汗を流しながら、膝の上に乗せているクラッカーから手を離してしまった。


 そして、その場で暫く無言で固まっていると、目の前にいたカノン様のフリップの高度が徐々に下がり始めた事に気がつく。


「ま、まちがい……?」


 すると、次第に彼女は。

 目に涙を溜めながら、その場でぷるぷると震え出してしまった模様。


「……えっ!? いや、そのっ!?」

 

 それを見た瞬間。


 僕は素早過ぎるスピードと反射神経で。

 膝の上に置いてあったクラッカーをガシッと掴んだ。

 ……いや、膝の上にある物だけでない。


 余りにも焦ってしまったせいなのか。

 勢い余って、念の為に机の引き出しに用意しておいた予備のクラッカー達にまで手を伸ばしてしまう。

 

 そして、僕はその複数本のパーティクラッカー達を、両手にある全ての指の間に挟み込み……──



「いえ! これはもう! 『もはや正解』でしょう!!」



 ──そんな訳の分からないフォローと共に。

 次々と祝砲を発射するのであった……。


 加えて、破裂音が鳴り止んだ後にも部屋に静寂を齎させないかの如く、ダメ押しの様に大きな拍手。

 

 目の前にいるカノン様に。

 全身全霊のファンファーレ演出をお贈りする。


「や、やったーっ!? わーいっ!」


 すると、余程嬉しかったのか。

 彼女はパァっと顔を明るくさせながら席を立ち上がり、その場でぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。


 それを見た僕も。

 ほっとした様に胸を撫で下ろす。


「……ん?」


 ……そう、事件が起きたのは。

 まさにそのタイミング。


 僕は安堵の息と共に。

 何気なく、カノン様の背後にある扉方面へと視線を送ってみた。


 すると、そこには──


「……」


 ──この屋敷に住むもう一人の住人。

 

 コチラに細い目を向けてくる同僚メイドの姿が……。


 どうやら、扉の隙間越しから。

 部屋の様子を覗き込まれていたらしい。


 そんな彼女と目が合ってしまった僕は、片手で顔を抑えながら下を向いてしまう。


「……ど、どの辺りから聞いていた?」


「『もはや正解』などという、全く意味の分からない発言辺りからですわ」


 呆れた表情で扉から入室してきたのは、銀のトレイを持った銀髪のメイド──【アメリア】であった。


 ちなみに、トレイの上に乗せられいるのは、僕が数時間前に調理した……。

 ──『カノン様が初めて数式を解いた記念』のご褒美おやつ。


 そう、本日の【家令】を担当していたのは、何を隠そう。


 この僕である。

 

 そして、当屋敷に関する方針の全権限を持つ僕は、部下であるアメリアに。

 裏でこの様な指示を下していたのだ……。


 『午後三時に部屋の外にて待機し、室内からクラッカー音が鳴ったと同時にそのスイーツを持って部屋に入ってこい』という指示を……。


 しかし、まさかカノン様が不正解の解答を提示なされるとは予想できず。

 結果的に、その計画もグダグダとなっている状況である。


 すると、近くにいたカノン様もようやく背後に立つアメリアにお気付きになられたのか。

 「あっ!」と声をあげ、手に持っているフリップを見せびらかす様に彼女の足元へと駆け寄っていった。


「あめりあっ! みてみてっ! カノンね、おべんきょうできたのっ!」


 カノン様が手に持つ【11】と書かれた解答フリップ。

 僕が手に持つ【1+1=?】と書かれたボード。

 

 その二つを交互に確認したアメリアは、何となくこの状況を把握したのか。

 駆け寄ってきたカノン様の頭を撫でながら、僕に冷たい視線を送ってくる。


 そんな目で見んな……。

 こっちだって心が痛ぇんだよ……。


 とりあえず、ここは咳払い。

 空気を変えようと、僕はパンパンと手を二回程鳴らす。


「カノン様、そろそろ休息を取りましょうか! 丁度、『三時のおやつ』もご用意させて頂きましたので!」


 そして、意地でもカノン様にスイーツを味わってもらうべく。

 『ご褒美』から『三時のおやつ』という名目に切り替えた僕は、目の前のアメリアに合図を送った。


 すると、扉付近にいたアメリアは溜息混じりに、渋々とカノン様が座っていた学習机で配膳準備。


 散らばっていた学習道具を片付けてクロスを貼り、その上にティーカップや食器を並べてゆく。


「わぁ……、いいにおいするっ……!」


 どうやら、アメリアの足元にいらっしゃるカノン様もその様子を見て、目をキラキラと輝かせているご様子。


 頃合いを見た僕はカノン様に視線を合わせる様にしゃがみ込み、そのスイーツにスッと手を向けた。


「本日のスイーツは僕が担当させて頂きました──コチラ、【Rose Langue de chat〈ローズ・ラングドシャ〉】になります」


 アメリアが調理トングを使ってトレイに乗せられたバスケットから取り出したのは、四輪の薔薇の蕾。

 食用加工した薔薇の花で香り付けされた『赤、青、黄、白』で構成された……。

 四種のラング・ド・シャである。


「おはなのかたちしてる……! これ、カノンがたべてもいいのっ!?」


「ええ、勿論でございます。食材も一級品の物を仕入れる事が出来ましたので……、味の方もお気に召されるかと──」


 僕が得意げな顔で隣の主にそう説明していると、背後にいたアメリアがボソッと背後から声を重ねてくる。


「──……材料を調達してきたのは、私ですけどね」


 ……。

 今、何か聞こえた気がするが……。


 無視だな。


 一瞬だけ動きを止めてしまった僕であったが、再び気を取り直す様にカノン様へ自分が手掛けたスイーツの説明を続ける。


「勉学のお供と言えば、やはり糖分ですからね。この甘いおやつを摂取すれば、カノン様の学習効率も大幅に──」


『──……昨日、私が作ったお菓子の方が甘かったですけどね』


 ……。

 ……いや、関わるな。

 関わったら負けだ。


「ば、薔薇の香りの強さを調整する工程にも、実は僕なりの拘りがありまして──」


「──ちなみに、その香りを空気中へ逃がさない様に閉じ込めながらここへ運んできたのは私です」


 何度もカノン様への説明を邪魔をしてくるアメリア。

 そんな彼女に対し、流石の僕も鋭い視線を向ける。


「……おいテメェ、さっきからブツブツうっせーんだよ……。喧嘩売ってんのか?」


「いいえ、別に?」


 しかし、アメリアは僕に視線を合わすこともなく、その場から一歩前に足を踏み出して膝を曲げ……。

 淡々と主であるカノン様の洋服に、前掛けを装着し始めるのであった。

 

「申し訳ございませんね、カノン様。【算数】の基礎すらまともに教える事ができない馬鹿執事が、本日の御側付きを担当していて……」


「ぐっ……!?」


 このアマ。

 ことある毎に対抗意識を燃やしてきやがって……。

 ……マジでうぜぇ。


 しかし、僕も諦めずに応戦。


「いや、カノン様の答えは正解だぞ。……そういえば、裏で──『【ソフィー・ジェルマン素数】を一つ答えよ』という問題も同時に出していた気がする」


 そして、柄にも無く。

 その様な苦しすぎる言い訳を咄嗟に口にしてしまうのであった。


「嘘を仰いっ!! 今日から数字に触れた子に、どんな鬼畜問題を出してるんですの!!」


「そもそも【1+1】の答えが一つしかないなんて誰が決めた? 僕達が勝手にそう思い込んでいるだけで……。全宇宙を探せば、どっかの惑星では【11】が答えに採用されている星もあるはずだ」


 カノン様の答えは絶対なんだ。


 もしも、カノン様が天動説を唱えるならば……。

 僕はその日から、迷わずそう信じて生きていくだろう。


 ……そして、地動説を唱えている奴らは。



 血祭りだ。



 そんな僕の言葉を聞いたアメリアは大きな溜息を一つ吐き、しゃがみ込んでいる最中である自らの膝の上にカノン様を座らせると。

 そのまま、消毒液を馴染ませた手拭きで彼女の手を綺麗に除菌し始めた。


「こんな『甘々な従者』が本日の御側付きではカノン様も些か不安でしょう……。今からでも、この私を代わりに指名して下さって構いませんのよ?」


「……なに?」


 その発言を聞いた瞬間。


 僕はその場から立ち上がり、アメリアを小馬鹿にするかの様に鼻で笑いを鳴らしてみせる。


 すると、アメリアはそれが気になったのか。

 下から僕に鋭い視線を送ってきた。


「……なんですの? その笑いは」


「甘々な従者? ……いや、お前にだけは言われたくない台詞だと思ってな」


 僕がその様に発言すると。

 アメリアは何を言ってるんだと言わんばかりに「はい?」と首を傾げ、カノン様を膝に乗せたままの状態で反論してくる。


「私のどこが甘いというんですか? ただでさえ貴方がここまでカノン様を甘やかしているのに……! 私までカノン様に甘くなってしまった日には、もうこの屋敷は終わりですわ!」


 そして、彼女は再び。

 目の前のカノン様の対応へと意識を戻した模様。


 なるほど、お前は文字通り。

 『自分こそが最後の砦だ』と言い張るのか。


 ……しかし、僕の目に映る彼女の姿を見る限りでは、今の彼女の言葉を信じることは不可能。


「お前、今の姿を見て人にモノ言ってんのか?」


 何故なら、現在の彼女の姿は……。


 椅子にではなく、自らの膝に主を座らせ。

 主人の代わりにスイーツを一口サイズに切り分けつつ……。

 あまつさえ、それをそのままカノン様の口まで運んでいると言う状態であったからだ。


 もはや、カノン様が何のアクションを起こさずとも、勝手に彼女の口へスイーツが入ってくるという怠惰の極みの様なシステム。


 それを他でもない。

 僕に苦言を呈してきた彼女自身が作り上げてしまっていたのである。


「絶賛、終焉迎えてる最中じゃねーか……」


 ……先日のテーブルマナーでカノン様を叱っていた彼女は、一体どこに消えてしまったのだろうか?


 昨日、僕が仮眠をとっている間に。

 多少なりとも彼女に心境の変化が訪れたのは勘づいていたが……。

 まさか、上品さやマナーに人一倍うるさかったアメリアが、たった一日でここまで骨抜きにされるとはな……。


 メイドがチョロかったのか。

 はたまた、主が人たらしなのか。


 すると、その僕の忠告でようやく自分の行き過ぎた行動に気がついたのか。

 アメリアは──「はっ!?」と息を漏らしながら、慌ててナイフとフォークをカノン様に握らせ始める。


 そして、そのまま彼女を自らの膝から横にある椅子へと引っ越しさせ、何事もなかったかの様に立ち上がって僕の横に並んできた。


「ち、違いますわよ? 今のは……、そう! 正しいテーブルマナーを近くから観察して頂こうととしただけですの! ……ほ、本当ですわよ?」


 僕は横目で彼女をジトっと見つめていると、彼女は執務室の時計を見て何かを思い出した様な表情を浮かべた。

 そして、そのまま僕に耳打ちを仕掛けてくる。


「そうですわ。……そろそろ、次の準備に取り掛かろうと考えているのですが……。このまま予定通りに動いても構いませんのよね?」


 僕はアメリアの見ていた時計を。

 少し遅れて眺める。


「ん? ああ、そうだな……。打ち合わせ通りによろしく頼むぞ」


 僕はアメリアの質問に対して同意の言葉を返すと、彼女は僕の隣からカノン様に視線を送った。


「やはりこの様子では……。『カノン様を【神童】にする』計画は、かなり骨が折れるものとなりそうですわね」


 こればかりは、不本意ながらも。

 彼女の言葉に頷かされてしまう。


 僕らの契約内容の内の一つに──『カノン様を【神童】に育て上げる』という契約がある。


 これを言い出したのは他でも無い。

 この僕自身なのだが……、アメリアも同じ契約条件での契約に同意してしまった為、これは僕達二人が抱える問題なのだ。


 当初のアメリアは単純に──『どちらがよりカノン様を上手く教育できるか』という勝負をしたかっただけなのだろうが……。

 そんな彼女も、カノン様の類稀なるスペックに気づき始めたのか。

 今の表情には曇りも見える。


「そうだな……。何か一芸に秀でてさえいれば、世間的には【神童】としての扱いを受けると言われているのだが……」


 僕が腕を組みながらそう返すと。

 アメリアは冷静に──



『では聞きますが、カノン様の【長所】とは?』



 ──その様な疑問をぶつけてきた。



 カノン様の長所……?


 僕はそんな彼女の疑問に対し、とりあえず二人で遠目から薔薇のスイーツにありつくカノン様を観察してみることに。


 すると、自分の髪と似た色の黄色い薔薇を一生懸命にフォークで差しながら、それを小動物の様にもきゅもきゅと口一杯に頬張っている幸せそうな幼女の姿が目に入る。


「……か、可愛いところか?」


「……か、可愛いところですわね」


 現状……。

 それ以外に言葉が見つからない。


 まぁ、誠実な所や。

 心優しい部分などもあげられるが。

 

 残念ながら、性格面での長所だけでは【神童】の称号を得ることは出来ないだろう。


 僕とアメリアは。

 そんなカノン様を見つめながら、揃って嘆息を付いた。


 やはり、【得意分野】という意味での長所を探さなければ……。


 今、検証した通り。

 物覚えが悪いことから、予想通り【勉学】の方はあまり期待できそうに無かった。


 しかし、諦めるのは早い。


 何故なら、才能というのは誰にでも一つは眠っているものなのだから。

 

 つまり、カノン様にも。

 何かの【才能】が隠されている筈なのである。


 ……万が一、それが一つも無かったと判明したとしても──【超級使用人】である僕が尽力を尽くし、時間をかけてでも何かしらの才能を開花させてみせるんだ。

 

「ともかく、本日の予定は今朝のミーティングで決めた通りだ……。このまま『カノン様の技能測定』を続けるぞ」


 僕は隣のアメリアにそう伝えると。

 彼女もそれに同意する様に頷く。


「では、……次は【運動】のテストでしたわね」


 アメリアはそう呟くと、二階にある執務室の窓を開け、そこに乗り出す様に窓の淵に足をかけ始めた。


「私は先に外で器具などの準備をしておきますので、頃合いを見て貴方はカノン様をお連れして来て下さいな」


「ああ。アレを召し上がって頂いた後、すぐに向かわせるさ」


 そして、アメリアはそこから飛び降り、僕の前から姿を消した。


 

 ──……さて、ここまでの会話を聞いていたなら、もうお分かり頂けたとは思うが。

 

 本日は我が主であるカノン様に。

 様々な【技能テスト】を行って貰う予定となる。


 次は野外にて。

 カノン様の【運動能力】を測定しようと考えているのだが……。


 果たしてどんな結果になることやら。



         *

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