第3話「桃の匂い」

 僕は、フレーバーティが苦手だ。

 味と匂いが違うのが、苦手だ。

 そして苦手だから、なかなか楽しめない。


 こんなに良い香りなのに・・・


====


 仕事帰りに郵便受けを開けると、

 ちょっと嬉しいお便りが、広告に混じっていた。


 お茶の専門店ルピシアから、お便りと試飲のお茶が届いていた。


 部屋に帰って、

 電気ケトルでお湯を沸かし始める。


 今月は何だろうかと、ちょっと楽しみに開封してみる。


 封を切って、すぐに香り立つ。桃のような匂い。

 フレーバーティのようだ。


 お湯を注ぎながら思う。


 桃を食べたり飲んだりするのは苦手なのに、

 どうしてこうも良い匂いと感じるのだろうか。


 いちばん近い匂いは、

 水のい・ろ・は・すで、ももフレーバーだろうか。


 あれは、

 薄い匂いと主張のない味で飲みやすく、良い物だったと思う。


 香りを楽しんで、紅茶を飲んでみる。

 やっぱり苦い。苦くはないのだけど・・・匂いに対して、どうしても苦く感じてしまう。

 苦手だ。こんなに良い匂いなのに、味は楽しめない何て。


 ふと、いつか読んだ小説を思い出す。

 桃の香りがする人の話だった。


 桃が好きではない僕でも、良いと感じる匂い。

 そんな匂いの人が居たら、きっと魅力的に感じてしまうんだろうな。


 飲み終えて、余韻が切れた頃に思った。


 そういえば、

 何て名前のお茶だったのだろうか。


 お茶の名前は、サクランボ。

 果たして此れは、桃の匂いで良かったのだろうか。

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