第四章 戦国梟雄打倒編

第31話 官軍創設『鎮守府将軍 足利義輝』

永禄11(1568)年10月下旬 伊豆諸島三宅島

風間小太郎



 この日三宅島に、来るべき帝の新政を担う者達が集められていた。

 公家衆からは、関白 近衛前久、行空こと九条稙通、一条内基、二条晴良、冷泉為益

 公家以外では、足利義輝、風間孫左衛門、松平家康、上杉謙信、北畠具房、そして俺。


 正親町天皇の御前で、新政の骨格を決める御前会議である。


「皆、よう集まってくれた。朕の想いを成す為にここまでの皆の尽力、過分に思う。

 小太郎、始めておじゃれ。」


「はい、皆様遠路遥々ご苦労様でした。今日ここに集うは、民の為の世を作るという帝の願いと志を同じくする皆様でございます。

 端午の詔による民衆への激、重陽の詔による寺社への戒と進めて参りましたが、未だ、敵対する大名が数多おりまする。

 近江六角、浅井、越前朝倉、中国の毛利や諸豪族、紀伊には厄介な傭兵の雑賀、そして九州は手付かずにございます。


 これらの戦国大名らを征討し、一日も早く民を救うには、今までの戦国の戦い方ではなし得ません。圧倒的な武威、圧倒的な兵力、そして圧倒的な勝利が必要です。

 それで、皆様の軍勢を集約し、一軍として編成を行いたいと思います。」


「待たれよ。それは相当に時間が掛かるのではないか。今までどおり、各家の軍勢の方がすぐにも使えるのではござらぬか。」


「北畠殿の申される懸念ももっともですが、いずれ国を帝の下に統一した暁には、日の本の軍を作らねばなりません。

 そのためには、今から他国の兵を混在させ一つの国の軍勢であるとの意識を植付けねばなりません。」


「小太郎殿、それはどのように行うのか。」


「家康殿。まずは各家で侍大将以上の者を士官として集め、軍の指揮を学ばせます。

 また、各家においては農民兵を志願により専従の兵と農民に分離していただきます。

 そして専従の兵を集め訓練致します。

 士官の指揮訓練も、専従兵の戦闘訓練も、二回の六角攻めにて半数ずつ行います。」


「ふむ分かっぞ。しかし我らはどうなる。」


「はい、上杉殿達は作り上げた軍の指揮を取る方面司令官とを担っていただきます。

 これは確定ではございませんが、全部で5軍を予定してございます。

 

第一軍大将上杉謙信殿、中国山陰道攻略部隊

第二軍大将北畠具房殿、中国山陽道攻略部隊

第三軍大将松平家康殿、南九州上陸攻略部隊

第四軍大将一条内政殿、北九州上陸攻略部隊

第五軍大将風間孫左衛門、畿内御所近衛部隊


 第四軍の後見は、俺が致します。それから想定している軍の編成は、近衛部隊を除いて共通ですが、

 足軽の鉄砲部隊1万名、足軽槍部隊2千名騎馬軍団2千名、砲兵部隊大砲50門3百名水軍戦艦1隻、駆逐艦10隻、支援艦20隻と考えております。」


「なんと、一軍で5万の軍勢にも匹敵するではないか。」


「それから、これらの方面軍の連絡調整、補給、総指揮を行う軍司令部を摂津石山本願寺跡に置きます。既に、湊と城の構築は進めておりますので。

 最後になりますが、軍司令部の元帥には、足利義輝殿にお任せしたいと考えておりますが、ご異存はありましょうや。」


「 · · · · · · う〜む。」


「 · · あ、いや、異存がある訳ではないのだ。ただ、あまりの壮大さに驚いただけた。よく考えたものだな。」


 こうして新たな新政府軍が創設されたのである。

 

「皆、異存はないようじゃの。儂から付け加えじゃが申し伝えておく。

 第四軍大将一条内政は、未だ幼いので近衛中将とするが、後見の小太郎と方面軍大将は従三位近衛大将に任ずる。

 そして、元征夷大将軍の足利義輝は征夷大将軍という訳にはいかんでな、鎮守府大将軍

とすることに決した。位階は正三位じゃ。」


「関白殿下が申されたことに。儂からも付け加えさせてもらう。

 いずれ新政が落ち着いたら、公家の世襲を廃することになる。そして官職は家格に関係なく、その人一代限りのものとなる。」


「二条様、幕府なくして親政はどのように行うのでございましょうや。」


「まだ、これから皆と考えねばならぬ。

しかし、律令の失敗を糺して民のための政をせねばならぬ。皆も考えてたもれ。」


「公家の皆様には、民の土地として開放された場所から順次、普請や物流を図って内政を担っていただきます。各家からも引き続き、代官の派遣を頼みます。」




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永禄11(1568)年11月下旬 美濃国稲葉山城

風間小太郎



 ここ美濃に各家の指揮官と専従兵士達が、続々と集まって来ている。その数は3万余。

 今回の兵員は、第一軍と第二軍に配属することにし、用意した武器と装具を支給した。

 新式の鎧は、革製の長袖上下で綿と鉄網で複層構造にした。軽量で防弾効果もある優れものだ。第一軍は赤、第二軍は青で、部隊の区別は模様で分け、肩に金銀銅の階級章を付けた。

 兜は未来知識で作った総兜フルフェイスで、防弾硝子の眼鏡が付けてある。


 下級武士らから騎馬兵を選抜して、騎馬隊の訓練を。体格の良い者達を長槍部隊にして隊列の訓練を。そして、残りの者達に鉄砲の訓練を施した。

 鉄砲兵に配布された銃は、単発ではあるが火縄が不要なフリントロック式でライフリングを施し、射程は従来の火縄銃の3倍ある。

 これらの銃は、各地の戦の戦利品や各家の所持しているものを改造したものだ。

 鉄砲兵には慣れるまで、ただひたすら撃たせる。それから隊列での訓練を行うのだ。


「うぉー、こんな背の高い馬から落ちたらと思うと、生きた心地がせぬな。」


「馬鹿者っ、そのために受身を教えたのだ。

 脇差しは持ってはいかんぞ、落馬した時に切腹することになるぞ。そのために鞍に太刀備えがあるのだ。」


「ひぇ〜、鉄砲撃ちに慣れたら今度は鉄砲槍の訓練かよ。まあ、鉄でできているし銃架で殴っても殺せるかもなっ。」


「こりゃ、そこのお前っ。動きが大きいぞ、もっと、動作を小さく素速くして身体の捻りで鉄砲槍を使うのだ。」


「この長槍は穂先と根本が重いが全体的には今までの半分の重さもねぇんじゃね。」


「こらっ、勝手に槍を振り回すでないっ。お前らの役目は、槍襖を構えて敵兵の突入を牽制することだ。敵が接近するまでは槍の根本側3分の1の所を持てっ。槍の重さの均衡がそこにとってある。敵が槍を振り上げ瞬間に、すかざす突くのだ。分かったなっ。」



 いよいよ実戦訓練だ。訓練場は六角の観音寺城だ。まずは俺が指揮を取り、指揮官達に軍の用兵の見本を見せる。

 六角承禎は、観音寺城他二つの城に兵力を集め、互いに連携して包囲した軍勢を背後から破る構えのようだ。

 で、俺は観音寺城を包囲するとともに、他の二城から観音寺城に向う道筋に伏兵として軍勢を配置した。

 観音寺城の包囲に1万、伏兵に1万ずつ。ちょっと過剰戦力の気もするが訓練だから良いだろう。

 1万の兵は、10の1千の部隊に分散させ各々独自に戦うよう指示した。

 各部隊の隊列は、最前列が槍隊200、主力となる鉄砲隊が400ずつ二列。残り200は、指揮官に従う近衛で、左右に100ずつの騎馬隊が待機する。砲兵隊は移動のお荷物になるので、観音寺城包囲に集めた。


 観音寺城を包囲し、砲兵隊の訓練を始めた。砲兵のには指揮官だけが経験者であとは新兵が配属されている。

 これまで、組立修理や照準までの訓練はして来たが、実弾射撃は初陣だ。各々の指揮官の指示する目標に向けて射撃を開始する。

 訓練なので、実にゆっくりだ。1回撃つごとに指揮官から、修整すべき事項の叱咤説明を受けているのだろう。

 

 ゆっくりペースだが、どこへ飛んでくるかわからない砲撃に、城内はどよめいている。

 観音寺城攻めのこの様子は、領民の中に六角に与する者がいたと見え、他の二城で動きが出たと報せが届いた。

 夜間の砲撃は成果が見えないので中止し、翌日再開した。すると昼前には他の二城から

2千余りの軍勢が出て来たとの報せ。

 そして、昼過ぎには壊滅した。斥候を全て葬られ、盲目の状態で完全包囲されなす術がなかったらしい。

 他の部隊の後塵を拝し、訓練にならなかったとぼやいている指揮官も少なくなかったという。


 肝心の観音寺城だが、5日間の砲撃で降伏を申し出て来た。まだ半分も壊していないから、もう少し堪えて欲しかったが仕方ない。

 六角家の仕置きは、従来どおり。女子らは都に住まいを与えて暮らさせることとした。




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永禄11(1568)年12月中旬 近江国小谷城下

上杉家家臣 樋口兼豊(直江兼続の実父)



 なんということであろか。浅井長政の居城小谷城に着陣して半刻、我ら第三軍は砲兵隊で天守の周囲にある郭を砲撃し、女子供らの退避を勧告して退避を見届けると、再び天守を砲撃してものの半刻もなく、城を壊滅に帰してしまった。

 既に野戦で第四軍が1万2千の浅井勢を壊滅しておるから、小谷城に籠もったのは3千にも満たぬ兵だろう。

 が、しかし、城から打って出ることも叶わず、門内で討ち死にするとは圧倒的過ぎる。

 軍神と言われる我がお館様でさえ、攻城には手こずるというのに、わずか着陣して1刻足らずのうちに落城させるとは、鬼神の如き神技じゃ。


「樋口殿、どうした呆けた顔をして。」


「直江殿か。このあり様を見て、直江殿はなんとも思わぬのか。城など何の護りにもならんのだぞ。」


「ああ、俺もそう思ったし、風間家の重臣に尋ねたぞ。こんな城攻めがあるのかとな。

 そうしたら、いずれ南蛮の国々がこのように攻めて来る。だから我らはこのような戦を知り、このような攻めに耐えられる城を築かねばならぬと申された。

 もし、このような戦を知らぬままだと、日の本の国は、南蛮に一溜りもなく征服されてしまうであろうな。

 帝の傍におられる方々が、危機感を抱かれるのも、納得だ。」


「そうか。これが日の本を一つにしなければならぬ理由か。よし、見ておれ。この攻めにも耐える城を作って見せるぞ。」


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