第46話 琉球沖海戦と『琉球王朝』

元亀3(1572)年6月 京都二条風間館

風間小太郎

 


 この頃の西欧諸国のアジア進出であるが、ポルトガルは、1510年にインドのゴアを翌年マレー半島のマラッカを占領、1557年に海禁政策(民間の海外交易禁止)の明から海賊撃退の功績で、マカオに居留権を得て、同地にカピタン・モールという行政長官兼交易管理管を置いた。

 他方、スペインは1571年にフィリピン諸島を占領しマニラを建設した。去年のことである。


 フィリピンは、三浦高明達が長期滞在して親しくした部族もおり、なんとか助けたかったが、フィリピン全土を防衛してスペインと戦争をするのは、時期尚早と断熱した。

 その代わり、日本に来ているフィリピン嫁の出身三部族1,300人余りの希望者を下田と伊豆諸島に移民させている。


 今、彼らは、漁業や南洋植物栽培を行い、そして若者達は水軍の第三部隊として、3隻の戦艦と駆逐艦の修練に励んでいる。

 日本語の習得には苦労しているようだが、生活水準の高さ便利さに驚き、移民したことを喜んでいるとのことだ。

 部族の未来を担う子らは、学校で様々なことを学び、栄養豊富な食事を取って、すくすく成長していると聞いている。



 彼らフィリピンの若者の水軍を第三部隊と呼んだが、実は第二部隊が既にある。

 その部隊とは、新政の日本と同盟を結んだ琉球王朝だ。

 高明らの南洋遠征を終えた後、通訳をした琉球在住の中国人 周 天涯が琉球王朝に伊豆水軍の進んだ軍事力と南蛮の脅威を伝えたところ、その後に九州に使者を遣わし、日本を視察してその平穏さ豊かさに感銘を抱き、同盟を懇願して来たのだ。

 琉球王家から来た王弟の案内、対応は暇人足利義輝公に任せたけれどね。何故か意気投合して、あっさり同盟の話が纏まった。


 それでまた、あとはよろしくと丸投げされて、俺は、琉球海軍を500名の兵で創設し、薩摩に呼んで訓練をした。

 その陣容は、戦艦など目立つ大艦ではなく50隻の小型蒸気船による魚雷艇とした。

 偽装の帆が付き、見た目では脅威とは思われないのだ。

 外見から戦力を知られないようにし、大海戦となれば、日本から戦艦、駆逐艦を増援するからだ。

 魚雷艇とは言え、小型のカノン砲一門を備えている。この砲でも南蛮のガレオン船の砲の射程距離の倍を越える1kmの射程だ。



 我国としては、東シナ海東端の琉球沖が、海域の防衛 ラインで、琉球との同盟は望むところなのだ。

 

 ここ数年は、イギリス、オランダの台頭はまだ及ばず、ポルトガル国王セバスティアンがモロッコ遠征で戦死してスペインに併合される1,580年までは、ポルトガルとスペインの競合が続くのである。



 今年になって、農地の改良が耕地の5割に達したと農務省の改良寮から報告があった。

 既存の水田の升目整備、新田開拓、田畑の作物変換などを、多様に普請を行なっているから、その農地は相当に増えているはずだ。

 にも関わらず5割とは大したものだ。各地の代官達の奮闘と、農民達のやる気が成し遂げた成果だろう。


 また、耕地ばかりでなく、茶畑や桑畑、果樹林などの植林もすごい勢いで拡大してしているそうだ。なにせ、日々増加しているので、落ち着くまで報告できないそうだ。

 竹林での炭焼きや陶芸窯も各地にでき、その出来を競っているらしい。

 秋には、京の都でそれら各地産品の展示品評会が開かれるとか。


 新政で最も成果を上げたのは、鉄馬車の延長で、運送はもちろん、付随して手紙配達や鉄路に限られるが電信が整備されたことだ。

 たぶん、飛脚という職業は生まれず、手紙配達人に替わったのだろう。

 

 各地の取引所の近くには、商店街ができ飲食店も混じって、賑わいを見せている。その影響で近隣の村や町にも取引所から仕入れた商店や飲食店が増えている。


 軍事面では、松平家康殿率いる第三軍が九州方面軍と名を変え、九州各地に部隊を現地雇用者を入れ再編成している。家康殿や三河の家臣達は、交代勤務だが。

 同様に上杉殿の第一軍は、中国から東国までの北西部方面軍。北畠殿の第二軍は、紀州以北の南東方面軍だ。一条家の第四軍は、四国と瀬戸内の瀬戸内方面軍。

 第五軍は父に替わり、足利義輝公が近衛軍として、畿内と京を担当している。


 水軍は陸戦部隊と切り離し、九州の平戸、黒島、四国土佐、摂津河内、日本海各湊、伊豆、陸奥各湊、蝦夷地などに配置した。




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元亀3(1572)年7月 南九州薩摩国黒島

風間小太郎 



 6年前の奄美沖海戦で敗戦以後、鳴りを密めていたポルトガルのマカオ艦隊が出撃したとの急報がフィリピンの友好部族からもたらされた。琉球を経由して九州の平戸から電信で届いた。

 フィリピンの友好部族とは、移民せず残留した部族で、琉球を経由して生活用品や農具を支援しているのだ。一部の部族民は伊豆に見学や家族に会いに来てもいる。


 フィリピンのマニラに寄港したポルトガル艦隊は、前年フィリピンを占領したスペイン総督に挨拶と帰還時の物資の支援を要請しに寄ったようだ。

 琉球が日本と同盟を結んでいることが、既に知られているようだ。イエズス会の信徒達から漏れたかも知れない。


 ポルトガル艦隊の陣容は、大型ガレオン船ばかり40隻の大艦隊であるとのこと。

 それに対して、我が水軍は、戦艦10隻、駆逐艦20隻を動員し、黒島と平戸に集結した後に琉球へと進軍した。

 あれから6年、ポルトガル艦隊の装備も進化していることだろう。

 だが、蒸気船は19世紀になって発明実用化されるから、ポルトガル艦隊は未だ帆船だ。

 また、大型のガレオン船ばかりとしたのは、遠洋航海の安全性もあるだろうが、重量のある大型カノン砲でも積んでいるのではないだろうか。前回は大砲の射程で圧倒的格差があったからなぁ。生き延びたポルトガル兵から伝わったのだろう。



 それは、琉球に停泊して5日後だった。

 ポルトガル艦隊の警戒に台湾近くまで行っていた琉球の第三部隊が台湾に到着した艦隊を確認して来たのだ。

 報告に戻った魚雷艇2隻は、夜間の危険な航海を羅針盤と星座、そして海図を頼りに乗り切ったのだ。訓練の賜物ではあるが、2隻で戻ったということは、無事帰り着けないことも想定したのだと思う。


 翌朝、我らも出撃し、5kmの間隔で5列縦隊で台湾へ向かった。さらに、その両端に琉球の第三部隊を従えて。

『天気晴朗なれど波高し』そんな東シナ海を進軍する。

 台湾までの過半数を進んだ頃、味方の艦艇の砲撃が聞こえた。砲撃は次々伝達され、艦艇は発見した部隊に参集する。

 我らもここまでは帆走で来たが、進路は逆風であり、一斉に帆を降ろし、蒸気動力に切替えた。



 敵ポルトガル艦隊は、2列縦隊を取って、5列に並列する我が戦艦隊を目指して来る。

 駆逐艦隊は左右に展開するが、射程距離が短いし、砲撃力が弱いと見做されたか、捨置かれている。

 ついに、彼我の距離が詰まり、砲撃戦が始まった。始めに砲撃を開始したのは、ポルトガル艦隊だ。

 各艦が一門ずつ試射をして来る。さすがは手馴れている。こちらは、帆走程度の低速で接近を続け、囮となって駆逐艦の展開を掩護する。


 駆逐艦が左右に展開をしたところで、砲撃を開始。敵艦隊を引き付ける。

 晴天だが波が高く、砲撃は中々当たらない。砲弾は、火炎弾を用いる。敵艦の帆を燃やせば、砲撃の的になるだけだからだ。

 敵艦の砲撃が接近すると、最大船速で左右に分かれて回避して行く。

 

 そのな中、駆逐艦の陰に隠れていた魚雷艇がさらに左右側面回り込んで行く。

 そして、最高速度であっという間に包囲展開して、近距離から魚雷が放たれた。

 この時代にはない新兵器に、敵艦隊は何の対処もできず、ただ再三の魚雷の的となっていた。

 最初の一斉攻撃で、半数近くの艦が沈没大破し、2射3射目で大半の艦が戦闘不能となった。

 俺は容赦なく、艦隊に全艦撃沈を命じた。



 ポルトガル艦隊全滅が明らかになるのは、数ヵ月後のことだろう。

 次の相手は、無敵スペイン艦隊かも知れない。琉球の魚雷艇第三部隊の秘匿を厳重にしなければならないな。




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元亀3(1572)年7月 琉球国首里城

風間小太郎 



 この日、海戦が勝利に終った報告と帰国の挨拶に、首里城へ琉球王を訪ねた。

 謁見の間と思しき広間に、多数の琉球官吏達が居並び何事かと思える。

 見覚えのある王弟が声を掛けた。


「日本国将軍 風間小太郎殿、ここにおわすのが兄の琉球王にござる。」


「風間小太郎と申します。」


「琉球王の尚明である。此度はご苦労、褒美を与えたいがどうか。」


「俺は、琉球の臣下ではない。琉球を護って戦したのでもないから、褒美など無用。」


「なんと、そちは日本国の王の臣下であろう。同盟国の王に無礼であろう。」


「無礼なのは、あなただ。名を名乗れ。」


「琉球国の宰相の呂句周である。」


「俺は、天皇陛下から、代理を申し遣った天皇の名代である。それ故、琉球王とは対等、それでも無礼か。

 なお、言えば、琉球国の態度如何により、同盟を破棄する権限も任されている。

 詫びがなくば、同盟を破棄し直ちに戦するが如何か。宰相殿。」


「申し訳ない。お立場を承知していなかった故、お許しいただきたい。」


「俺は、琉球王とだけ、話しに来た。お前達臣下に話すことなどない。下がれ。」


「小太郎殿、場所を替えます故、ご容赦を。」


「琉球王殿、琉球は日本と戦がご所望か。

臣下が皆、威張り腐っていては、日本の役人が来てもうまくいきまぬぞ。」


「そこの宰相、お前は馬鹿か。一人で百人と戦するのか。礼儀を欲するならば、礼を尽くせよ。

 王弟殿、同盟は時期尚早でしたな。一時保留と致しましょうぞ。」


 そう言って、その場を立ち去ると、翌日には、第三部隊の魚雷艇50隻を集め、乗員を退艦させた上で、武装を引き上げ全て沈没させた。

 第三部隊の兵士達は、只々憮然としていた。王朝でのやり取りは伝えておいたが。

 帝には、琉球王朝は日本を利用しようとしているだけで信頼できず、反旗を翻す恐れが多大と報告した。

 

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